- 2020年4月8日
- 日常風景
ゼミ通ヒーローズvol.22 辻村奈菜子と「医療とメディアアートの連携について語るの巻」
辻村奈菜子と「医療とメディアアートの連携に ついて語るの巻」
脱出ゲーム制作中の辻村奈菜子さん(左)。
村上
定番の質問からなんだけど、まずはつじ子(辻村)がこの道を志した理由から聞かせてくれるかな。
辻村
最初は英語系の大学に入ろうと思ってたんですよ。英語が得意やったし、英語しゃべれたらカッコいいし、とか思って。でもやっぱ急に芸大に行きたいかも知れへんってなって、入試の一か月前くらいに突然路線変更したんですよ。
美術の先生が「辻村は美大に行った方がいい」と言ってくださって。で、行こうかな、でした。オープンキャンパスに行ってみたら全体的に楽しそうで、やっぱりキャラクターを描きたかったのでキャラデに決めました。
村上
芸大で何をしようと思ってた?まだゲームの道を究めようとか、そんなことは考えてなかったよね。
辻村
最初は単に絵を描くのが楽しいなー、くらいで。将来の目標も何も見えてなかったです。今も絵は描いてるんですけど、ゲームプランナーになりたいのかデザイナーになりたいのか、それも決めきれずにフラフラしてます。
村上
つじ子は一年生の頃から発想力が高くて、かなりぶっ飛んだアイデアを出す場面が多かったから、そこが印象的だった。授業中につじ子が発言すると「きっと何か面白いことを言うに違いない」って周りも注目するような場面が多かったよね。もしかしたら自分が考えてるつじ子像と周りのイメージとのギャップもあるのかも知れないけど。
辻村
元々絵を描くだけじゃなくて、なんか作るのが好きなんですよ。ゲームの領域やったら、絵を描くだけじゃなくて、プログラミングをするかも知れへんし、工作するかも知れへん。そんな感じでなんか幅広く色々出来そうかなって思って。
村上
そんなつじ子は、今回ゲームゼミと大阪市立大学医学部との共同研究でゲームを企画するプロジェクトを行なって、2月半ばには発表会もあったので、その時の話を聞いていこうかなと。
で、その前にまずはプロジェクトの概略のおさらいから。これはメディアアートと医療の連携として進めていた研究プロジェクト。通常業務や研修会等で医療従事者同士がもっと円滑なコミュニケーションをとることによって医療事故を無くすための実験をしてみようという話。それには説明をするんじゃなくて、メディアアート、所謂アニメーションやイラスト、漫画やゲームを使って、人の動きを変容させるための研究ができないか、という企画内容だったね。
大阪市立大学医学部付属病院の研修室にて、カードゲーム「老害集会」のプレゼンをする辻村さん。
辻村
そうですね。で、今回は医療関係者同士のコミュニケーション、というか研修の場で職種や立場に関係なく色々意見が言いやすいようにするためのコミュニケーションゲームを作ることにしました。
そこで自分らが作ったゲームが「老害集会」で、自分たちが老害であることを再認識するゲームです。内容としてはほぼカルタです。読み札に描かれたイラストの老害になり切って読んで、そのセリフや演技に該当する絵札を奪い合う遊びになります。
村上
ではゲームの内容と併せて、制作プロセスについて話していこうか。
辻村
企画会議で行き詰ってる時に、チームの人と雑談みたいな感じで「グループワークが苦手な人って多いよな」って話になって、その時に会話がうまくいかない例を出しながら話してたら先生も色んな例を出してくれたんですよ。
昔、開発現場でディスカッションがうまくできないチームがあって、その理由が「自分の意見が正しいはずだから他人の意見は聞きたくない」っていう人がいたとかで、それ聞いて「そんなやつおるんすか!?それめっちゃ老害やないですか!」って。
村上
それって老害だよね。から、じゃあそもそも老害って一体何なの?て突っ込んだあたりからディスカッションが深まっていったよね。
辻村
最初は単純に「あなたはどんな老害かな?老害チェッカー!!」みたいなノリで話してたんですよね。でも老害かどうかをチェックするだけで終わってしまって、ゲームにもなってないし面白くもなんともないし。
そこで、見方を変えれば誰もが老害だよね、って話になって。自分が老害であることを認めさせるゲームって面白くない?って話になったんです。
村上
ここでいう「老害」は、老人のことを指すわけではないよね?
