美術科

日本画

JAPANESE PAINTING

基礎から学び、感性を育み、
自分だけの日本画を見いだす。

日本画を学ぶことは、自分自身の個性や感性をたいせつに育てていくこと。
基礎からの学習を通して、自分だけの「日本画」を模索します。

コースの特長

01 画の基本をすべて学ぶ。

日本画ならではの画材や技法を基礎から学習。彩色、箔などの基本的な表現技法とともに、「写生」を大切にする学びを通して、対象を見る力、描く力、自分の世界を画面に定着させる力をつけます。

02 自分の内的世界を見つけ出し、磨く。

根気と時間がかかる日本画の制作。そのために必要な努力のなかから、「自分の内的世界」を発見し、磨いていきます。

03 京都で活躍する作家から直に教わる。

日本画の伝統が色濃く息づく京都で、精力的に活動する個性豊かな作家から直接、対面指導が受けられるのも魅力です。

京都+スクーリングまたは東京+スクーリング、または京都のみ・東京のみのスクーリング受講で卒業可
  • ※遠隔のみで卒業の場合、受講日程が限定されることがあります。
  • ※テキスト科目の課題提出は郵送指定となることもあります。
  • ※選択必修科目(3年次)の一部は「京都のみ」「対面のみ」での開講。

学びのステップ

STEP1

対象を見る力、
描く力を育むとともに、
画材の基礎的な扱い方を学ぶ。
対象をじっくり観察して、その本質をつかみとり細密な描写を行います。また、その描写をもとにして、日本画独特の画材を使って、本画の制作に取り組みます。また、古画を模写することで描線と技法やその心を学びます。

色鉛筆による細密描写 テキスト科目例 / 色鉛筆による細密描写モチーフの質感や量感がでるように重ねる色を工夫しながら描くことで、色鉛筆の特性を知り、使い方を学びます。

STEP2

写生から制作への過程を学びつつ、
自分なりの表現を考える。
これまでに培った描写力をさらに深めながら、単に写生するだけでなく、自身の想いをどのように表現していくかを考えます。「植物写生」からイメージをふくらませ、箔を用いて表現します。また、剥製制作では剥製をじっくり観察して描くとともに岩絵具の表現方法を学びます。

植物制作 スクーリング科目例 / 植物制作金箔・絵具での制作。箔のさまざまな技法と使用法を学び、自身の表現に幅をもたせます。

STEP3

より専門性の高いモチーフに挑み、
制作のスキルを磨く。
テキスト科目では人物画や風景画の基礎を身につけます。3年次のスクーリングでは、「人物」や「風景」を選択し、大画面で制作します。制作の過程で「写生」→「小下絵」→「草稿」→「本紙制作」という日本画独特のプロセスを身につけます。

身近な風景の制作 テキスト科目例 / 身近な風景の制作身近な場所で実際に風景の写生をし、その写生をもとにして20号の風景制作をします。

STEP4

自分の制作テーマを深め、
思いのこもった大作を完成させる。
各自が設定したテーマにもとづいて、かたち、構図、配色、技法などこれまでの集大成となる作品を制作します。対象物への思いや自己の表現テーマをより深め、制作者の思いが伝わる作品を完成させることをめざします。

卒業制作 スクーリング科目例 / 卒業制作

入学~卒業までのステップ

4年間で学ぶことがら

1年間の学習ペース

【1年次入学】専門教育科目の1年間の履修スケジュール例

【3年次入学】専門教育科目の2年間の履修スケジュール例

学びの時間割

時間割

長田さん(3年次編入学)の単位修得例

1年目
19単位(T9/S10)
2〜3年目
22単位(T16/S12)
4〜5年目
17単位(T4/S12/GS9)
  • Tテキスト科目
  • Sスクーリング科目
  • GS藝術学舎科目

制作に夢中になると外出しなくなるので、あえて遠くの郵便局まで課題提出がてら散歩していました。

長田 不岐郎
長田 不岐郎
長崎県在住
2020年度卒業

学費の目安

入学選考料・入学金・保険料 50,140円
授業料 323,000円 × 4年間=1,292,000円
スクーリング受講料 312,000円~480,000円

卒業までの合計金額の目安(4年間)
1,654,140円~1,822,140円

  • ※スクーリング受講料は、科目の種類や開講場所によって料金が異なります。
入学選考料・入学金・保険料 50,140円
授業料 323,000円 × 2年間=646,000円
スクーリング受講料 312,000円~384,000円

