- 2018年5月21日
- 日常風景
【油画】卒業生インタビュー♯03
#03 井上 裕葵 INOUE Yuki
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1991年 兵庫県 西宮市生まれ
2016年 京都造形芸術大学大学院芸術表現専攻 ペインティング領域修了。
2013年 「Kyoto Current 」(京都市美術館別館)
2015年 「予感をたどる」個展(Galerie Aube /京都)
2016年 「ecorche」二人展(capsule Gallery/東京)
「between the land」個展/ギャラリーいのくま亭 京都
2012年 京展/京都市美術館(以後、二回入選)
2014年 京都造形芸術大学卒業制作展学科賞
他、展示・受賞歴多数
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井上 裕葵 :I
蒲原 早奈美(聞き手):K
K:学部の卒制も大きかったじゃないですか。
I:大きいのってなかなかコントロールしにくいのが、楽しいみたいな。自分より大きいのとの葛藤とか。
K:なんか壁面に描いてる感覚みたいな?
I:まわりも大きいの描いてたから、あたりまえ感もあった。3年生のときは目にみえない何かをって話したけど、私は何かがないと描けないかなってやっぱり思って、身近なものを描いたりした。デッサンが好きで、目の前に対象物があって夢中になって描くのが好きだったから。
視覚的に目に見えるもの、対象物を設定したくなった。学部の卒制は対象物が「森」だったんだよね。「森」をモチーフにしてた。上からどんどん描き消していって、なんとなく、見えてくるような見えないような仕上げ方をしたかった。
(卒業制作)
K:大学院にいってから、支持体が変わってましたよね。学部のときはキャンバスですか?
I:キャンバス。院のときは、支持体を変えたね。4年生のときは悩んでたっていうか、制作を続けたいとは思ってたけど、モヤモヤしたまま院受験してて、自分が何をしたいのかわからないまま、院はじまっちゃって、だんだん苦しくなってきて。なんでこの四角(枠)に捉われなくちゃいけないんだって。もっと自由になりたいなって沸々と思いはじめて。そんなモヤモヤした時期の院の1年の時にロンドンに行った。同級生とFrieze London見に。みんなが行くなら行くって感じで。
K:初海外?
I:初海外は高校生のときの修学旅行(イタリアとパリ)。人生で二回目の海外は、ロンドン。ロンドンでは、ホワイトキューブでみた作品(Tracey Emin)が、女性のヌードの絵なんだけど、ものすごいでかくて、繫ぎ目には糸で布を縫い付けてたり、その作品は支持体が作られていて。あ、自由なんだなって思った。あ、院の時、きょうとカレント展に出したんだよ。それ安河内さんが推薦してくれて。キャンバスを自分で縫って吊るしてる感じなんだけど。ロンドン行った後に作った絵。
K:これ縫ったんですか?綿布?
I:そう、手縫い。綿布です。
K:アクリルなんですね。繋ぎ合わせてから描いたんですか?描いてから繋ぎ合わせたんですか?
I:どうだったかな。繋ぎ合わせてからだとおもう。場所のサイズとかあったし。
K:京都市美術館?
I:京都市美術館の別館。みんなで持ち上げてもらって。ひょいってかけて。そっからなんか、これきっかけというか、自分のしたいことに素直になっていったていうか。こうしなきゃって思ってやるのしんどいしね。素材も興味あるものから手を出して、転写を始めたり、転写した上から描いたり、グルーガン使ったり、木の枝とか、素材とかも変わってきたり。壁にじゃなくて、修制も展示場所の空間の中央に吊るしてたり、あらゆる意味で解放されていく感じがしていて。
K:ギャルリ・オーブでも個展していましたね。
I:この時は、自分でモチーフをつくって、それを描きおこそう、って感じで。タコ糸とか、グルーガンとか枝とか使って。
K:「線」というか。
I:線は線でも、直線以外に、曲線になったり、いろんな線があって。
K:その作られたモチーフにも空間が感じられて、あらゆる角度から見えるようになっているような、多面的なような気がしてました。立体もつくる人なのかなって感じたり。
I:展示すると、人が見てくれるじゃない?そうするとそれがきっかけで、人との繋がりができて、作品に歩み寄ってくれたら嬉しいなって。最近、体験型の作品も多いじゃない。参加型みたいな。従来の展示形式って、人と距離ができるというか、一歩下がって、こういう世界あるんだみたいな見方をされる印象があった。その感じが少し苦手で。もっと近づいて欲しいし、歩み寄りたい、そんな作品づくりがしたいってのが根元にあって。本当は立体とか、自分で何かを三次元的に創造するってのが苦手で。これらは、ドローイングのような感覚で思うがままにやってみたかんじ。こういうのインスタレーションっていうのだろうね。絵以外で、空間を使うって、可能性があるよね。
K:壁じゃなくて、(修了制作)吊るすのってものすごく大変な気がするですが。
I:大変(笑)この場所じゃなきゃできなかったかも。空間で作品作りたいって思ったからこんな感じに。
K:これって布割いているんですか?
(修了制作)
I:そう。
K:感覚で?