辻村
そうですね。例を挙げて話すうちに「それって若者にもおるよね」ってなったんですね。小学6年生の時にポケモンの新作が発表されて、その時自分で詳しく確認もしてないのに「新しいシステムとかいらんし!自分の世代のポケモンが一番良かったし!いらんいらん!」と感じてたことを思い出したんです。結局はどのポケモンも大好きになるんですけど、自分で見ようともせずに最初から否定するのって、めっちゃ老害やんな、ってなったんです。
村上
老害の定義って何?
辻村
人に迷惑をかけてることに気付かず、自分の考えが正しいと感じること、ですかね。要は自己中心的なやつってことですけど。
村上
マウントをとりたがるとか、反発したくなるとか、昔は良かったとか。こういう人種をひっくるめて老害だと。
テストプレイで使用した「老害集会」の試作品。
辻村
そういうことです。カードには色んな老害のパターンのイラストが描かれてるんですよ。「全部おまえのせい人間」「俺、老害ちゃうし人間」「クレーム人間」「マウント人間」とか。
村上
マウント人間って?
辻村
「あなたには分からないでしょうけど」って、相手のマウントを取りたがるタイプの人間です。
村上
なるほど。あと、これは分かりやすいね。「価値観押し付け人間」。
辻村
他にも「他人の意見否定人間」とか。「アドバイス人間」とか。
村上
え!?アドバイスもダメなの?
辻村
それ自体は別に良いんですけど、要は言い方ですかね。相手が嫌がってるのに気付かずに過剰なアドバイスをしてくる人ですね。
村上
ちなみに、自分は小岩先生(音楽プロデュースの教授)と帰る方向が同じだから、よく車で送っていくのね。で、毎回同じ所で「次、左ですよ」って言ってくるわけ。毎日通るから当然道知ってるんだけどね。だから、「左」って言われるであろう場所の30メートル前からウィンカーを出すようにしていて、そしたら次の日は40メートルくらい前に「はい次左ですよ」って言ってきて。
辻村
それわざとじゃないですか?(笑)
村上
そうなのかなぁ。でも何となく先に言われるのがシャクだから、次の日は50メートル前にウィンカーを出す。
辻村
ウィンカー出すの早すぎて周りの車が混乱しますよ。
村上
もちろん親切で言ってくれてるのは分かってるんだよ。ただ繰り返し言われるとね、なんというか、ほんの少し鬱陶しい(笑)。
辻村
それ単に先生が意地になってるだけやないですか。私から見たらどっちも老害ですよ(笑)。
じゃ例えば、好きでやってるのに「えぇ~?こっちの服の方が似合うのにぃぃ~!」みたいなことを毎回言ってくるとか。
村上
言ってる方はどんな気持ちなんだろう?
辻村
善意ですよ。「お前のため」っていう。
村上
感謝を強要するニュアンス?もしかしたら老害って全部そうなんじゃない?
辻村
もちろん全員それが自分にとって最良の事やと思ってやってると思うんですけどね。
村上
悪意を持ってる人はいないか。
辻村
そうですね、いないと思います。その人にとっては正義なので。
村上
「クレーム人間」は?
辻村
これは、客が店員側を悪やと思ってるパターンですね。成敗してやるぞ、っていう。
村上
それって、相手に対して良かれと思って「今お説教してあげたらこの店員の将来が安泰」とかそういう意図ではないと思うんだよね。自分が傷つけられてムカついてるから発散したいだけ。
辻村
そうやと思いますわぁ~。
村上
要は「よくもやりやがったな」っていう感情。だけどそれを良かれと思ってやってる。
辻村
人によっては、そんな店員によってこれ以上被害者を出させるわけにはいかぬ。だからここで私が食い止めないと!っていう気持ちもあるかと思います。
村上
いずれにしても自分にとっての正義を振りかざす人のことやね。
辻村
そうやと思いますわぁ~。
村上
で、それは全部に当てはまりそうだね。じゃ次の「今どきの若者は人間」は、嫌みを言ってくるお爺ちゃんのことかな?
