2026年10月30日
お知らせ
日程 11/11
再来週に開催いたしますセミナー「ART meets SCIENCE #14」の内容について、
もう少し踏み込んだ概要が届きましたので、追加でご紹介いたします。
ご興味がありましたら是非下記からお申し込みくださいませ。
【概要】
超周辺視 〜イリュージョン、過剰確信、そして創造性へのヒント?
下條信輔(カリフォルニア工科大学 生物学・生物工学部/計算・神経システム)
視野の端、偏心度60°を超える「超周辺(extreme periphery)」では、驚くべき
ことがいろいろ起きる。感覚信号がノイズに満ち曖昧なところでは、脳はより
信頼できる信号源(中心窩、他の感覚モダリティ、トップダウン)で自動的に補う。
この「脳の補償仮説」の観点から、超周辺視の実験的研究を紹介する。
第一に多感覚処理である。周辺のフリッカー[1]は中心窩より速く見えるが、
同期音はこれを抑制し、中心窩と周辺を同期させる。また、音は超周辺のフラッシュ検出を
むしろ抑制した。一方、ドップラー効果を模した下降ピッチ音では、運動方向が一致
している場合のみ、背後からの前方仮現運動[2]の検出を促進した。
参加者は音と軌跡の関係を知らなかったので、この効果は知識やトップダウンの
要因だけでは説明できない。
第二に色と形の知覚である。超周辺の色知覚は不確実で、中心窩の色入力が超周辺に
誘導され、反対色の錯覚さえ生じる。色と位置の結合の乱れや形の誤知覚も観察された。
その精度は大きさの偏心度によるスケーリング(皮質拡大率[3])にほぼ従うが、
超周辺で知覚される色の鮮明さと確信度は、それでは説明できない。
とりわけ、誤った知覚に高い確信が伴う「過剰確信」が特徴的である。確信度が
正答を忠実に追うよう設計されたAIのメタ認知とは本質的に異なる。誤警報が見逃し
よりましという適応的意義や、「不確実性下の判断」との類比が考えられる。
また超周辺の検出限界は40歳前から縮小し始め、注意の配分にも左右されるため、
高齢者の歩行や運転支援など実用上の示唆も大きい。
後半では「周辺」を比喩的に拡げる。ここでいう「周辺」とは、注意の焦点の外側、
意識の及ばぬ潜在認知・暗黙知、周囲の人々や社会・歴史的文脈、各分野の正統から
外れた境界領域などを指す。プラトン『メノン』のパラドックス[4]が示すように、
知は透明ではない。暗黙知の存在を前提にすれば、独創的な洞察につきまとう
「周辺的」な特徴(ただちに再認感があり、遅れて周囲が追認する、など)が腑に落ちる。
潜在過程と社会性が重なる「周辺」こそ、創造性のスパークが起きる場所なのではないか。
——————-
[1] 高速の光の点滅。
[2] 動いていないものが、前方に向かって動いているように見える錯覚。
[3] 同じ刺激を処理する皮質のニューロンの数の比率。同じものを見ても、中心視で見ると
多くのニューロンが関与するが、周辺視野で見ると少ないニューロンしか関与しない。
[4] すでに知っていることなら、わざわざ探求する必要がないが、自分が知らないものに
ついては、探求することはできない。
【講師紹介】
下條信輔
認知神経科学者, カリフォルニア工科大学教授/文明哲学研究所客員教授
認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。
著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)
| 日程 | 2026年11月11日 |
|---|---|
| 時間 | 16:00 - 18:00 開場15:45 |
| 場所 | 文明哲学研究所(瓜生山荘)3階セミナールーム |
| 申込方法 | 申込フォームからお申し込みください |
| 主催 | 文明哲学研究所 |
| お問い合わせ | 文明哲学研究所 |
2026年10月20日
お知らせ
第2回文哲研アンダーグラウンド「教育はサービスではない」:
