著作権とうまく付き合うために
近年、社会のあらゆる面においてデジタル化やネットワーク化が急激に進み、芸術大学で学ぶ私たちを巡る環境も大きく変化しつつあります。作品やレポートの制作プロセスや手法、その利用法や流通法などもまた、大いに変化しつつあります。これらの新しいテクノロジーを上手く取り込んだ新しい表現が可能になる一方で、気づかずに他者の権利を侵害してしまっているケースも増加しているようです。そしてそのことが何らかのトラブルに発展するということも考えられます。
芸術大学に集う私たちにとって、自身の想いを自由に表現しようとすることと、他者の表現を尊重することとは等しく大切なことです。知らず知らずのことであっても自分の表現が他者の表現を侵害することに繋がれば大変悲しいことです。ここにはひとりひとりがお互いの制作創作活動を尊重するために必要な最低限度の知識を共有できるようQ&Aをまとめてあります。身近で具体的な事柄が中心ですので、よく読んで役立てて頂ければと思います。学生のみなさん、教職員ともにお互いの表現を尊重して気持ちよく制作が行える環境づくりに取り組んでいきたいと思います。
レポート作成
- 1. 自分で書いたレポートをホームページ上で公開してもよいですか?
- あなたが書いたレポートの著作権はあなたにあります。レポートをホームページ上で公開する場合には、誰からの許可も必要ありません。
ただし、添削指導を受けたレポートは異なります。レポートへの書き込みなどの著作権は、添削した教員にあります。添削指導を受けたレポートをホームページ上で公開する場合は、添削した教員の許可を必ずとってください。
さらに、課題(試験問題文)もそれを作成した教員に著作権があります。課題の文章がわかってしまうような形で公開する場合は、課題を作成した教員の許可が必要です。 - 2. 俳句、短歌、標語、キャッチコピー、映画のタイトルなどをレポートに書く場合、出典の明示は必要ですか?
- 「俳句」「短歌」「標語」「キャッチコピー」、このなかで確実に著作権があるのは「俳句」「短歌」です。「俳句」「短歌」を引用する場合は、必ず出典を明らかにしましょう。著作権の保護を受けるためには、創作性がなければいけません。そのため、「俳句」「短歌」には著作権が認められるのです。ただし、「標語」「キャッチコピー」などの短い文章や言葉に対しても、まれに創作性が認められる場合があります。その場合は著作権の保護を受けることになります。
また、映画・書籍・音楽などのタイトルは、著作権が認められないことがほとんどです。こうしたタイトルまで規制してしまうと、新たな物を作ることができなくなってしまうからです。 - 3. レポートに書籍の文章を引用するとき、どの程度までなら許されますか?
- 著作権の保護をうけるのに、文字の分量は関係ありません。そのため著作権は、引用する文章の分量によって左右されることはありません。長いものでも、短いものでも、それに創作性があれば著作権が発生します。レポートに他人の文章を引用するのは、自分の論を補強することが目的です。そのため、①自分の文章と他人の文章とが明確に区別されていること、②自分の文章が主体であり、引用した文章はあくまでそれを補う存在であること、③引用するだけの必然性があること、④引用する著作物の出典を明示すること、の4 点が引用の条件です。もちろん、引用する文章をむやみに変えたり、断りなく省略してはいけません。以上の条件がクリアできていれば、作者(著作権者)の許可がなくても、文章を引用することができます。
インターネットの利用
- 4. インターネットに掲載されている写真や図版を、そのままレポートに使ってもよいですか?
- 個人で楽しむためや、教育を目的とするためであれば、新聞・事典・インターネットなどの写真や図版をコピーすることが許されています。ただし、それをレポートとしてまとめ、提出するような場合は、Q3の引用の条件を満たす必要があります。
また、そうして集めた写真や図版に基づいて書いたものを、そのまま複製して配布することや、ホームページ上で公開することは禁止されています。個人的な楽しみや教育目的の範疇を越えたものになってしまうからです。その場合は、必ず作者(著作権者)の許可を得る必要がありますので、注意してください。
授業
- 5. 授業を撮影(もしくは録音)して後日、授業を受けられなかった友達を集めて上映会を開いてもよいですか?
- 授業の著作権は、講義をする教員にあります。そのため、教員の許可なしにそれを撮影・録音することは、著作権の侵害になる場合があります。さらに、同じ授業を受けている他の学生の姿やその作品なども記録してしまう可能性があります。その場合は、他の学生の肖像権や著作権を侵害することにつながります。そこで、本学においては、授業の内容を撮影・録音することは原則禁止しています。ただし、やむをえないと判断できる事情がある場合は、撮影・録音を許可する場合もありますので、教学事務室へ連絡してください。また、他の受講生たちの許可をとる必要もあります。
- 6. 授業中に制作した自分の作品がとても気に入りました。これを撮影して自分のブログに載せてもよいですか?
