(大学院)工芸デザイン分野 大中原 千陽
『依拠Ⅱ』 3000×3000(mm) 藍、赤土、珊瑚粉末、布
素材と場所から派生する活動の在処 -制作活動と社会的活動の根幹とその意義-
1、制作物・研究成果物の客観的記述
筆者は、日々移りゆく沖縄の環境に着目し制作活動を行っている。現在は絵画的手法を応用する形で地域素材を用い、作品を通して素材と場所をつなぐファイバーアート作品を制作している。素材の探求からはじまり、素材が生まれた場所の歴史、生産者の想いや肌の記憶、生命を基としその全てが結びつき作品が存在する。素材と場所、場所と作品がそれぞれ呼応し合い作品の存在意義を持つと考える。
また制作活動とともに、保育園や美術館、地域施設などで主に未就学児の親子を対象に地域の身近な環境をテーマとしたアートワークショップ(以下WS)活動も行っている。美術の専門知見を活かし、地域の植物を用いた筆づくりや染色体験、自然物の色彩を組み合わせた作品づくりなどを展開している。WSを通じて他者との交流を促し、生活の中にある身近な素材に目を向ける契機となるよう取り組んでいる。
地域の素材探求からはじまる制作活動とWS活動は、どちらも素材から派生するストーリーがあり共鳴のようなつながりがあると考える。また制作活動とWS活動は、活動を通じて人々を結びつけ気づきや交流から地域や社会的課題に目を向ける場にもなる。
ここでは素材から作品制作に至るまでの軌跡と地域環境から人々のつながりを通して派生していくWS活動について、制作者の目線からそれぞれの活動の根幹と存在意義に着目し考察していく。
2、制作研究の背景・意図
制作活動では、作品素材としてリュウキュウアイと赤土を主に使用している。リュウキュウアイは紅型や芭蕉布など沖縄を代表する染織に使われてきた植物である。また、消臭や防虫効果があり琉球王朝時代から沖縄の人々の暮らしの中で活用されてきた。しかし近年塩害による気象要因や栽培の難しさ、農家の高齢化などで収穫量は減少傾向にある。
赤土は雨が多く温暖な気候である沖縄特有の土壌の一種である。赤土は、大雨や台風により農地や米軍基地から海に流れ出すことによって水中生物の生態系に影響を与えたり沿岸海域のサンゴ礁を破壊したりするなど、水産業や観光産業などへの影響が長年に渡り問題視されている。一方で農作物を育てる腐葉土や陶芸、首里城の赤瓦の復興にも使用されている。日々往々に変化する環境の中で、非永久である地域素材と人が共存していくための歩を考えていく必要がある。
WS活動では、子どもたちの生活環境や遊びの形態が多様化する中で、乳幼児期から地域文化や芸術、環境資源に触れる機会を得ることが重要と考え活動している。筆者は、美術家としての素材や技法に関する知見と保育者養成校での指導実績、保育現場での実践の蓄積による乳幼児の発達や必要な配慮に関する知見を活かし、美術と保育を横断した内容で未就学児の親子を対象としたWS活動を数多く行ってきた。WS活動では、参加者同士の交流や身近な環境に目を向け素材を通じて地域環境や文化芸術に触れる機会を得ることを目的としている。
3、制作研究の位置づけ
作品制作は身近な素材の歴史を知り生産者やその場所の記憶を丁寧に辿ることからはじまる。自分自身と向き合い身近な生活の中から作品が生まれ制作活動を通じて人、場所、社会と広がっていく。WS活動は生活の中にある身近な素材を知り、製作活動を通じて他者との交流や地域環境、文化芸術に興味や関心を育み活動を通じて社会的課題に目を向けていく活動である。
制作活動とWS活動を横断しながら活動を続けていくことは、学びへとつながり相互に影響し合いながら活動の深化に結びついている。個からはじまり出逢いを積み重ね広がっていく制作活動と、個々から結びつき派生していくWSはそれぞれ相助し合いながら社会へつながっている。沖縄の環境課題に着目し地域素材を用いた制作活動と地域の素材を用いたWS活動は、身近な環境に焦点をあて人と環境が共に歩んでいくために模索していく共通の道筋がある。
流れる時間、空気、大地、自然、素材、全てが非永久であるがゆえに、儚く力強い美しさがあると考える。歴史を重ね記憶を刻んだ土地から生まれる作品がまた、新たな記憶やときを重ね土地に還りその場所と作品が呼応する瞬間を大切に読み解き表現していく。今日の社会状況の中で、制作者として限りある素材、場所の歴史、環境課題に目を向ける契機となる制作活動、WS活動を多角的視点から考察を重ね、今後も継続的活動として研究を行っていきたい。
『Existence』 5000×900(mm)藍、布、城跡にて撮影
『お花やはっぱのカラフルカーテン』 ワークショップ風景 / 沖縄県文化振興会 令和4年度文化活動支援助成事業
大中原 千陽
(大学院)工芸デザイン分野
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