辻村
今の日本はダメやから、ちょっとでも自分の知恵や経験によって国を良く出来れば、っていうことですね。
村上
自分はあんなに苦労したのに、こいつらラクしやがって、ていう妬みの感情なのかな。
辻村
それもあると思うんですけど、根本はそうであっても、最初に出る言葉はめっちゃ「国のために」とか「お前たちのために」とか。
村上
グローバルを装ったローカル?
辻村
よくわかりませんですね(笑)。
村上
つまり世のため人のためと言いながら、結局は自分のことしか考えてないやないかい、っていう。でも、誰しも年齢を重ねるとそうなると思うんだよね。時代はどんどん変わっていくわけだし、その変化ってなかなか受け入れられないと思う。
辻村
そうやと思いますわぁ~。
村上
我々世代も、自分が子供だった頃には大人たちから散々高度経済成長期の話を聞かされて、「そんなこと言われてもなぁ」と思いつつ、でもいざ自分が大人になって君ら学生の世代を見ると「なんでこいつらLINEでしか会話しないんだ。少しは本を読め」ってなる。多分「読書をしなさい」とアドバイスした瞬間に老害ってことになる。
辻村
私も大人になったら、子供らに向かって「なんでお前らゲームしてないん?」って文句言うかもしれないですよね。
村上
そうだね。ゲームが浸透してる世代だからこそ、「ゲームばっかりしやがって」じゃなくて、自分たちと同じようにゲームしろよ、ってなるわけだ。ま、いずれにしても老害の定義としてはそんな感じであると。
そしてこれを実際にカルタとして形にして、病院で試遊したけど、反応はどうだった?
辻村
なんか意外と楽しんでもらえましたね。自分的には単純すぎたかなと思ったんですけど、ただでさえ医療業務で大変な中、複雑なルールを覚えさせるのは厳しかろうということで、あえて単純にしてました。
村上
5秒くらいで覚えられるルールじゃないと厳しいという話もしてたしね。
辻村
テストプレイの時は、遊んでて物足りないというか、何か奥が深くなるようにと色々な要素を足したくなっちゃって。でもその欲を押さえて良かったなと。
村上
「カルタ」っていう響き自体が、まずは中高年的には馴染みやすいよね。子供の頃に誰もが少なくとも一度は経験してるだろうということで、イメージがつきやすかったのかも知れない。更に『老害集会』なんていう、色んな意味でキャッチーなタイトルがついてるから興味をそそられる。しかもマニュアルも町内会の回覧板みたいなダサいデザインを意図的に作ってて…。
『老害集会』の取扱説明書。
辻村
「みんなでかるたを楽しみましょう!♫」って縦に伸びた虹色のフォント使って描いてるんですよ(笑)。
村上
超ダセえ(笑)!
辻村
初めてwordを触ってみました的なダサさを意図的に表現しました。
村上
これはかなり勇気のいる仕事だね。芸術大学でこのデザインにするかっていう…。
辻村
でも私、普段からああいうことしてるんで(笑)。
村上
デザインはともかく、このくらい単純な仕組みだから導入で成功したという印象はあったね。
あるアナログゲーム専門店の店員さんが、仕事の合間に色んな所に出向いてゲームのワークショップを開いてるんだけど、ある時老人ホームでゲーム大会を開いたことがあったらしくて、その時感じたのが、老人に受け入れられる難易度としてはトランプの「ババ抜き」が限界だと。
辻村
ええー!で、その状態で何か新しいゲームを考案しなきゃいけなかったんですか?
村上
そう(笑)。
辻村
やっば(笑)!そんなん無理じゃないですか。
村上
だから直感的に手を振るだけで楽しいとか、リズムに合わせて体を動かしたりとか、古典的なメンコやしりとり、ビー玉やお手玉、そういったものを使って単純に遊べるものをベースにアレンジしていくみたい。
辻村
それはそれで楽しそうですね。
村上
今の学生たちだったら、もう物心ついた頃からポケモンとかスマホの複雑なRPGで普通に遊んでるよね。
辻村
はい。でも最近のゲームはチュートリアルがめっちゃしんどいですね。
村上
確かに。このあいだ学生や副手の間で流行ってるスマホの某RPGをやってみたんだけど、1時間くらいチュートリアルが続いて、延々説明を聞かされて、そこで挫けた。一度に覚えることが多すぎて何を言われてるのかさっぱり分からなくて…。
…って、なんか話だか、主旨が変わって来たな。
辻村
「チュートリアル長いんじゃ人間」っていう老害ですね(笑)。
村上
で、そうそう。話を戻そう。今回の『老害集会』の企画の着地点って何だった?