卒業までの合計金額の目安(2年間)
1,008,140円~1,080,140円

  • ※スクーリング受講料は、科目の種類や開講場所によって料金が異なります。

卒業後、通信制大学院 美術・工芸領域 日本画分野で
学びを深めることもできます。

大学、短期大学、専門学校等をすでに卒業している方は、京都芸術大学通信教育部(大学)日本画コースに3年次編入学ができるため、最短2年間で専門分野の基礎を身に付けられます。大学入学から大学院修了まで、最短4年間で学ぶことができます。
また、通信教育部卒業生は大学院入学時に入学金10万円が免除されます。

  • 書類審査

    書類審査
    (大学等の卒業証明書など)

    最短2年

    3年次編入学の出願資格に
    該当しない方は最短4年(1年次入学)

    通信教育部
    日本画コース

  • 書類審査

    書類審査
    (指定提出物など)

    最短2年

    大学院
    美術・工芸領域 日本画分野

  • 角帽

美術・工芸領域 日本画分野

教員メッセージ

後藤 吉晃准教授

人生の支えとなる日本画制作を、
一歩ずつめざしましょう。

後藤 吉晃
Goto Yoshiaki
准教授

1983年山形県生まれ。2008年京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)大学院修了。2017年「Kyoto Art for Tomorrow -京都府新鋭選抜展-」(京都府京都文化博物館)、2020年「京都日本画新展」(美術館「えき」KYOTO)、2022年「線と円」(京都市京セラ美術館)ほか。日本画技法と、炎を用いて燃やし描くなど、多様な表現との融合を指向し、個展、グループ展を中心に活動。襖絵や能舞台・鏡板の仕事も手がける。

炎舞(2022年)

炎舞(2022年)

このコースでは何を学べますか?
対象を見る目と表現力を養う。
日本画コースでは、写真を用いることなく対象を直接写生して得られる感動を、作品へと昇華させてゆきます。こうした学習によって、対象を見る目、深く感じる心、表現力が養われていきます。また、日本画独特の画材の扱い方を理解し、それらを使いこなしていくなかで、応用力が身につき、卒業時にはひとりひとりが独自の表現を展開できるようになります。
通信教育という点での配慮は?
基本から細やかに指導。
日本画コースでは、全スクーリングを土日の2日間で実施しています。遠方在住の方が多い現状も踏まえ、2022年度よりスクーリングを対面に加え遠隔受講も選択できるようになりました。仕事や育児などで忙しい皆さんも受講しやすく、体力的にも無理なく受けられます。もちろん対面のみでの卒業も可能です。短期間のスクーリングでも、受講前にしっかりシラバスを読み込み、事前課題を作成しておくことで、授業内容をより着実に身につけることができます。また、自宅学習の具体的な内容や方法を参照できるよう、詳細なテキストに加え、動画や参考作品が満載されたweb学習(airU)も充実させています。パソコンが苦手な方へのサポートも検討しているので、ご安心ください。スクーリングでは教員がわかりやすくきめ細やかに指導していき、自宅学習でもわからないことがあればメールでいつでも質問していただけます。また、大学キャンパスやオンラインでの個人面談指導も受けられます。学習相談会など、通常の授業以外でのサポートにも特に力を注いでいるのが、日本画コースの特徴です。
どんな人に学んでもらいたいですか?
楽しく、じっくり生活の中に絵画制作を。
絵が好きな方、新しいことを初めてみようというチャレンジ精神旺盛な方、自然を愛する方…そしてすべての方に。初めてでも心配ありません。ひとつひとつの学びによって、絵が上手くなるだけではなく、生活の中に発見が増え、描くほどに自分の心を成長させることができます。卒業後にこそどんどん活躍していただけるよう、焦らずじっくりと、そして楽しく力をつけていきましょう。

一生つづく×日本画=

川野雅美

川野 雅美
日本画コース(3年次編入学)
'18年度卒業 奈良県在住59歳
川野雅美

卒業後の作品が公募展で受賞し、現在はグループ展に向けて制作中。「機会を見つけて先生や同窓生に画を見てもらうなど、大学でのつながりを、これからも描く支えとしていきたいです」。