I:感覚で。図像を先につくって、空間を使って奥行きを出したかったから、照明とかも考えながら、どこに穴開けるか考えてやってた気がする。
K:この図像は、Photoshopで加工してましたっけ。
I:自分で撮った風景の写真とか、ネットで拾った写真とか、この時、修了後は淡路島にいくって決まってたから、淡路とか、京都とか、行ったことのない外国の風景のレイヤーを重ねている感じ。
K:こんだけの大きさ、井上さん何人包めるのかなってくらいうの。これ制作期間は?
I :(笑) これは、年明けから一ヶ月くらいかな(笑)用意していたのあったけど、これじゃダメだって思って。納得いかなくて。
K:油彩の部分は、転写した図像の上から同じ色を重ねている?塗るとこも感覚で?塗るとマチエールできるじゃないですか。そこも考えて?
I:塗るところは人の視線の高さをメインに合わせて描写の範囲を広げていった。マチエールも盛り上げるところは盛り上げて、マチエール好きなんだよねきっと(笑)
K:今、作品とかについて聞いてきたんですけど、4回生から大学院に入るきっかけは?もっ
と制作したかったから?
I:そうだね。モデルにしてた先輩方も結構院に進学してたし、より密に勉強したいなって思ってたから。お金の面もあるから、覚悟が必要だったけど。
K:奨学金も借りてましたよね。
I:そうだね。
K:院の同級生とイギリスいってたりと、同級生と刺激しあってた?
I:そうだね。院の先生がいろいろアドバイスしてくれたりもあって、「生で色々見ろ」って言われたりしてたから見にいったりしたけど、生で実感する大切さがよくわかった。機会があったら色々見たほうが楽しいし、刺激になると思う。
K:アトリエって、学部より広くなるじゃないですか。2人一部屋ですし。もう住むレベルでいて制作してるイメージが。
I:同室の子と、よく話しもしてたかも。
K:いい感じの関係性だったように見えてました。
I:譲り合ってたし、いい関係だったかな。同期や先輩、後輩から刺激をもらっていたと思う。
K:井上さんのアトリエいったら、よく先生もいたりしてましたよね(笑)
I:日当たり良かったからかな(笑)
K:人が集まりやすい場所だったイメージが。
I:やっぱり日当たりが(笑) ウェルカムな感じだったからね。
―(パンフレットに掲載)
I:あ、最近編み物はじめたんですよ。
K:え、何編んでいるんですか。
I:最初こどものために帽子つくろうと思ったんだけど。でも難しくて、ちまちま編んでる。
K:何編みですか。
I:棒編み。ひたすらこの面を編んでる。制作で、なんとなく手縫いとかもしてたから、その感覚も思いだしたり。
K:繋がってますね。
I:今後、支持体を編むっていうのもやってみたいなとも思ってる。この前、塩田千春の展示見にいったのね。これ、よく見ると毛糸だったんだよね。私も手編みしてるよって(笑)身近なことからひっぱってくるのがいいって思ってるから。
K:いいですね。こどもの性別はどちらですか。
I:男の子。
K:もうわかってるんですね。
I:写真見る?
K:大きい!そりゃ蹴りますわ(笑)すごい、感動する。日に日に、自分の変化を感じているわけじゃないですか。
I:そうだね。受胎告知を受けた感じがした。わかってからは、産みますって思った。これが自分の運命だって思った。すくすくと育ってくれてるから、これからまた見え方も変わるんじゃないかなって思っている。
K:編み物はじめたり、いろいろ始めたこともありますね。
I:自分の引きだしを増やすというか、どんどん自分のできることを増やしていくことを大事にしてる。勤めていた学校で、マット編みをする授業があって、卒業後は事業所へいく子への授業だったんだけど、私はマット編みができなかったから、授業を通して覚えていったり、出来ることを増やしていってる。人として蓄積していくというか、なんでも経験というか。手近なことからはじめてみたりしてる。最近、『君たちはどう生きるか?』みたいな本注目されてるよね。それを紹介しているテレビを見て。おじさんと主人公のやりとりの中で、人間として何が一番必要なのかっていう場面で、おじさんが「経験」だって言ってて、確かにと思った。何でも自分に引き寄せて考えてみてるんだけど、母親になるのも、やってみなきゃわからないって。今までは子どもたちを指導してたけど、今度は、1から人間を育てるし、職業的には、また場所を変えて教師やりたいと思ってるけど、まずは、この子育てることをしなきゃって。
K:そうですよね。
I:こどもが出来てから、初めて、こどもができることとはどういうこととか、人間の育ち方とか知っていってる感じ。大学でも社会でも、自分から動いて、人の繋がりは、大事にしていったほうがいいかなって思う。人との縁で、仕事も制作もできるから。ものをつくるにしても、長い目で見れたらって思う。死ぬまでできることだと思うから。人とは違うやり方で、心の安定もとりつつ、続けていきたいと思う。こどもとかにも、いろんなものを見せたいなって思うし。
K:たのしみですね。
I:いっぱい経験させたいですね。無理強いはしたくないけど、選択肢とか楽しみをつくってあげたいね。
K:こどもの写真撮っていたり、シリーズつくってる作家もいますよね。こどもできる前と作品変わってたりしますよね。
I:そうだね。
他大学の友達で、去年おかあさんになった子が、ハンドメイドアクセサリーはじめたりして。私もやってみようかなって。楽しくやって生きていきたい、じっとしてるのが苦手だから、何かをしていたいし。これからもつくりつづけていきたいと思う。
…END
■卒業生インタビュー■