(大学院)工芸デザイン分野 守屋 仁美
『気持ちを伝えるツール』の制作 ーデジタル古裂帳の活用例ー 熨斗袋
受け継がれてきた豊かな文化 ― 辻が花にみる絞り染めの変遷と、デジタルデザイン及び活用例 ―
本制作研究の主題は、辻が花にみる前期と後期の表現の違いを明らかにし、その実像に迫る事にある。特に、絞り染めの役割の変化に焦点を当て、その変遷がどのような意味を持つのか、またそれがどのような時代背景に基づくものかを考察した。これらの探究を通じて、辻が花という「室町時代中期から安土桃山時代を盛期として江戸時代の初期にかけての間、縫い締め絞りという技法を主として、これに摺り箔・描き絵・線描き・色差し・刺繍などを付加し紬や練緯と称される平織の絹地に文様を染めた衣服。」に込められた文化的意義を再評価し、そして付属資料においては伝統文化の継承と現代的な応用の可能性を模索することを目指した。
先ず、辻が花という名称の正当性をめぐる議論については、先行研究を踏まえながら検討を行った。この名称には批判的な視点もあるが、本研究ではその名称を尊重する立場を明確にし、それが染織文化全体の価値向上に寄与するとの結論に至った。続いて、辻が花の前期と後期における表現の違いについては、具体例に即して検証を行った。その結果、絞り染めの役割の変化に起因すると結論付け、変化の背景には時代の転換が影響している事を明らかにした。
さらに、付属資料の主題は、デジタル技術を活用し、『デジタル古裂帖』と題して連続模様のデザイン制作を行い、それらを活用したプロダクトの提案をする事にある。連続模様の作品制作にはPhotoshopなどのデジタルツールを活用した。連続模様には、それぞれタイトルを付け、デザインに込めた思いや意図を表現した。そして『デジタル古裂帖』としてまとめる際は、古裂帖特有の無秩序で自由な魅力を尊重し、作品をランダムに配置した。
そしてその中から、吉祥文様にインスパイアされた連続模様を中心に用い、『気持ちを伝えるツール』として熨斗袋、ポチ袋、ギフトボックス、メッセージカードといったプロダクトを制作し、活用例として提示した。これにより、吉祥文様が現代の生活に新たな形で根付く可能性を示した。
制作媒体としては、デジタルデータをインクジェットプリンターで印刷したマット紙を主に使用し、一部に小津和紙を取り入れた。また、メッセージカードには熨斗袋、ポチ袋、ギフトボックスの制作過程で生じた端材を活用し、リソースを無駄にしない環境への配慮と創造性を両立させる工夫を行った。
次に、本制作研究の背景にある、問題意識について述べる。
⑴ 辻が花の前期と後期における絞り染めの変化を解明する事。
⑵ 日本文化への理解を深化させるための展望を模索する事。
⑶ デジタルデータはブロックチェーンで所有権や作者を明確化することは可能である一方、容易に複製されてしまう現状を踏まえ、物理的な価値を持つ作品としての意義を創出する事。
⑷ デジタルが主流となる中で、手渡しや手作りの温かみや、贈る、受け取るという行為の意味が希薄化している現状への対策を考える事。
⑸ 伝統的な文様を現代的に再解釈し、広く認識される形で提供する事。
⑹ プロダクトの制作過程で生じた端材の活用を通じ、環境への配慮と持続可能性を追求すること。
これら⑴~⑹の問題意識を踏まえ、本制作研究を通じて解決への探求を行った。
最後に本制作研究の位置づけを述べる。論文では、辻が花の前期と後期の表現の違いに焦点を当て、絞り染めが果たす役割の変化とその背景にある社会的・歴史的要因を論じたが、単なる美術史的な考察に留まらず、社会的背景や時代の変遷との関係を包括的に考察した。また、辻が花の名称に対する批判的視点にも触れつつ、名称を尊重する事が染織文化の価値向上に寄与するとの立場を明確にした事で、辻が花の文化的意義を再評価する新たな視座を提供した。
論文の特徴は、辻が花の模様表現の変遷を辿りながら、社会背景との関係性を総合的に考察し、辻が花の深層に迫った点にある。
そして付属資料では、デジタルデータを「版」として捉え、プリントアウトしたマット紙を使用したプロダクトは新しく、デジタルとアナログの融合が齎す可能性を示している。また、熨斗袋、ポチ袋、ギフトボックス、メッセージカードといったプロダクトを『気持ちを伝えるツール』と位置付けた点が特徴だ。
さらに、端材を再利用する事で、持続可能性への配慮を取り入れつつ吉祥文様や禅画の要素を現代生活に即した形で再構築し、文化継承を目指した。
付属資料の追求するデジタルとアナログの融合は、国内外の先行事例に対し新しい視点を提示している。
本制作研究は、辻が花や吉祥文様というテーマを通じて、伝統文化の継承や再解釈の可能性を問う文化研究としての意義を持つ。
『気持ちを伝えるツール』の制作 ーデジタル古裂帳の活用例ー ギフトボックス
『気持ちを伝えるツール』の制作 ーデジタル古裂帳の活用例ー メッセージカード
守屋 仁美
(大学院)工芸デザイン分野
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