さすがの「志の輔らくご」

2月 01日, 2012年
カテゴリー : プロデューサー目線, 過去の公演 

1月24日、パルコ劇場に行き『志の輔らくご』を聴いて来ました。20回の公演は全て完売という盛況でしたが、何とか席を取っていただけました。着席すると前方のお客様が私の方を振り返って見ているではありませんか。私が注目されるわけがないので左右を何気なく見ると左隣にMr.マリックさんが座っていました。面識がないので声をかけませんでしたが他にも有名人の方がいろいろ来ていたようです。
緞帳が上がると、一面、定式幕のパステル版といったパネルが目に飛び込んできました。
これだけでも普通の寄席とは違うという先制パンチです。「このセットの問題点は衣装の色をどうしたらいいのか難しい」「500人のお客様が20回で1万人、武道館でやれば1回で済むのに、小出しにやっています」など前振りで笑わせたあと、突然、1席目に入っていくタイミングの良さに唸らせられました。
遅刻を1回もしたことのない教師が、遅刻の理由をタイムマシ-ンから降りてきた宮本武蔵のためと生徒に語る話。こう書くと面白くも可笑しくもない話が、志の輔さんが語ると爆笑の渦となるんですね。生徒があきれて、一人また一人教室を出て行くくだりなど哀愁さえ感じさせるから不思議です。1席目が終わると巌流島をモチーフにしたアニメーションが写されるのも「志の輔らくご」ならではの趣向でした。
2席目は「雛人形」で有名な町をフランス大使夫人とお嬢さんが訪ねるお話。
これも素朴な庶民と大使館員とのちぐはぐな会話が笑わせます。この話が終わると今度はカーテンが開き、雛段に劇団員が生きた雛人形に扮して立っているという趣向。本当に凝っていますね。
そして、圧巻だったのは、古典落語の「紺屋高尾」。紺屋職人が花魁に恋をしてしまうという荒唐無稽の話を、現代の人間模様として、説得力を持った一人芝居に仕上げているのです。「今や吉原を知っている人も行ったことのある人もほとんどいません」という中で、若い人たちも十分ついていける話にした感覚こそ、志の輔さんの凄いところだと思います。
5月の春秋座公演が本当に楽しみです。春秋座の雰囲気を完全に手の内に入れた志の輔さんが何をやってくれるのか期待していてください。

さて、私は東京で不思議な経験をしました。パルコ劇場を見た翌日、浅草で歌舞伎を見て、市川亀治郎さんに挨拶した後、銀座で演出家の水谷幹夫さんと待ち合わせをしました。
昔の日劇の玄関であったところで彼を待っていると、銀座方面から何とMr.マリックさんがマネージャー風の男性とやって来るではありませんか。もちろんそのまま通り過ぎましたが、2日続けての最接近、その偶然さにびっくりしました。
これもMr.マリックさんの超魔術なのでしょうか。

橘市郎
(舞台芸術研究センター プロデューサー)