鹿を見つめて

「こたえは、前にある」。卒業制作で、鹿の毛一本一本にまで生命を吹きこんだ川野さん。いつも頭のなかで、この言葉を繰り返してきた。絵が好きで美術部に入ったこともあるが、飽きっぽい性格からすぐに退部。大人になってからは仕事と子育ての両立に奮闘してきたが、「ちょうど子どもが独立したタイミングで、長年の職場を離れることに」。ぽっかり空いた心に浮かんだのが、「好きな日本画を、今度こそちゃんと習ってみよう」という想いだった。体験入学が楽しくて、カルチャースクール感覚で気軽に本学へ。そんな川野さんを変えたのが、冒頭の言葉だった。「ひたすらガラスやレンガを描き写す最初のスクーリングで、うまく明暗を描きわけられず、周りの上手さや集中力にも圧倒されて」。つい手が止まりかけたとき、先生が教えてくれたのは、ひたすら対象に向き合うことの大切さ。「迷ったら前を見る、見ることで描ける。今もずっと、この言葉に励まされています」。

久しぶりに訪れた実家近くの奈良公園で、ふと出会った鹿の親子。心に刻まれた風景を写しとろうと、何度も足を運んでスケッチを重ねた。「落ちたての梅の実をかじる早朝から、大きな群れになってねぐらに移動する夕暮れまで。おかげで、すっかり生態にも詳しくなりました」。見るほどに生命をおびてゆく川野さんの鹿。そこには、自身のさまざまな想いも重なる。「身近な人との別れ、新しい家族の誕生。画を見返すと、当時の心境までよみがえります」。最初はとまどったスクーリングも、やがて、朝から夜まで一心に描ける贅沢さをかみしめるように。「クラスメイトが頑張るから、飽きっぽい私でもここまでつづけられて、もっと上手く描こうという欲を持てるようになりました」。小品でも、一生描きつづけたい。ようやく、ずっと向き合えるものを見つけられた、と語る川野さん。自身の画を見つめるその目が、子を守る親鹿の眼差しと重なった。

初めての×日本画=

米沢弘治

米沢 弘治
日本画コース(3年次編入学)
'18年度卒業 大阪府在住64歳
米沢弘治

卒業制作で使った箔のおさらいとして、卒業生のグループ展に出す作品を制作中。「まだまだこれからですけど、いつかは、だれかに貰ってもらえるような画を描きたいですね」。

生きてゆく画

ほぼ50年ぶりに絵筆をとった米沢さん。芸術とは無縁の公務員として生きてきたが、還暦を前に「小学校の先生に自画像を褒められた」思い出に導かれ、入学を決めた。「どうせなら大学で体系的に教わろうと、退職の数年前から学費を貯めました」。緊張しながら訪れた説明会で、先生方の人柄に惹かれ、つい選んだのは未知の日本画。画材の扱い方から線の描き方まで、やることすべてが初体験のなか、とにかくスクーリングで筆の運びや色づかいを見習い、テキスト科目で復習を繰り返した。

「授業中、迷っていたらザバッと先生に画を洗われて、エエッと仰天したこともあります」。思いのままに塗り重ね、違ったら洗い流してもいい。これまでのイメージを覆す日本画の大胆さを知り、ワクワクする一方で、ついていけないもどかしさを感じた。「堅い仕事の習性か、どうしても細部に集中して、全体を見られなくなるんです」。しかし、そんな実直さこそ上達への近道。あらゆるデッサン系科目をとり、だれよりも長く教室で過ごし、描きつづけた米沢さんの筆は、徐々に成長を遂げていった。「卒業制作は、これまでの課題になかったものを描きたくて」選んだのは、大好きな動物であるゴリラ。

箔を焼き、胡粉を盛りあげ、毛描きだけで彩色をほどこす。「ここで教わった技法のすべてを注ぎました」という作品は、卒業制作展で元同僚たちの目を見はらせた。「こんな日本画もあるんだね、と言われて、なんともうれしい気持ちになりました」。さらに、得たのは技だけではない。「ものでも人でも、〝よく見ること〞の大切さを教わり、この歳にして生き方が広がりました」。ただ唯一の心残りは、描くきっかけをくれた恩師に、この世で画を見せられなかったこと。「ひとこと、御礼を言えたらよかった」とつぶやく米沢さん。万感をたたえたゴリラの眼差しは、これからを生きる強さで、見る者の心を捉える。

初めての×日本画=

堀照夫

堀 照夫
日本画コース(2年次編入学)
'17年度卒業 長野県在住75歳
堀照夫

交通の便がよく、緑豊かな東京外苑キャンパスには、今後も藝術学舎の講座などで通いたいと考えている。「スクーリング始業前の朝、駅前の喫茶店で数人のメンバーと集い、絵などについて語りあったのも、楽しい思い出です」

