(大学院)工芸デザイン分野 山崎 隆弘
タオルタイル
TOWEL TILE
内装素材の質感に関する工芸的試み 記憶を形にするタイル
1. 制作研究の概要
内装素材の多くが工場生産されている現状に対して疑問を持ち、手仕事の持つ味わいのあるタイルを現在の工業技術でつくる事を主題としている。
第1章ではタイル産業が盛んな岐阜県多治見市周辺の製造企業を訪れ、製法や生産規模の異なる3社への聞き取り調査を行なった。これにより国内のタイル業界の抱えている課題と、海外との技術差を知る事となる。国内での需要減少と、来るべき循環経済社会への取り組みという課題に辿り着き、他の企業が行う持続可能性への取り組みについて調査、列記した。
第2章では現在のトレンドである石や木材に似せた製品群を取り上げ、タイルの機能特性を保持しながら他の素材に化ける事を「擬態」と定義し、その歴史を振り返った。更に技術進化により生産可能となった超大判タイルを「異態」と定義し、モダニズムの文脈の中での正当進化である事を論じた。その上で今後の循環型経済社会への対応という課題を取り上げ、新しい存在価値を含有した「異態」としてのタイル制作を目標と定めた。
第3章では触覚や味覚を視覚的に知覚できるタイルの企画書作成と、製品試作の過程を記述した。人々の知覚記憶を呼び起こし、共感する事で愛着と魅力を生じさせる事を目的としている。いずれも色彩や艶などの視覚的要素は最小限にとどめて質感表現に注力し、サイズは内装100角タイルに準じた工業製品としてデザインしている。CASE STUDY_1では大多数の人々が体験している触覚としてタオルに着目し、視覚的触感の表現を試みた。質感表現のため湿式リプレス製法という前世代的な製法を用い、タオルの持つ安心、安全な記憶を想起させるタイルを試作している。CASE STUDY_2は1からの発展形として、様々な記憶をタイルとして形に残す方法論を組み立て、地域のありふれた風景や文化を含有したタイルを採集地で建材として利用する地産地創タイル(名称:ツクルタイル)の企画書を作成、作例として2種の樹皮タイルを制作した。これらの試みから「記憶を形にする」という方向性が明確となり、CASE STUDY_3では味覚の記憶をテーマにした企画を構想した。幼少期から嗜好し数多く知覚体験を持つ甘味をテーマにしたタイル群を、企画書(名称:BAKE)の形で作成している。
いずれの成果物も本来の工業製品としての機能を担保しつつ、意匠性や機能性だけではない物語性を含有しており、新しい存在価値を持ったオブジェクトとしての方向性を示すものとなった。内包された物語を感じ取る事が魅力となり、魅力創出こそが持続可能性を推進する手段だと結論づけている。
2. 制作研究の背景・意図
様々な機能素材に需要が分散し経済合理性が優先される時代において、タイルの優れた耐久性は必要性能に対してオーバースペックと見做される傾向にあり、国内における窯業製品の生産量は極端な減少は免れているがここ数年は横ばいを続けている。国内外を含め、業界では様々な試みが行われているが、トレンドを牽引する欧州と、日本国内では生活文化が異なり、需要が相容れない状況が見て取れる。成熟期から衰退期へ移行しつつあるタイル業界が工業から伝統工芸へ変化する途上にあるのかもしれないが、その様な状況であるからこそ日本独自の新しい方向性が必要なのでは無いかと感じ、今回の制作研究に取り組む要因となった。作家が造形する作品ではなく、あくまで空間構成の工業素材として取り組んだのは、まだ工業製品としての立ち位置を保持したいという自身の個人的願望が込められている。
3. 制作研究の位置づけ
先端技術ではなく、湿式リプレス製法という前世代の製法による提案は、多様性が求められる時代において有意義な試みだと考える。経済合理性が優先される社会では手間暇のかかる手工業製品は一部の好事家や富裕層を除き避けられる傾向にあり、対象となるものも懐古的な要素が強い。だが生産消費を短期間で繰り返す社会から循環経済社会へとシフトする過程では、長く愛着を持てる素材が推奨され必須機能となるかもしれない。本制作物が循環経済社会における優良な素材選択の一候補となり、物語が込められた素材に愛着を持つ人がいる事を願う。
ツクルタイル
TSUKURU TILE
プラタナス
PLATANUS
ツクルタイル
TSUKURU TILE
ユリノキ
TULIP TREE
山崎 隆弘
(大学院)工芸デザイン分野
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