京都芸術大学の吉岡洋教授と三輪眞弘教授による対談形式のイベント、《第2回文哲研アンダーグラウンド「教育はサービスではない」》が7月29日に開催された。会場は第1回と同じく京都・銀閣寺近くの「アンダースロー」(劇団「地点」のアトリエ)である。テーマである「教育はサービスではない」を軸に、公式な大学(オーバーグラウンド)では語りにくい教育制度の根底にある危機や本質的な課題について、参加者と車座になって議論を交わす「アンダーグラウンドな場」としての対話が繰り広げられた。
1.アンダーグラウンドな場の設定と「対話」の再構築
今回は初めに、登壇者が一方的に持論を語り最後にわずかな質疑応答を行うような従来のトークイベント形式を排し、発言の途中であっても参加者からの質問やツッコミ(反論・指摘)が自由に挟める「開かれた姿勢」が示された。レイアウトも全員が同じ方向を向く講義形式ではなく車座が採用され、受動的な聴衆から能動的な対話の参加者へと意識の変容が促された。

2. 現代教育の「知識サービス業」化と30 年間の社会変容
現代の大学は、知識商品を提供し学生がそれを購入する「知識サービス業」へと変貌を遂げている。
本来、人間の生・死や、マニュアルに収まらない深い精神的成長・人間形成は、貨幣による等価交換から外れた領域(商品化できない領域)である。しかし過去約30 年間で社会のバランスが崩れ(1990 年初頭の冷戦終結・グローバル化・IT化の急進行)、生・死・学び・成長のすべては市場経済の中に放り込まれた。
大学においても教員は「サービスの提供者(売り手)」、学生は「消費者(買い手)」にと分断された結果、顧客となった学生への「敬語(丁寧語)」使用に見られるとおり人間関係が根本的に変質した。
真剣に“ハッパをかける”指導が「売り手/買い手」の利害対立によって不可能となり、共に深く学ぶ環境が奪われている現状は、若者に対する集団的な「構造的虐待(アビューズ)」であると吉岡は批判した。


3. 芸術・学術における「過剰な言語化」のプレッシャー
また芸術や学術の現場においては、作品制作や実技に加えて「論文執筆」や「自己言語化」の強いプレッシャーが存在している。この《過剰な言語化要求の真の要因》は、芸術の要請ではなく、科研費などの外部資金獲得や行政手続きというシステムの都合によるものである。
その一方、反復訓練や修行による「身体化」のプロセスや理由をつけない直感や無意識は軽視され、自己言語化を示さなければ大学制度で生き残れない構造が定着した。
こうした状況について参加者から、現代の哲学・学術研究の「過剰なモデル化」の指摘があった。吉岡は、今日の思想が過度に精密化・アーカイブ化され、余白が失われていると呼応する。「理系/ 文系」の分断が歴史的に総力戦・軍事研究(戦争)によって支えられてきた背景を指摘し、多重な外部文脈への適応による表現者の意識の分断を指摘した。
4. 学歴への一元化とメリトクラシー(実力主義)の陥穽
高度経済成長期においては、高学歴でなくとも商売、漁業、農業、手作業を通じて豊かに生きる多様な価値観が存在していたため、大学進学率は停滞していた。
しかし現代はグローバル化と貧困化によって多様な生き方が破壊され、あらゆる分野が「大学と学位」へ一本化された。こうして若者の生き方が学歴に一元化される社会構造が成立したため、インターネット上では(他の差別に比べ)「学歴差別」は叩かれにくいという風潮ができあがっている。
そして大学は「成功への切符を売るサービス業」となり、その弊害として「共通善(The Common Good)」を忘却してしまった。マイケル・サンデルが『実力も運のうち』(*1)で批判したように、成功者が「自らの実力のみで成功した」と思い込み、社会的責任(ノブレス・オブリージュ)を引き受けない「単なる勝ち組消費者」となってしまった状況は、ニーチェの言う「最後の人間」(*2)(欲求とその満足しか求めない人間)への変質を示している。
5.AI 時代の不条理と管理・効率化が進む大学システム
大学教育の形骸化と管理社会化は更に、生成AIの普及によっても極限に達しつつある。学生がAIに書かせたレポートを教員がAIで採点する不毛な循環が生じる中、自力で時間をかけて書いた学生が逆に「AI 利用」を疑われる。