人生百年画

「先生に絵を教わるなんて、子どもの頃以来でしたから」と、100号の大作を前に照れ笑いする堀さん。「いつかは絵を習いたい」という50年来の夢を叶えるため、選んだのがこの日本画コースだった。「展覧会で見るたびに、どうやって描いているのか、不思議で、知りたくて」。仕事を離れたいまこそ、時間をかけても未知の世界に挑もうと決めた。「初心者だし、この年齢だし、ずいぶんと悩みましたが」。案ずるより産むが易し。気後れする心は、最初の授業で一瞬にして消えた。「みんな年齢も経験もさまざま、だけど志が同じだから、壁も何もないんです」。

そんな熱意あふれる仲間に囲まれ、学びについての考え方も大きく変化した。「初めは最短での卒業をめざしていたんです、体力的なことも考えて。でも先生の言葉で、〝じっくり学ぶこと〞こそが自分の目標だと気づきました」。最初の頃は「丸1日かけてコップやリンゴを描くなんて」と思っていたが、描く画面が大きくなるほど、「基礎のデッサンが本制作の要になる」と実感。少しずつ意識が変わるにつれ、画も成長していった。そしてついに100号の卒業制作へ。「テキスト科目で、大画面をいちから完成させた経験が役立ちました」。

体力も気力も要る大画面、だからこそ達成感も大きい。「学生のうちに、故郷、信州の大自然を大きく描きたかったんです」。そして仕上げてみれば、達成感とともに、やり残した思いも生じる。完成は、次への一歩。「公募展をめざすのも良いけれど、何より自分のために描きたい」。勤めていた頃はつねに他人と比較され、競い合う人生を送り、ようやく人の目から自由になれたのがいまの自分。「人生100年時代、家族や仲間との交流と同様に、ひとりで生きる時間も大事にしたい。これからは、ふと思いついた時に筆を持ち、小さな画でも、生活の一部として描いていけたら」。キャンバスに描かれた故郷の山里には、そんな堀さんの心を映す、無垢な自然が広がっている。

壁のむこう×日本画=

岡安俊明

岡安 俊明
日本画コース(3年次編入学)
'16年度卒業 岐阜県在住70歳
岡安俊明

入学以来、旅先でも観光地より「ちょっと裏の風景」を探し歩く習慣が。「以前は外でスケッチするのが気恥ずかしく、近くの草花ばかり描いていましたが、今後はもっといろんな対象をスケッチし、画にしてみたいです」。

夜明けの日本画

理系の研究職に生きながら、「リタイア後は絵を学びたい」という夢を温めてきた岡安さん。距離や費用面から一度は地元の絵画教室を選んだものの、「どうしてもこえられない壁」を感じて本コースへ。「京都で日本画を学ぶ」という念願を果たした。入学してまず感心したのは、テキスト課題に書き込まれた添削の細やかさと的確さ。卒業した今、あらためて当時の添削を見返しつつ、同じ課題を描き直しているという。「たかが3年、されど3年。明らかに〝絵が変わった〞と自分で感じています」。

岡安さんの絵を変えたもの、それは添削だけではない。「さまざまな人が、いろんなやり方で、それぞれの画を描いている」。通信ならでは、大学ならではの多様性が、「日本画はこうあるべき」という枠にとらわれていた岡安さんの目を開かせた。「たとえば、筆の代わりに葉っぱやプチプチ(緩衝材)を使ったり。行き詰まった学友が、岩絵具を洗い落としたら、その跡が思いがけない深みとなったり」。それぞれの制作過程を見るだけで、多くの学びを得られたという。「経験値に関わらず、みなさん個性や熱意がすばらしいです」。

しかし、先生の教えまでが多様なのには、悩まされた。「卒業制作に選んだススキの下図を、ある方は〝暗い〞、別の方は〝これでいい〞と」。先生こそ正しいと思いこむ学生は、何を頼りにすべきかわからなくなる。しかし、それこそが正解。答えは、自分の中にしかない。「暗いと言った先生も、だからダメなのではなく、暗さのなかにも希望がほしいと伝えたかったはず」。そこまで言葉にしないのは、本人に、答えを見つけてほしいから。考えた末に、ススキの足元にふきのとうを描いた卒業制作は、東京の選抜展に選ばれた。「これから新たな構図やモチーフにも挑み、足腰立たなくなるまで描きつづけたい」と笑う岡安さん。その希望が、夜明けを待つススキの穂先に輝いている。

