- 2020年4月30日
- 日常風景
【先生紹介03】編集者、著述家、詩人・中村純先生
現在、文芸表現学科がある「人間館」のロビーには、胡蝶蘭がずらっと並んでいます。
胡蝶蘭の花言葉は「幸福が飛んでくる」。
花にさそわれて、これから幸福がやってくるのかもしれない、と思うと、少し元気が出てきたスタッフの大賀です。
さて、文芸表現学科の先生紹介・第三弾をお送りいたします。
今回は、編集者・著述家、そして詩人である、中村純(なかむら・じゅん)先生をご紹介いたします◎
【先生紹介03】編集者・著述家、詩人・中村純先生

昨年のプロフェッショナル特講の様子。その際にご紹介いただいた詩誌『詩と思想』(土曜美術社出版販売)で、中村先生は編集委員をされています。
中村先生は、編集者・著述家・詩人として、文芸に関わる様々なお仕事をされています。
そんな先生には、昨年から文芸表現になくてはならない「書く」「読む」、そして「編む」ことをお教えいただいています。
1年生の必修授業の「百讀Ⅲ」や「文芸表現基礎」では、書く・読むことの基礎力を。
2年生以上の授業では「百讀Ⅹ」では、基礎応用として、過去・現在・未来を超えていく作品を読み解き批評する力を。
2年生から4年生までが集うゼミでは、実社会を読み解き、雑誌やWEB媒体・ラジオ放送などで、新たに見出した価値を届ける編集力・創作力を育んでくださっています。
(中村ゼミ生執筆:ことばと芸術で社会を変革する-SDGsの実践「鶴橋フィールドワーク」(瓜生通信))
次世代に残せるものはなんだろう、と過去・現在・未来を見つめる中村先生。
「専門領域を教えてください」とお尋ねしたところ、ただただ文学が好きで、自身ができることを信じて、社会を見つめてきただけだ、と少し戸惑われておりました。
書く・読む・編むを横断される先生の根底にあるものとは。
そして、2020年の今、皆さんへお送りするおすすめの本をお訊きしました◎
■先生の専門領域とその魅力について教えてください。
私は実務家教員なので、専門といわれると思案します。言葉と教育に総合的に携わってきたかな、というくらいにしておきます。編集者(雑誌、書籍、教科書)・著述業(エッセイ、聞き書き、文芸評論、書評、取材記事)、詩人です。著書は詩集とエッセイ集、インタビュー集など。(詳しくはこちら)
言葉で自己と他者に関わると、心の中にある深く静かな湖に触れることがあります。
編集者や聞き書きや取材、あるいは教育やキャリアカウンセリングは、「いまだ書かれざるその人の物語」を掬い取って形にするお手伝いをする仕事です。その人の存在、尊厳に深く触れることになります。掬い取るこちらも、素手と素足の人間性と想像力と知性が問われます。互いの存在を感じ、深いところで出逢う幸福な仕事です。
20代のとき、自分の倍以上生きてきた方たちの言葉や佇まいや願いを聴き、記事や本の企画にするとき、自分の力量不足(知識も人生経験も!)に、立ちすくむような思いがありました。若いときに出会った先生、編集者、作家、詩人の先輩たちに、真摯さと謙虚さと継続的な努力のみが、自身と仕事を裏切らないということを教えていただきました。出版の仕事は時空を超えます。先人が遺した本がこれからを生きる手がかりになります。
おすすめの本をお尋ねしたところ、テーマを決めて選書してくださいました◎
■「書を読んでひきこもろう」2020年におススメの本
―being(在ること)と深めることを考える2020年に―
『沈黙の世界』(ピカート/佐野利勝訳/みすず書房)
ピカートは医学者で文筆家。言葉と沈黙、沈黙と詩について深く考察した哲学書です。
ざわざわとした出版社を辞めてひとり静かに戻った20代の時、言葉と本と自身の関係をとり戻すきっかけになった本です。
『五月の風―山尾三省の詩のことば』(山尾三省/野草社刊・新泉社発売)
世情はコロナ禍のニュースでざわめいています。それでも葉桜は美しく、人間が生産活動をやめた地球の空気は澄んでいます。
詩人山尾三省は、1970年代の高度成長と公害問題が同時に起きていた東京を離れ、家族で屋久島に移住し、晴耕雨読、詩作、いのちを慈しんだ祈りの暮らしをした詩人です。
『ルピナスさん―小さなおばあさんのお話』(バーバラ・クーニー/かけがわやすこ訳/ほるぷ出版)
ルピナスさんは、海をみおろす丘の上の、花に囲まれた小さな家で暮らすおばあさんです。
司書をして世界中を旅した女性は老いた今、「世の中を美しくする」ためにルピナスの種を蒔き、やがて花のもとに子どもたちが集まります。美しい絵本です。
『夜と霧』(フランクル/霜山徳爾訳1985年、池田香代子新訳2002年/みすず書房)
私は霜山先生の訳が格調高くて好きですが、池田先生の訳は読みやすいです。
ユダヤ人としてアウシュビッツに収容され、生還したフランクル(心理学者)が、ホロコーストの人間を深く観察、洞察した書です。限界状況において人間性と尊厳を喪わなかった人、絶望しなかった人たちに、芸術家、詩人、心理学者、宗教者がいました。絶望をせず未来を創造、想像できる知性を持ちうるか。今を生きる手がかりに。
『風琴と魚の町』(林芙美子/青空文庫)
青空文庫から一冊ということで検索したら、女性の作家や詩人が5人ほどしかいませんでした。アファーマティブアクション(積極的格差是正)のために、林芙美子を推薦します。昭和初期の女性の物書きは、教育を受けることのできたインテリ階層(しかも支配階級)の女性に限られていました。そんな時代にフリーター労働者の芙美子が作家デビューするのは大変なこと! ながしの風琴(アコーディオン)弾きの父と母とともに、幼い芙美子が広島の海沿いの美しい街尾道を訪れたときの回想です。
このBLOGを読んでくださっている皆さんへ、メッセージもいただきました◎
■言葉、文芸に向き合う若い人たちへ
あなた方の佇まい、声、迷い、言葉ときっと「再会」できると思っています。
人類が今経験していることは初めてのことではありません。かつて似たことを経験した表現者たちはどのような言葉を紡いだか。今、世界の知性はどのように未来を展望しているか。よかったら辿ってみてください。朗らかに歩んでいきましょう。リスペクト(敬意)をもって、自身と他者を尊重し、言葉に向き合ってくださることを願っています。
中村先生、ありがとうございました◎
最後に、中村先生が企画から執筆を手がけた編著書をご紹介いたします。
ある分野について調べて、執筆してみたい!という方へ。
ぜひご覧になってみてください◎
出版:春陽堂書店
関連記事:
・「風姿和伝」現代ニッポンの古典芸能と諧謔(かいぎゃく)を語る- 茂山逸平×山本太郎(瓜生通信)
・「おもしろい」を繋げる。ー 編集者という仕事(瓜生通信)
『憲法と京都』京都の15人が、憲法を語り行動する
出版:かもがわ出版
さて次回は、「笑い」といったら? の、あの先生です。
どうぞ、お楽しみに◎
(スタッフ・大賀)