辻村
んふわぁ~
村上
あくびすな。インタビュー中やぞ。
辻村
ゲームで遊ぶことによって、終わった後とかに、「お前それ老害ちゃうんんん~?」とか「なんとか人間ちゃうんんん~!」とかを冗談で言い合える環境づくりを目指しました。目上の人を相手になかなか言い出しにくいこともあると思うんですけど、当事者としても「あ、これもしかしたら**人間と呼ばれてしまうのでは!?」と思って余計なことを言わなくなったり。そういうのがあるとお互いが言動を慎むというか、客観的に物事を捉えられやすくなるんじゃないかなって思うんですよ。今の発言はこの人にとって老害扱いではないのか、みたいな。
村上
なるほどね。そもそも今回のプロジェクトについて、「医療なのにゲーム」ていう点はどう感じた?
辻村
医療のゲームを作るわけではないと分かっていても、それでも最初は単純に難しそうだなって感じました。
村上
でも、コミュニケーションを円滑にするための遊びという考え方は、医療現場に限らずどの領域でも応用できる普遍性はあるよね。
辻村
ですなぁ~。最初に話してた「老害チェッカー」があるじゃないですか。あれはゲームじゃなくて占いみたいにただ結果を知らせるだけなんですよね。「あなたはCタイプの老害でした。へぇ~そうなんや~、完」とか、友達同士で「あんた何タイプやったん?えー、あんま当てはまってないなぁ~、あれ、ここ当てはまってるやぁあ~ん、完!」みたいな感じで。でも、これをゲームの形にしてみんなで遊んだら、老害自体が冗談の幅になって、本来ネガティブだったものをポジティブなエンタメにできるかなと。遊びの要素が入ることで、情報が一方通行になるんじゃなくて、体験が得られるから、そこがゲームという形の大きなポイントなのかなって思いましたね。
村上
つまりコミュニケーションツールってことだね?
辻村
んふぅ~
村上
あれ、違った?
辻村
よく分かんないっす。
村上
プロジェクトとは関係ないけど、つじ子は今後どうしていきたいの?
辻村
将来のことはいつも雰囲気だけで考えて、実際にやってみてから「やっぱここで良かった~」って考えるタイプなんですよね。ゲームゼミに入ろうって思ったのも、最初はよく分かってなくて、単にコツコツとゲームを作るだけのゼミなのかと思ったら、めっちゃグループワークばっかりで、しんどいけどこれがまた楽しい。
村上
ゲームやる人って、一般的な印象ってどうなんだろう。デブで眼鏡で早口で、ハンバーガーくわえながら「死ね死ね」とか叫んで敵キャラ殺してるみたいな。
辻村
うちそんなんちゃいますよ(笑)。めっちゃ偏見じゃないですか。
村上
「ゲームやる人間なんてどうせこんな奴らばっかりやろう人間」(笑)。
辻村
でも、ゲームゼミについてそういう印象を持ってたのは入学前の頃の話ですよ。グラフィックとかプロデュースとか、ずらっとゼミの名前を並べられて、そこにゲームゼミが混じってたら、ちょっと陰キャというか、何というか、ちょっとキモめの人がいそうかなって。
村上
キモめ…
辻村
でもゲームの授業を受けてみて、グループディスカッションが多くて、自分含めて根本はみんなインのキャラなんでしょうけど、インなりにコミュニケーションがしっかりとれてるというか、対話からどんどん構想が広がっていく感じが楽しいなと思って。そこからゲームに対する印象が少しずつ変わっていきましたね。
村上
ゲームゼミっていう呼び方も変えたいところだけどね。遊びを学ぶ上での一つの表現手段がゲームというだけなので。
辻村
じゃぁどうしますか?村上パラダイスゼミとかでいいんじゃないですかね。楽しそうですよ。
村上
アホやと思われるわ。
辻村
人体実験ばっかりやらされてるからモルモットゼミの方がしっくりきますね(笑)。
村上
まあそれは…否定しない…(苦笑)。さて、例の如く最後はグダグダで何を話してるか分からなくなってきたので、今回はこの辺で。どうもありがとうございました。
辻村
ありがとうございました。