様々な差異の舞台的表象について

11月 01日, 2011年
カテゴリー : プロデューサー目線 

上半期のセンター企画として、8月14日に上演された「マラルメ・プロジェクト2――『イジチュール』の夜」は、10月1日に、ustreamで流すと言う実験をした。その反応は好評であったし、センターとしても色々な発見があったので、今後も、機会を見て続けて行きたいと考えている。既に来年の「マラルメ・プロジェクト3」の企画作業に入っている。

下半期のセンター企画は、若手の「女装独り芝居」である『アディシャッツ/アデュー』から始まる。昨年の春秋座公演の『こうしてお前は消え去る』のトレーナー役で出演して好評であった、ジョナタン・カプドゥヴィエルの、自作・自演の一人芝居である。「アディシャッツ」とは、ピレネー方言で「アデュー=さようなら」を意味する言葉だと言うが、仕掛けとしては、「物真似芸人」を志しているゲイの若い役者が、自分の欲望の対象でもあり、そのようなものとして男に愛されたいという「エロス的イメ―ジ」を核とした「女性同一化のファンタスム」の展開である。しかしこの作品を、露悪趣味のパフォーマンスにしていないのは、カプドゥヴィエル、まだ少年の面影を残しているような、好感のもてる存在感である。それを可能にしている仕掛けは、そうした性的幻想を歴然と踏まえた「女性化願望」が、世界的なポップス歌手マドンナやレディー・ガガをモデルに定めることで、言わば「心情溢れる物真似芸」の舞台を成立させていることである。
フランスと日本では、こうした「性差」に関わるドラマの捉え方も、展開の仕方も異なるから、アフター・トークには、日本のドラァグクイーンのまさに女王であるシモーヌ深雪さんにお越しいただき、性差の揺らぎとその演劇性について、お話を伺う予定である。

前学期から始めた公開講座「舞台芸術の半世紀」も、秋学期に続ける予定である。1回目(通算で言えば4回目、11月8日)は渡邊の担当で、『創作能の地平』と題して、近年の新作能・新作狂言ブームについて、渡邊自身の経験から、そう安易に作れるものではないことを、1970年代の「冥の会」の経験(観世寿夫主演のセネカ作『メーデーア』)、1987年の「パルコ能ジャンクション――『葵上』」における故榮夫氏と、現萬斎君の作業等を振り返りつつ、2001年に作った創作能『内濠十二景、あるいは《二重の影》』の2004年パリ公演版(榮夫、晋矢、萬斎)ならびに『薔薇の名――長谷寺の牡丹』を、榮夫氏追善の形で、春秋座において上演した映像を見る。大学院博士課程の在籍者でもあり、「木ノ下歌舞伎」の主催者でもある木ノ下裕一君に、聞き手に回ってもらう。
2回目(12月13日)は、「語り」という「言葉の姿」は、日本の伝統芸能の独占物ではないし、ギリシア悲劇には、外で生起したことの「報告」という形での「語り」は不可欠であった。それを受け継いだ17世紀フランス古典悲劇は、ギリシア悲劇とは異なる形で、「韻文悲劇」の言語態の一つとして、「語り」を劇作術の中に取り込んで行った。その典型として、ラシーヌ悲劇の内でも、「語り」の部分が「ラシーヌ詩句」の見事さに支えられて肥大した作品があり、その最も成功した例は、『フェードル』である。二度もパリで、日本語でフェードルを演じた、他に類例の無い経歴の後藤加代を招いて、『フェードル』の「さわり」の部分を、渡邊と共に読む。いずれの回も春秋座における「公開講座」であり、18時開始である。[入場無料だが、予約制]

伝統と現代という問題は、「伝統演劇」というような特殊な形をもった文化でないと、問題自体がつかめないことが多い。その意味では、近くにありながら、まだよく知られていない韓国における「舞踊の伝統と現代」の問題は、ともすれば「伝統」という看板に寄りかかって、芸能としても、現代における舞台芸術としても、創造的反省に欠ける、現代日本における「ダンス」の問題を考え直す格好の契機となるのではないか。そのような観点から、韓国舞踊の第一人者であり、単にパフォーマンス・レヴェルだけではなく、理論的反省や教育制度についても、第一線で活躍されている金梅子先生をお招きして、その舞台を拝見すると同時に、センター・サイドからの参加者との、パネル・ディスカッションを行おうと思う。

それが舞踊公演 + シンポジウム「越境する伝統―韓国舞踊の場所から 金梅子(キム・メジャ)の仕事」【舞踊公演:12月10日(土)14:00~、シンポジウム:12月11日(日)14:00~】である。

渡邊守章
(舞台芸術研究センター プロデューサー・演出家)

『アディシャッツ/アデュー』東京公演の感想いただきました!

11月 01日, 2011年
カテゴリー : 過去の公演 

こんにちは、川原です。
早いものでもう11月・・・。
川端通りを北に上がるにつれ、街路樹が少し黄色く
赤く色づいているのを見ると嬉しさを感じると同時に
これから訪れる底冷え寒さにやや恐怖を感じる今日この頃。

さて、もうすぐ開催!3日の『アディシャッツ/アデュー』
ジョナタン・カプドゥヴィエルはじめ、ツアーメンバーも
無事に京都入りしております。
京都の前に、東京シアターカイで3公演上演されたのですが、
東京日仏学院の平沢さんより、東京公演の感想いただきました!

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物真似や腹話術、マドンナの楽曲から聖歌までを歌いこなす
非凡な才能を持つジョナタン・カプドゥヴィエル。
録音は一切なし、語調や声色を瞬時に変えて何人もの人物を
声で表現する演技に圧倒されます。
家族の死、肉親には告白できない自身のセクシュアリティ、精神的苦悩…、
自伝的要素の色濃いこの作品は、可笑しくも哀しく、そしてなんと言っても切ない、
感動のパフォーマンスです。
是非多くの方に観ていただきたいと心から思っています。
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春秋座は1回限りの公演です。
どうぞお見逃し無く!!

川原