参加者からの「手書き試験に戻すべき」という提起もあったが、大学経営上のビジネス的合理性に基づき、人件費節約や責任回避のため手書きのアナログ試験への回帰は拒まれると吉岡は指摘する。こうした閉塞的な状況に対し登壇者・参加者らは、コピペ限定課題、自己評価課題、突拍子もない連想問題や俳句といった「奇策」で学生自身の思考を引き出す苦闘を互いに語った。
また講義の義務化や過剰なFD(ファカルティ・ディベロップメント)も授業の自由度を奪っていく。厳格な全15回制、建物のナンバーキー施錠などの措置によって、だらだらとした議論や研究室での夜間制作の場は物理的に閉ざされてしまった。
そこで、こうした制度化・管理化が徹底された大学の陰で、いかに本物の学びを維持するかが大きな議題となり、登壇者・参加者で多くの議論が交わされた。
(1)「隠しコマンド」としての本物の教育:
これまでは多くの学生が、シラバス外の研究室・メール・喫茶店での対話という「隠しコマンド」を通じて教員と密接に関わってきた。しかし、学生同士の心理的牽制(「媚びを売る」相互監視)や教員側のハラスメント回避意識が高まり、この扉を閉じさせている。
(2)人工的コミュニティへの違和感と「大学銭湯構想」:
FD や全学交流会といった「人工的なお膳立て」への違和感に対し、吉岡は制度外部の無防備な身体的対話を取り戻す「大学銭湯構想」を過去に提案したエピソードを明かした。
(3)身の回り1メートルからのゲリラ的抵抗:
生成AIによるシステムの自壊を待つだけでなく、各自において小規模な対話の場(私塾やアンダーグラウンドな集まり)を保持し、管理の壁を押し返していく「ゲリラ的抵抗」の実践が呼びかけられ、対話は終了した。



*1・・・ マイケル・サンデル著『実力も運のうち――能力主義は正義か?』(The Tyranny of Merit: What’s Become of the Common Good?、2020年原著/2021年早川書房)。
*2・・・ フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラはかく語りき』に登場する、情熱や高貴さを失い自満と消費に浸る究極の消費者。
2026.9.25
圜羽山圜(蛍光資料)
2026年10月16日
お知らせ
日程 11/11
ART meets SCIENCE(AMS)の第14回目が来月開催されます。普段意識しない目の端っこの「超周辺視」とは?見えているようで見えていない?アートとサイエンスの出会いに興味がありましたらぜひご参加ください。
【ART meets SCIENCE #14「超周辺視:視野の端っこが生む過剰な確信!?」】
ヒトの視野には、中心視と周辺視があります。色や形をはっきり識別できる中心視の領域はほんのわずかで、周辺視の解像度は低く、ぼんやりとしか見えていません。
今回の話題は周辺視のなかでも一番外側の「超周辺視」のこと。ふだん意識していない視野の端っこの影響で、赤が緑に変わるような大きな錯視がおこったり、「過剰な確信」が生まれることがわかってきたそうです。アートにも関連しそうな視覚認知の研究からAIの自己認識まで、下條先生のエキサイティングなお話をうかがいます。
【講師紹介】
下條信輔
認知神経科学者, カリフォルニア工科大学教授/文明哲学研究所客員教授
認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。
著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)
| 日程 | 2026年11月11日 |
|---|---|
| 時間 | 16:00 - 18:00 開場15:45 |
| 場所 | 文明哲学研究所(瓜生山荘)3階セミナールーム |
| 申込方法 | 申込フォームからお申し込みください |
| 主催 | 文明哲学研究所 |
| お問い合わせ | 文明哲学研究所 |
2026年10月6日
お知らせ
日程 11/14
11月14日(土)に「11•14 PDダンス in 京都」を開催いたします。
パーキンソン病のみなさん、ご家族やご支援者のみなさん、いっしょに「PD ダンス」を体験しませんか?
