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(大学院)工芸デザイン分野 細川 光夫

「絶頂諏訪」展全景(旧東洋バルブ諏訪工場跡地 仮称:MOVCA)
地域の産業遺構を現代美術館に見立て1日だけの展覧会を開催した。
「 CLIMAX SUWA」2024 @MOVCA Panoramic view of the exhibition


「絶頂諏訪」 ― 地域信仰と産業の美的クライマックス ―

1. 制作研究の概要
 特異な郷土の信仰と産業に沈潜する美を発見し可視化する、それが本研究の主題である。それは郷土に眠る民俗的美をアートとしての視点からとらえなおし、民俗的なるものを現代美術へと接続、昇華する試みでもある。民俗学的ともいえるアプローチから諏訪信仰祭政体の中世以前の土着の神にフォーカスし、その信仰の深部へ突入しながら、地域産業から生まれた工業製品に見る身体的・風土的工芸美や、産業遺構の美的意義を最発見する。そして地域信仰と産業に重なる過去・現在・未来の文化的レイヤーの時間と場所をつなぎ合わせることで生れる作品の物語だ。
第1章では中世、諏訪信仰最大の秘された生贄の祭祀「御頭祭」と、現代における諏訪信仰最大の祭祀「御柱祭」の対照的なコントラストから、その深部に眠る地下水脈ともいえる忘れられた神々の発見者である在野の郷土史家・今井野菊を通して中世以前の本来の諏訪信仰祭政体を俯瞰する。
第2章では世界を席捲した諏訪製糸業の絶頂と衰退から、東洋のスイスと言わしめた精密機械業のメッカとなる諏訪地方の産業の変遷の中で生れた工業製品や人々の物語に眠る美の物語を再発見する。そして諏訪の近代産業のエネルギーを具現化したような旧東洋バルブ諏訪工場跡地の建築的意義を、フランスの産業遺構が現代美術館になった例をあげ、旧東洋バルヴ諏訪工場跡地の現代美術館構想への妄想を披歴する。 
第3章では近年二一世紀のアメリカ民俗学において頻繁に使用されるようになった、地域(地方)特有性を意味する「ヴァナキュラー(vernacular)」という言葉から発生した、地域特有な美術‘という意味を持つヴァナキュラー・アートにも接近しつつ、地域信仰と産業の変遷から可視化した作品をつかいコンセプチャルな現代美術への越境をくわだてる。そしてその作品を展示する場所は旧東洋バルブ諏訪工場跡地とし、そこを現代美術館に見立てる。美術館の名前は仮称Museum of Vernacular Contemporary Art(ミュージアムオブヴァナキュラーコンテンポラリーアート)の頭文字をとり「MOVCA」として展覧会を行う。

2. 制作研究の背景・意図
諏訪地域は諏訪信仰が地域コミュニティーに与える影響が他の地域よりも格段に大きい、郷土の一信仰に収まり切らない何かを感じている。それが何なのか本研究がきっかけとして、正面から郷土に向き合い、諏訪の風土に眠るものを発見することが自分の一つの表現の形になるのではないかと考えた。地方特有な美術や民俗的な美術はアートとして語られることはほとんどないが、その未知の美しさや力、主流に対しての地域の非主流からの対抗概念としてこの研究に見た郷土の信仰と産業に重なり合う風土的レイヤーを可視化したとき、それはどこにもありそうで、どこにもない、世界に接続しうる美となりえるのではないかとさえ思えた。今回の表現方法は絵画でもなく、彫刻でもなく、映像でもない。物語を語る立体作品となった。制作にあたり郷土の大工の棟梁や、伝統的な木を鉋でうすく削りおんべをつくる数少ないおんべ職人の方、町工場の鉄加工の技術者の方など、地域の高度な職人の方々にもご協力をいただいた。このような方々が身近にいることもこの諏訪地域の特徴だ。

3. 制作研究の位置づけ
地域信仰と産業に発見した多くの美を可視化するための作品の概念を必要とするとき、たどり着くのは地域特有性を意味する「ヴァナキュラー・アート」であった。「ヴァナキュラー(vernacular)」という地域(地方)特有性を意味する用語は、二一世紀のアメリカ民俗学において近年、伝統文化も含む現代の多様な文化現象を対象とするなか頻繁に使用されるようになった。ヴァナキュラーはもともと土着性を示す形容詞であり、公用語にたいしての地方語のような対比として、主流にたいしての非主流、文化的下位に位置する未知の美しさや力、主流に対しての非主流からの対概念でもある。
また、本論でもふれたが日本でも東日本大震災以降の現代美術の流れを現代美術の民俗学的転回と名づけた研究者もおり、2000年代から2010年代にかけて、現代美術の現場に民俗的な特徴や傾向が顕在化して来たことが指摘されている。また、東日本大震災以後、地域住民から聞き取った民話をもとに作品を制作したり、作品の中で創造的な神話を自ら物語ったりと、民俗学的な主題を表現するアーティストが明らかに急増してきたがそれだけではなく、その土地の風俗や歴史をあらかじめリサーチという方法が一般的になったのも、2010年代以後の現代美術の大きな特徴だったとしている。本研究も風土と調和するかたちで作品として表現するだけでなく、民俗学的なアプローチで郷土とその風土に対峙することでそこに眠る美を発見し可視化した作品はコンセプチャルな現代美術との親和性を問うものだ。

「ヘイデイ」2024年 「Hey day」2024 
132.0×90.0×150.0cm 

「風の祝(かぜのほうり)」2024年 「Celebration of the Wind」2024 
215.0×80.0×80.0cm

細川 光夫

(大学院)工芸デザイン分野

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