- 授業をしている教室を許可無く撮影することは禁止されています。ですので、授業中に許可無く撮影することはできません。教員による教育的指導のもとに制作した作品には、あなただけでなく、教員にも著作権が発生する場合があります。ブログに載せるにあたっては、自分の作品であったとしても、教員に一言断っておくほうが良いでしょう。
作品制作
- 7. 模写をするとき、作家(著作権者)の許可は必要ですか?
- 絵画や写真などを模写するとき、個人的な使用を目的とする場合や、教育的指導の過程で使用することを目的とする場合は、作家の許可は必要ありません。しかし、上記以外の使用を目的とする場合は、作家の許可が必要になります。ただし、著作権には保護期間(通常は作家の死後50 年間)が設けられており、それを超過すれば作家の許可は要りません。
また、「画風」には著作権がありませんので、例えばセザンヌ風の技法でオリジナルの絵画を制作しても問題はありません。 - 8. 画集・絵はがきなどを使ってコラージュやパロディを制作するとき、どのくらいの範囲までなら許されますか?
- 著作権の保護を受けている絵画や写真であっても、もとの形がわからないコラージュやパロディであれば、著作権を侵害したことにはなりません。著作権の保護期間は、基本的に作者の死後50年間ですから、江戸時代の浮世絵などに権利はありません。著作権の保護外のものは、自由にコラージュやパロディ化することができます。
過去に、著作権保護を受けている写真の6分の1を使ったパロディ作品が訴えられたことがあります。結果、著作権の侵害が認められました。 - 9. 授業やプロジェクトの作品をSNSにupしてもいいですか?
- 授業やプロジェクトで学生が作成した動画やコンテンツをYoutubeやinstagram, Xなど、インターネット上のSNSに掲載する機会があれば、作者本人だけでなく、友人、クラスメイト、指導教員などその作品に関わった人、出演している人に対して許可をもらいましょう。
卒業・修了後
- 10. 授業やプロジェクトの作品をSNSにupしてもいいですか?
- 授業やプロジェクトで学生が作成した動画やコンテンツをYoutubeやinstagram, Xなど、インターネット上のSNSに掲載する機会があれば、作者本人だけでなく、友人、クラスメイト、指導教員などその作品に関わった人、出演している人に対して許可をもらいましょう。
- 11. 授業中に制作した作品や、課題のために提出した作品を、公募展に出品してもよいですか?
- 作品の著作権は、作品を制作した人にあります。授業であっても、課題のためであっても、あなたがつくったのであれば、基本的にあなたが著作権者です。しかしながら、授業や課題において制作する作品は教員の指導があることで作品としての質が高められるものであり、課題は教育上の効果を高める目的で学生のみなさんのためにつくられています。そのため、授業中に制作した作品や課題のために提出した作品を公募展に出品される場合は、指導教員や学科研究室・大学院準備室への確認を推奨します。また主催者側で規定がある場合がありますので主催する団体にも確認してください。
著作権に関する主な問い合わせ
公益社団法人 著作権情報センター(CRIC)
〒164-0012 東京都中野区本町1-32-2 ハーモニータワー22階
TEL 03-5309-2421 FAX 03-5354-6435
著作権相談専用 TEL 03-5333-0393
[URL]http://www.cric.or.jp
文化庁長官官房著作権課
〒100-8959 東京都干代田区霞が関3-2-2
TEL 03-5253-4111(代) FAX 03-6734-3813
[URL]http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/
著作権に関する主な参考文献
- 『実務者のための著作権ハンドブック(新版)』池村 聡, 小坂 準記, 澤田 将史 編著、著作権情報センター刊、2022年
- 『著作権法入門2023-2024』文化庁編著、著作権情報センター刊、2023年
- 『著作権関係法令・条例集(令和6年版)』著作権法令研究会編、著作権情報センター刊、2021年
- 『これからの知財入門〜変革の時代の普遍的知識〜』国立大学法人山口大学大学研究推進機構知的財産センター著、日経BP 社、2016年
- 『民法でみる知的財産法(第2版)』金井高志著、日本評論社刊、2012年
- 『法のデザイン―創造性とイノベーションは法によって加速する』水野祐著、フィルムアート社刊、2017年
- 『CODE―VERSION2.0』ローレンス・レッシグ著(山形浩生訳)、翔泳社刊、2007年