文芸表現学科

果てしない地元愛 ー小林由尚インタビュー

 
文芸表現学科2回生の小林由尚(こばやし・ゆきたか)君は、中学時代は吹奏楽部に入部しており、高校時代はデザインを専攻していた。音楽もデザインも、今でも趣味として続けているという。
ではなぜ京都造形芸術大学に入って、文章を書く文芸表現学科を選んだのだろうか。
将来なにを目指すのかも含めて話を聞いた。
 
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子どものころから漆器屋になると決まっていた
 
「僕の実家は木曽(長野県塩尻市)の漆器屋さんで、卒業後は就職することが決まっています。保育園のころから自分は漆器屋さんにしかならないと思っていました。『普通に漆器屋になるのも面白くない。好きなことやりなさい』って親には言われたけど、僕は地元が好きだし、漆器が本気で、ガチで好きなんでやりたいし、若い人に広めたい。おじいさんとかしか買わないんですよ。なので、広い世代に地元の名産品の漆器を知ってもらいたい、漆器の魅力を若い人に伝えたいっていうのが一番の思いとしてあります」
 
地元愛に目覚めたきっかけは、幼いころから地元の行事に参加していたことにあるそうだ。そのうちに大事な役を任されるようになり、どんどん心境が変化したという。
 
普段はおとなしい彼だが、地元、特に漆器の話になるとやや興奮気味な口調になった。幼少のころから漆器屋を目指していた彼は、自分の手で木材を加工して漆を塗り、地元の商業祭などの催しで自分の商品を売ることをずっとやってきたそうだ。
 
「自分の手で漆器を造るなんて、なかなか芸術的な……」と言いかけると、食い気味に否定された。
 
「芸術ではないです。漆器は芸術じゃなくて技術なんです。漆器屋さんはアーティストじゃないんで、自分が好きなもんを造るんじゃなくて、人に求められる物を造る職業なんです」
 
 
 
ライトノベル作家にもなりたい
 
漆器屋になることを決めている彼が、なぜ文芸表現学科で学んでいるのだろうか。
 
「僕は音楽とイラスト、小説に興味があってどれが一番やりたいか、好きかと考えたときに小説かなっと思ったのでここに入学しました。親も『漆器と全く関係ないものを学んだ方がいい』って言ってましたし、小説のなかでもライトノベルが好きなんですよ。初めてライトノベルを読んだとき、これだ! っていう衝撃を受けました。ライトノベルを買うのは十代から三十代らしいですし、僕もライトノベルのように若い人に向けて漆器のことを発信していきたいですね。自分の書くライトノベルには必ず、必ず漆器を登場させようと思ってます。若い人に漆器の魅力を伝えるには一番いいと思ってるんで」
 
さらに、小説以外にもやりたいことがあるという。
 
「ライトノベル作家を目指しつつ、ここで勉強したことを活かして地元の雑誌に記事を書きたいです。パンフレットとか。僕は勉強してきたこと全部を地元に還元したいと思ってるんで。地元が好きなんで、PR活動に貢献できたらなって思ってます」
 
漆器屋と作家、将来はどちらを目指すのだろうか。そう聞くと彼はまったく悩む様子もなく即答した。
 
「いや、どっちかじゃなくてどっちも目指します。僕の将来の設計図としては、漆器屋さんをやりながらライトノベルの創作活動をして、地元を発信するライターとして活動するって感じですね。親は朝の九時から深夜の二時までフルタイムで働いてますけど、やっぱり作家と地元のライターもやりたい」
 
漆器屋の仕事がどれほど忙しいかを知りつつも、作家との両立を目指す。話を聞くだけでも大変そうだが、本人は「親がそんなにやってるのは『漆器しかできないから』らしいので大丈夫だと思ってます」と軽い調子で言った。
 
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小林君は普段自分のことをあまり喋らない。仲のいい私でさえ彼が漆器屋になるということを知らなかった。そんな彼が今回のインタビューでは将来のことと地元への愛を熱く語ってくれた。その表情には、地元や漆器に対する愛情がとてもこもっていた。
 
 
hiiro2015年4月25日
インタビュー・文 松本緋彩(文芸表現学科2回生)

 
 
 

この記事は、2年生の「プロフェッショナル研究」の授業課題として書かれたものです。
卒業してからどんな仕事をしたいのか、どんな仕事観を持っているのか、互いにインタビューを行ないました。
ふだんよく話す友人とも、あらたまって将来のことを話す機会は少ないようで、それぞれに刺激となる発見があったようです。

 
 

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