事業経営者×日本画=

川幡紘嵩

川幡 紘嵩
日本画コース(2年次編入学)
'15年度卒業 富山県在住61歳
川幡紘嵩

卒業生同期で結成した「筆児の会」グループ展のほか、市の展覧会や県展にも積極的に出品。「目標があると制作しやすいけれど、入選を意識しすぎると自分らしく描けなくなる…そのジレンマが今の課題です」。

日本画でセカンドステージ

50代後半で仕事に一区切りつけ、もう一度大学で学びたいと考えた川幡さん。「何を学ぼうか迷ったんですが、日本画というまったく未知の領域に惹かれて本学へ」。中学の授業以来、ひさしぶりに筆を取り、まさに自分にとって白紙の世界と向き合うことになった。「膨大な種類の絵具、にかわの扱いなど、すべてが知らないことばかり」。手こずりながらも、岩絵具独特のざらりとした質感に引き込まれていった。

孤独なテキスト科目はペースを決めてこなし、学外実習など多彩なスクーリングも満喫。「ベテラン学生の気迫はもちろん、若い学生たちの情熱にも大いに刺激されましたね」。一方、日本画の授業では、あることで先生から再三注意を受けたという。「とにかく写生をして、絶対に写真を使わないで」。写真を見て描くと、現場で見なかったものを描き、見ていたものを描けなくなる。そう教わっても、季節や時間を合わせて写生しつづけるのは難しい。「これ、写真で描いたでしょ」と講評で先生に見抜かれ、本物の目は誤魔化せないと冷や汗。仕方なく写生に通ううち、現場で吸収する感覚の大切さに気づいた。「近道で要領よく成果を求めるのではなく、遠回りしてこそ身につくことがある」。これまで効率重視の世界で生きてきたからこそ、深く感じるものがあった。

じっくり基礎を積み重ねることにした川幡さんだが、既成の枠にはとらわれたくないと感じていた。「日本画では影をつけないことが多い、と教わって、あえて光を表現したいと思ったんです」。水面の光をとらえた卒業制作は、修正を繰り返し、七転八倒した想い出とともに、もう一歩成長したいという大学院進学への後押しとなった。現在は、先生のアドバイスで新たな画材に挑み、より光を際立たせる手法を研究中だ。「画面を水で洗って描き直したり、箔を貼ったり、日本画って意外と自由なんですよ」という川幡さん。日本画を舞台に選んだ、その人生のセカンドステージにも、新たな光が差している。

芸大への憧れ×日本画=

合田瑠璃

合田 瑠璃
日本画コース(1年次入学)
'14年度卒業 三重県在住80歳
合田瑠璃

卒業制作は京都グランヴィアホテルのロビーを飾り、自身は大学院へ。「絹本など、新しい画材に挑戦中です。まったく予定外でしたが、学びの場から離れがたくて」。

画になったしあわせ

「生まれ変わったら、芸大に行こう」と思っていたところ、本学を知り、居ても立ってもいられなくなって入学した合田さん。当時の想いを語る声は、女子学生のように弾んでいた。実際に女子学生だったのは戦後の混乱期。芸大に行くなど、裕福な子どもにしか許されない時代だった。あれから60年。夢は、ついに京都で叶った。

憧れの大学生活、それは初体験の連続でもあった。まず驚いたのが、「習うのは画だけじゃない」ということ。テキスト課題に欠かせない、レポートも人生初。「高校卒業以来、書くといえば家計簿ぐらいでしたから」。こつこつ取り組むことで、少しずつ慣れていった。さらに、何を履修すればいいか迷うほど、幅広いジャンルの自由選択科目。ここでは学友が支えとなり、自分に合いそうな科目をすすめてくれた。「哲学、環境学、地域学。世の中のいろんなことを知り、描く画に芯が生まれた気がします」。

そして、何より感心したのが、指導の誠実さ。「先生方はみな、自分たちの体得してきたことを、惜しみなく伝えてくださいます」。じつは夫の転勤に付き添い、さまざまな土地で日本画を習っていた合田さん。家事や育児の合間に、コツコツ技術を磨いてきた。「それでもずっと、自分のなかに満たされない何かがあって。大学に来て、技以上に得たものは数えきれません」。広い知識、信じられる師、そして、無心に描くことのしあわせ。

「大学に来てから絵が変わり、まだまだよくなると感じました。これからも、見た人が優しい心を取りもどせるような、悲しんでいる人の心にも届くような絵を描いていきたい」。100歳まで描きつづけなきゃ、と笑う合田さん。穏やかでしあわせそうな絵の裏側には、自由に描けなかった頃の深い苦労が隠れている。だからこそ、その画は、深く豊かに見る者の心を包みこむ。

卒業生の声
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