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(大学院)工芸デザイン分野 大淵 和憲

YOKAITO の縞配色には、若干太さが違う糸が混在していた。しかし拡大鏡で確認したところ、生地としての風合いを損なう縞部分は見られなかった


YOKAITO(よかいと)による縞柄織物 ―博多織における余剰糸を用いたプロジェクト―

1. 制作物・研究成果物の客観的記述
本研究では、博多織の技能研修機関で発生する余剰糸を用いた取組みを「YOKAITO(よかいと)」と命名した。その上で、とりわけこのYOKAITOを用いた配色に「縞柄」を用いることが有効である、との仮説を設定した。そしてこの仮説の検証のために、余剰糸を用いて実際に整経作業を行い、その経糸を手織りの織機に据え、技能研修機関の研修生に製織を体験してもらった。これらの取組みを通じて、余剰糸を用いた作品・製品制作の実現可能性を検証し、余剰糸を用いる意義や有効性及び課題について考察した。
本研究での研究成果物として、多色・少量の余剰糸を集約した形で新たに制作した織物用の経糸がある。この制作においては、細い縞柄で経糸を整経することが有効である可能性が判明した。有効であるとする理由としては、(1)整経を設計・実施し、製織作業が可能であると確認できたこと、(2)余剰糸を用いて整経した縞柄の経糸を据えた手織りの織機の体験者から肯定的な評価が得られたこと、が挙げられる。
研究成果物から見出された今後の課題としては、(a)余剰糸の特性である多くの「継節」の存在意義の向上と、多くの「継糸」の準備のあり方についてのさらなる検討、(b)余剰糸を用いた縞柄の設計と実作業の蓄積(有効な配色・配置の傾向把握、糸の残量と縞の太さの関係の算出)及び(c)余剰糸で制作された伝統織物の客観的評価の蓄積(展示会等への出品)等が挙げられる。

2. 制作研究の背景・意図
博多織の技能研修機関の運営側の観点に立つと、染め出し糸の「余り糸(残糸)」が膨大な量となっている状況に気付かされる。研修に勤しむ研修生各々の配色は、予め決められた色糸群の中から選んで決めるのではない。研修生は制作しようとする作品の配色案を決定すると、その配色に合った色見本を選び、外部の染色工場に染色を依頼するという、オーダーメードの方式を採っている。このため、色糸は使用を想定した糸の量より多めに染め出しを行うのが常である。そして作品・製品を織り終わった後には、「余剰糸」が発生している。
この余剰糸を廃棄せずに活用する方策を考えることは、絹糸の有効利用という点で非常に重要である。ただ、それぞれの余剰糸は、色は多様であるが総量は多くない。このため、多色少量の余剰糸を用いて改めて配色案を作成し、新たな作品・製品に仕上げる手法を考案することにより、余剰糸の有効な再利用を実現できる。この一連の取組みをYOKAITOと銘打ち、よりポジティブな意義付けを図った。

3. 制作研究の位置づけ
博多織、ひいては伝統織物において、余剰糸の利用を前面に押し出した製品はあまり見られない。しかし、環境問題やSDGs等の社会的要請を意識した上で、絹糸を有効に活用することがこれからの織物事業者・従事者に求められている。このような状況の中で、本研究では余剰糸そのものやこの余剰糸を用いた再利用の取組み全般をYOKAITOと命名・定義し、このYOKAITOの枠組みの中で縞柄の経糸を整経するという取組みを行い、余剰の材料を継続的に活用できる方策として掲げることができた。
さらに、このYOKAITOを用いて縞柄を構成した経糸を手織の機に据え、製織経験者が製織を体験することにより、伝統織物としての博多織における新たな取組みへの評価を求めるに至った。製織体験を行った研修生らからは「縞柄の色合いは若干ぼやけた感じに見えるが、製織作業における違和感は全くなかった」や「経糸の動きにほとんど違いは感じない」といった肯定的評価を得た。このように製織体験者の印象や所感を分析して考察するという制作研究は、管見の限りこれまで見られないものである。また、このYOKAITOの取組みの遂行を通じて、博多織の新たな魅力創出への足掛かりを提示できたと考える。

余剰糸・YOKAITO

整経機

大淵 和憲

(大学院)工芸デザイン分野

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