文化財保存修復・歴史遺産コース

利休を偲ぶ修学院荘

木々の葉もすっかり色づき、すでに冬の気配が感じられる今日この頃ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?歴史遺産学科教員の木村栄美です。

今回は、2回生の「プロジェクト演習Ⅰ/フィールドワークⅡ」、3回生の「歴史遺産プロジェクト演習Ⅲ/歴史遺産学演習Ⅱ」において、現在調査中の修学院荘を中心に、その授業風景をお届けしたいと思います。

修学院荘は修学院離宮の眼下にあり、本学から歩いて約20分のところにあります。この建物は、もとは福助人形で知られる足袋、ストッキング、下着等のメーカー福助株式会社の社長だった辻本英一(1900~1972)の隠居後の住居でした。昭和61年(1986)「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」に基づき、京都市がその地を買収、翌年福助より居宅が寄贈されました。建物は、東棟、西棟、茶室から構成されていて、東棟は当主、西棟は使用人の住居だったとのことです。

 

ドローン撮影による上空から見た修学院荘全体。向かって右が東棟。青い屋根が茶室。

 

庭園からみた主屋東棟

 

茶室は過去と現代が対となった構成で建てられています。過去は堺の利休屋敷跡にあった茶室「懐旧(かいきゅう)」です。「懐旧」は、堺で酒造業を営んでいた加賀田家が、堺・鹽穴寺(しおあなじ)にあった千利休(1522-1591)作と伝えられている「実相庵」の写しを、幕末利休屋敷跡に建立したとされています。余談ですが「実相庵」は、明治9年(1876)堺博覧会の際、会場となった南宗寺へ移築されましたが、昭和20年(1945)7月10日の堺空襲で焼失しました(現在の「実相庵」は昭和38年に再建)。

修学院荘における「懐旧」は、堺の利休屋敷跡に建てられていた旧辻本邸「洗心洞」から一部を移築、もしくは再現したとされています。「懐旧」は「実相庵」と同様、二畳台目(台目は畳一帖の3/4の大きさ)の茶室で、床正面に躙口(にじりぐち)が設けられています。利休のわびの精神を懐古し尊ぶ意で、大徳寺第435世大綱宗彦(だいこうそうげん、1772-1860)が「懐旧」と命名しました。

もう一つは昭和40年代に建てられた現代の茶室で、「懐旧」と同じく二畳台目ながら、壁と床が一体となり、躙口は設けずに、「懐旧」とは対照的に開放的な空間となっています。

 

春の茶室「懐旧」

 

障子も張り替えた秋の茶室「懐旧」

 

前期の授業では、発掘班、庭園班、茶室班の3班に分かれて、発掘、草刈、室内清掃、庭園、茶室の実測等をそれぞれ行いました。修学院荘は、平成16年(2004)以降は手付かず状態になっていました。茶室の内部は、小動物のフン等がこびりついていました。しかし、主屋となる東棟、西棟は押入れ等湿気があり、カビの臭い等があったのに対して、茶室は特にカビ等は発生してはいませんでした。さまざまな害虫も発生していましたが、虫を恐れている場合ではなく、いずれも汚れのひどい畳等については、揮発性のよいエタノールで清掃をし、害虫駆除剤、湿気剤を設置し、現在は参考程度ですが、データーロガーによる温湿度調査を行っています。梅雨の時期には3週ほど連続で現地に行くことができず、刈った草はすぐに伸びてしまい、草刈りや清掃に追われていました。庭はまだまだ剪定中ですが、以前よりは人の手が加わり、だいぶ整備されてきていると思います。

 

茶室の実測作業

 

茶室の障子張替作業

 

 

茶室班では、茶室を実測して、1/20に縮小されたおこし絵図を作りました。おこし絵図はまさに紙で制作した茶室の簡易模型ですが、模型となるだけでなく、具体的な寸法等が書き込まれており、歴史的資料としても残すことができます。今回制作したおこし絵図は大変良くできていて、今後茶室保存、修復を考えていくためにも、重要な資料として十分に活用できると思います。

 

茶室おこし絵図

 

後期からは2回生も加わりました。秋になって天気のいい日には、畳を上げて虫干しをしました。今後は障子や茶室の腰張りの張替え等、授業でできる修復は、すこしずつ進めていく予定です。

 

茶室の畳の虫干し作業

 

修学院荘については、わずか半世紀前の建物で所有者も明確なのですが、いろいろと謎が多く、まだまだ調査が必要です。しかし、千利休をしのぶ茶室、近代建築の名残を感じることのできる建築物として、修復、保存、活用を検討しながら、調査作業を行っていきたいと考えています。今あまり触れる事のできなくなってしまった障子、畳、雨戸、そして広大な庭の手入れ。いろいろな虫等々に驚き、草にかぶれながらの作業は大変だと思いますが、実際の歴史を感じながら、調査できることをしっかりと学んでもらえればと思います。

 

おまけですが、これまで5年間調査を行ってきた藤井彦四郎(近江五箇荘出身、実業家)の邸宅・和中庵(ノートルダム女学院中学高等学校内)も大詰めを向かえています。11月11日には、2回生が初めて和中庵に行き、学科長・仲先生の解説を熱心に受けていました。

 

 

 

 

【高校1・2年生のための、1day!! 芸大体験】

 

歴史遺産学科の体験授業は、2021年12月25日(土)です。

 

『江戸時代へタイムスリップ!—名所図会に色を塗ってみよう—』

歴史を学ぶとは、さまざまな史料や遺物を自分の目で見て過去から未来を考えることです。今回の体験授業でとりあげる「都名所図会」や「都林泉名勝図会」は、京都の名所をビジュアルに紹介した、いわば京都観光ガイドブックのルーツです。モノクロのこの絵に彩色をしながら、今に残る名所が当時の人々の目に、どのように映っていたのかを想像してみましょう。

 

[定員 20名]

持参物|筆記用具、メモ用紙

 

興味を持ってくださった高校1・2年生のみなさま、ぜひご参加ください!

 

<ご予約はこちらから ↓> 

 

 

 

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