- 2021年6月28日
- 日常風景
日常が、眩(まぶ)しく羨ましくて 基礎美術コース「木工・漆」の授業 【文芸表現 学科学生によるレポート】
違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の授業に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。
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こんにちは、文芸表現学科2回生の中村朗子です。
今回は基礎美術コースの2回生と3回生の「手作業で器(うつわ)を作っていく授業」にお邪魔しました。
暮らしの中に息づくものをつくるとは、どういうことなのか……。
食事をするとき持ち上げる食器にまで、心地よい重みを感じるようになった、素敵な授業でした。
●床に座り込む学生たちの一体感
最初に訪れたのは、2回生の木工の授業でした。
扉を開ければ、床に座り込んで木を削っている学生たちが、目に飛び込んできます。
ひとりひとりが自分の世界で作品と向き合っていながらも、全員が同じ終着点をめざしているその様子は、不思議な一体感で包まれていました。
●木の板が「その人に必要な形に成っていく」
テーマは、「おぼん」。
一枚の栗の木の板を彫り込んで、おぼんにしていく授業です。
デザインは学生が自由に考えて良いそうで、自由だからこそ、作品にはそれぞれの性格がはっきりとうつしだされていました。
にんじんの形のプレート、うさぎの形のおぼん、月のデザインの器などなど、それぞれの個性が活きながらも、作品は手作業で一から彫ったとは思えない、なめらかなしあがり。話を聞くと、おぼんが完成したら自分で使うという人が多いようです。
自分が心地よく使えるようにプレートの厚さを変えたり、裏面に持ちやすいようへこみを入れたり。
木の板で作品をつくるというよりは、木の板が「その人に必要な形に成っていく」かのようでした。
●完成しても終わらないのが、日用品づくり
木を彫り込む作業が終わると、次は、漆を塗っていきます。漆を塗布する作業では、3回生の授業にお邪魔しました。
3回生の漆の授業では、お椀の作品工程を見せていただきました。まっさらな木のお椀を削って、模様や手触りを加えてから漆を塗っていきます。
こちらもデザインは自由ですが、個性を出しつつもお椀としては逸脱させず、あくまでこだわりを持って味を出していく、といった感覚――。
漆は、塗って乾かして削って、塗って乾かして削って、を繰り返すことで美しい黒い艶が生まれるんだそうです。
口に当てたときに違和感がないように薄くなめらかにしたり、漆の液が偏って意図しない肌触りにならないように均等になるようにしたり。
制作の姿勢自体に、ゴールは完成することではなく、その後に使われることなのだという意識が当たり前のように出ていて、他学科の私にはカルチャーショックでした。
とくに、学生の方にお話を聞いているとき、なんでもないように言っていた一言が、忘れられません。
「完成したら、これで何を食べよう」
日用品でありながら芸術作品でもある物をつくることの魅力は、完成しても終わりがこないことなのだとまざまざと思い知りました。
完成したそれは、誰かと一緒に生きてくれるものだから。
●「いただきます」と「ごちそうさま」のあいだで
日用品は、生活の一部として当たり前のように組み込まれます。
食べ物を盛られたり注がれたり、触れられて、持ち上げられて、唇を当てられて、同じだけの時間を過ごしてくれる。
料理を盛られたそれは、写真に撮られたりなんかもするかもしれない。
もしかしたら、どんな名画よりも写真に収められていくものなのかもしれません。
その「なんでもなさ」が、眩(まぶ)しくて羨ましくて。
ご飯を食べるとき、器を持ち上げるとき、手のひらの上の重みについてちょっと考え込むようになってしまうような、心地の良い影響をくれる学科でした。
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