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愛着をつくるデザイン

ーお直しが生み出す関係ー

(大学院)工芸デザイン分野 吉峯 晶子 (shoko yasmine)

なぜ私たちは、有り余るほどの衣服をすでに持っているにも関わらず、毎シーズン服を買わずにはいられないのか。なぜ私たちは、自分のクローゼットの中にどんな服があるのか覚えていられないのか。なぜ私たちは、一度は気に入って手に入れたはずの服をいとも簡単に手放すことができるのか。

本研究は、誰もが数多くの服を所有することが当たり前になった現代において、人々が服を長く大切にするための向き合い方とその実践方法を提案するものである。ファストファッションの台頭により、私たちは気軽に多くの服を手に入れられるようになった。その一方で、過度な消費サイクルのなかで一着一着を十分に大切にしないまま、まだ着られる衣服を廃棄している現状がある。

この状況を回避するためには、着用者がその服を「手放し難い」と感じること、つまり服に対する「愛着」を育むことが必要であると考えた。本研究では、着用者が「手入れ」や「お直し」を通して服と向き合うことが、愛着形成に有効である点に着目し、愛着を中心に服と人との関係を再構築する糸口を探った。

愛着とは、「心惹かれ、大切にしたい、手放したくないと思うこと」である。そこには、着用を通じて蓄積される記憶や、手入れやお直しの過程で生じる身体的な関わりといった、衣服を長く大切にするための心理的要素が含まれている。かつて布が貴重であった時代には、衣服は解かれ、直され、別の形へと作り変えられながら循環していた。そこには、布と人とが時間を共有する態度があったといえる。現在はその時間の共有が希薄になり、愛着が生まれにくくなった結果、衣服の短命化が進んでいるのではないだろうか。

服と向き合う時間を意識的に生み出し、着用者自らがお直しを行うことで愛着を育むことができれば、衣服の寿命を延ばすだけでなく、服が自分の一部となっていくという心理的な豊かさの獲得にもつながると考えた。

そこで本研究では、着用者が服と向き合うきっかけを生み出す装置として、衣服に縫い付けた小さなポケットに最小限の修理用素材(刺繍糸や原毛など)を入れた「お直しの素」を提案する。そこに“何かある”という感覚が服の状態への意識を促し、必要なときにはそこから素材を取り出してお直しができる仕組みである。
「お直しの素」を取り入れたモデルケースとして、何度も綻びを直しながら着続けられた労働着から着想を得て、「現代の野良着」をテーマに衣装制作を行った。

第1章では現代ファッションの消費構造を、「新しきものへの信仰」と「古きものへの否定」という視点から論じた。第2章では、布が価値あるものであった時代の循環の知恵を取り上げ、それが現代にも通じる視点であることを示した。第3章では、服と人が心地よい関係性を築くためのキーワードとして「愛着」とそれを生み出す方法としての「お直し」の可能性を、先行研究を踏まえて検討した。また、誰もが自らお直しを楽しめるとは限らないことにも触れ、他者に頼ることや、あえて直さず使い切ることもまた一つの選択であることを論じた。第4章では、完璧を目指さないお直しを日常にもたらす装置として「お直しの素」を提案し、制作した4着の衣装を通してその可能性を考察した。

「お直しの素」生地見本

LOOK1 & LOOK2

LOOK3 & LOOK4

吉峯 晶子 shoko yasmine

(大学院)工芸デザイン分野

CONTACT

美術大学でファッションを学んだ後、インドネシアやイギリスで住み暮らす。これまでにファッションやアート、教育に携わる。
修了研究では、ファッションに関わる中で感じた違和感と向き合い、今まで単なる受け取り手であった消費者が能動的に社会や服に対して行動できる方法を模索・検討した。

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