「PD ダンス®」は、車いすや椅子に座ったまま出来るダンスで、PD には「パーフェクトダンス」と「パーキンソン病」2つの意味があります。
2001 年にニューヨークで始まった「Dance for PD®」を基盤とし、日本では2016 年から福岡から普及が進められてきました。ダンスを通して身体機能を維持向上させるだけでなく、想像力や創造性を育み、五感を活性化させることで生活の質(QOL)を向上させると国内外の研究で報告されています。
今回は、日本初のDance for PD® 認定講師で、福岡から全国へ「PD ダンス」を展開しているマニシア氏を招聘し、対面ならではの<PDダンス・コミュニケーション>が体験できる場として開催する、京都初の試みです。
パーキンソン病者にとってリハビリや運動とは違う芸術表現との接点を感じる機会となるでしょう。

| 日程 | 2026年11月14日 |
|---|---|
| 時間 | 13:00 - 16:00 |
| 場所 | 京都芸術大学 人間館NA014教室 |
| 場所詳細 | 大階段を登って左の人間館に入り、あるいは進々堂 の右通路からエレベーターで人間館に入り、館内の エレベータでさらにB1F に降りる。降りてすぐ右手 側(図書館と逆側)にあるのがNA014 教室 |
| 費用 | 1,000円 |
| 申込方法 | チラシの「お申込み・お問合せ」をご確認ください |
| 主催 | 主催:パーキンソン病とダンス研究会 共催:一般社団法人パラカダンス、文明哲学研究所 |
| お問い合わせ | 「お申込み・お問合せ」をご確認ください |
2026年9月24日
お知らせ
日程終了しました
9月27日(日)に文明哲学研究所の先生方がメインで行うトークイベント「文哲研アンダーグラウンド」が開催されます。銀閣寺道近くにある「劇団地点」のアトリエ「アンダースロー」にて夜のトークイベントとなります。
ご興味のある方は、ぜひ下記フォームよりお申し込みくださいませ。
【「文哲研アンダーグラウンド」とは】
「文哲研アンダーグラウンド」は、京都芸術大学文明哲学研究所の主催による、文字通り地下で行われるトークイベントです。かつて「アンダーグラウンド」は、体制に対する反体制、主流文化に対するカウンターカルチャーを意味する言葉でした。現代ではそうした「反体制」や「カウンター」は、もはや構造的に不可能になっているように見えます。本当にそうでしょうか? そのことを毎回のトピックを通して、参加者の皆さんと共に考えていきたいと思います。
【第3回 ソ連が終わり、アメリカも終わる世界】
ネット動画で世界情勢を語るインフルエンサーたちは、自分こそ真実を知っている、これから起きることを予言できると主張し、論敵や無知な大衆を罵倒して、フォロワーや再生回数を稼いでいる。
オールドメディアとは異なりネットは「反体制」的言論も許される自由な場であるかのように振る舞いながら、彼らが従っている営業の論理は、オールドメディアと何ら変わらない、いわば「体制」そのものである。ネットは単にネットであるだけでは、少しもアンダーグラウンドではない。
アンダーグラウンドでは、世界について何がどのように語れるだろうか? 1991年にソ連は終わり歴史に決着がついたと思われたが、21世紀に入るとアメリカもぐらつきはじめた。ここで「ソ連」「アメリカ」とは特定の国家名であるだけではなく、マルクス主義(あるいはファシズムも含む統制経済)と、リベラル・デモクラシーに基づく自由市場経済を象徴する。こうした話題に対して私たちの多くは、政治は分からない、論争に巻き込まれたくないという心情に閉じ込められてしまうのも事実だ。
だが「体制」が恐れるのはネットではなく、「無知な大衆」が政治や世界情勢について語りはじめることなのである。私たちは知識人・言論人の真似をする必要も、影響を受ける必要も全くない。本当の抵抗力は議論や論争よりも「おしゃべり」であり、おしゃべりを可能にするアンダーグラウンドが静かに広がってゆくことである。
【レギュラー出演者】
文明哲学研究所 所長:吉岡洋(哲学者)
文明哲学研究所 教授:三輪眞弘(作曲家)

| 日程 | 2026年9月27日 |
|---|---|
| 時間 | 17:00 - 19:30 16:30 開場 |
| 場所 | アンダースロー |
| 場所詳細 | 京都市左京区北白川久保田町21地下(「京屋」という靴屋さんの地下です) |
| 費用 | 1,000円(ワンドリンク込)要予約、ただし学生は無料(ドリンクをご希望の方は別途ご購入ください) |
| 申込方法 | 以下の申し込みフォームからお申し込みください。 |
| 主催 | 京都芸術大学 文明哲学研究所 |
| お問い合わせ | iphv@office.kyoto-art.ac.jp |