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(大学院)工芸デザイン分野 神保 節子

本作品 《 楮の泉Ⅰ》
H70×W70×D70㎝ (置き)

Photo by 宮下昭徳


素材から始まるものづくり ― 楮の美しさをひきだす ―

「自然」をテ―マにファイバーアート作品を制作しているが、2~3年前から今まで自分が使ったことのない新しい素材を自然の中から見つけたいと考えていた。新しい素材の発見は、楮を伐採するところから体験した手漉き和紙研修会にあった。和紙を漉くために楮の繊維を細かく砕く叩解前の楮の皮が手の平の上でハラハラとほぐれる様子を見て、この美しい繊維が素材開発の可能性を秘めていると感じ、楮の皮から素材をつくりだす研究をめざすこととした。
 第1章では楮の学名、生育状況、用途を調べた。楮の刈り取りと紙を漉く前までの簡単な工程も説明した。第2章では樹皮を使った生活用具を取り上げ、衣服、道具や技術、紙、和紙と日本人について記述し、日本人の和紙を大切にする気持ちについても言及した。楮は古代から使われてきた樹皮の仲間である。素材としての楮を研究するために、これまで樹皮がどのように使われてきたのか、樹皮が素材として果たしてきた役割の情報を収集して学ぶことは必須である。樹皮から生まれた衣服や道具の歴史を読み解くと、紙の誕生や日本での和紙につながり、さらに和紙の素材である楮にたどりつく。第3章では楮の皮の美しさをひきだす素材をうみだした。市販の楮の皮3種類①黒皮、②白皮、③白皮叩解前(晒)を使用した。①黒皮や②白皮は購入した状態では乾燥していて、硬くてパリパリで曲げると割れそうである。まず水で皮を柔らかくして、ほぐしてから繊維のシートを製作した。③の白皮叩解前(晒)は初めからフニャフニャで軟らかい。これらのシートを使って、さまざまなミニアチュールを試作、検討することで、最終的な本作品を目指した。
 本作品を制作するためには、楮の繊維シートの性質を把握することが不可欠である。ほぐして乾燥した繊維シートは20㎝ほどの長さであれば真っ直ぐ手で持つことができる硬さである。それ以上長くなるとしなってシートの先がたれてしまう。簡単に曲げることはできるが、曲がった形は維持できない。手を離すと元にもどってしまう。繊維シートの色は3色、①黒皮は緑がかった薄いベージュ色、②白皮は薄いベージュ色、③白皮叩解前(晒)は白色である。繊維シートを平面のまま置いてみたり、立ててみたり、球や輪や螺旋の形を作ったり、縦・横・斜めに重ねてみたり、試行錯誤の連続であった。今回は試行錯誤しながら作品を組み立てていくので、作品タイトルを決めて制作するのではなく、制作しながら最もふさわしいタイトルを決めることとした。古代から現在まで使われ続けている樹皮の歴史を知り、人類との深い繋がりや自然から頂く命の大切さを感じているので、溢れ出る生命力や楮の精霊を感じる作品を制作することにした。中心の造作は細かく、外側へ移動するほどに大胆に大きく現すことで大きな力のうねりを表現した。大地から水が湧き出るように、楮の生命力が湧き上がる。繊維シートの色を組み合わせながら、思いつく形を自由に作り、次々に繋げていく。どこからともなく溢れ出る楮の生命力を現す作品のタイトルを《楮の泉》とした。
 ミニアチュール9作品を制作するなかで気づきがあった。楮以外の素材や色を使用すると作品のテーマやコンセプトが変わることを発見し、楮の素材としての広がりを示唆していると感じた。楮の皮が引っ張っても簡単にはちぎれない強靭で丈夫な力強さを持ち合わせていることを確認し、楮の繊維は美しいだけではなく、美しさと力強さが混在していることも知った。この力強さは楮が古代から現代まで生き抜いた証であり、楮の素材としての新しい可能性を示すものである。また、本作品制作中に立体造形について考える機会を得て、素材との対話が大切なことを実感した。素材は使うものではなく一緒に作品を作りあげるものであること、楮の美しさをひきだす表現とは素材本来が持っている力と自分の思いを繋げることであった。
 この研究の目的は、楮の皮の可能性を探求し、楮の皮が作品の表現を広げる新しい素材になりうるのかを検証することであった。素材をうみだすところから作品を制作するのは初めての経験であったが、本作品《楮の泉》において、楮の皮が作品に加えることができる環境にやさしい独自の自然素材として充分に存在感があり、楮の美しさをひきだすことができたと確信している。

ミニアチュール2 《 生命Ⅱ》
H25×W25×D25㎝
楮・ベンガラ

ミニアチュール8 《 水の精霊 》
H30×W30×D38cm
楮・大和藍・アクリル絵具

神保 節子

(大学院)工芸デザイン分野

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