

食文化デザインコース
- 食文化デザインコース 記事一覧
- 【食文化デザインコース】「食」の広い領域の中で、自分のテーマをどう見つけるか? 1月オフィスアワー・ポルトガル料理家・文筆家、馬田草織さんを迎えて
2026年05月12日
【食文化デザインコース】「食」の広い領域の中で、自分のテーマをどう見つけるか? 1月オフィスアワー・ポルトガル料理家・文筆家、馬田草織さんを迎えて
こんにちは、食文化デザイン研究室の林です。食文化デザインコースに在籍している学生さんの多くは、「食が好き」という気持ちが原動力になっているのではないでしょうか。
衣食住、日々三食。食は言わずもがな最も身近な行為のひとつですが、その広さゆえに、そこからどう自分なりの道を見つけ、個性と強みを磨いていけばいいのか、悩む人も多いのではないかと思います。かくいう私もその1人でした。
能登の食と地域の文化を見つめ続ける、あるドキュメンタリー映画監督からは「課題に対峙したときに根底に感じた“強い怒り”」がご自身の原動力であると聞きました。そのような強い感情に突き動かされて邁進する食のプロもいれば、そうではなく、きっかけは些細な巡り合わせだった。でも今は大輪の花を咲かせている、という人もいます。1月のゲストにお越しいただいた馬田草織さんはその1人と言えるかもしれません。

馬田さんの著作の数々。『塾前じゃないごはん』/オレンジページ刊、『ムイト・ボン!ポルトガルを食べる旅』産業編集センター刊、『ホルモン大航海時代』TAC出版刊。
馬田草織さんは「食の執筆・編集者」「ポルトガル料理家」であり「ポルトガル食堂」主宰として、さらに最近では「エッセイスト・文筆家」としても活動されています。インスタグラムのフォロワーも4万人弱、と多いので、インフルエンサーとしてご存じの方もいるかもしれません。
1月31日に開催したオフィスアワーでは、しなやかに、着々と活動領域を広げていった馬田草織さんの、これまでの努力の過程を伺いました。
「得意ジャンルが欲しかった」
女性ファッション情報誌の編集者からキャリアをスタート。仕事を進める中で、気が付けば少しずつ食を担当することが増えていきました。「考えてみたら、私は料理が好きなんだわと」。もっと食に踏み込みたいという思いが募り、出版社から独立してフリーランスに。「食」で食べていくと決めた時、「得意ジャンルが欲しい、と思いました」と馬田さん。売り込みに行った料理専門誌の編集長に「フリーで行くなら、自分の名前で一冊、本をつくったほうがいいよと言われたんです」。
スペインもイタリアも大好きだけど、すでに先達が多く活躍しており、群雄割拠の状態。そこでふと浮かんだのが、大学の卒業旅行で旅したポルトガルでした。スペインの隣国であり、パン、ワイン、チーズなど、生活の基盤を支える食べ物が豊かで、安くておいしい。そしてまだブルーオーシャンである……そんな理由から進み始めたそうです。それが今や彼女の「核」となりました。

中盤は、馬田さんの専門領域である「ポルトガル×酒」の魅力についてスナップ写真を共有しながらご紹介いただきました。実際に現地を訪れ、目・耳や舌で体験してきた馬田さんの紡ぐ言葉は色彩豊かで臨場感があり、日本とのつながりの深さも改めて気づかされました。
緻密な準備が次のステップにつながる

そんな活動の中、大使館で出会ったのがこのレシピ本(左)。マリア・ルルデス・モデストさんが、ポルトガル各地の郷土料理、家庭料理を集め記録したレシピ集。ポルトガル現地で書き留めた取材メモ(右)。
彼女の場合は、「これだ」と決めてからの詰め方が違いました。ネット情報も全くあてにできない当時、彼女が徹底したのは、確かな一次情報源を深く広く辿ることでした。ポルトガル大使館に足を運び、現地の情報に(もちろんポルトガル語)当たる。俯瞰をし、自身の中で切り口を設定し、仮説をたて、大屋壮一文庫や味の素ライブラリーなどで、食専門書や雑誌をあたり、整合性を探る。これを繰り返し、現地に足を運びました。
並行して半年ほどカメラの学校にも通いました。「発注先の都合で条件も限られる場合があるだろうから、単独取材でも動けるようにしておこうと。撮影も原稿執筆も1人でできると、自由度が広がりますから」。
その後子育て期間に突入。ここが次の「詰め」でしょうか。
物理的に、稼働できる時間とパワーがぐんと減りました。子育てと仕事の両立、いつの時代も課題です。そんななか、馬田さんの場合は、出力はうんと減らしても、アウトプットは止めずに細く続けました。
“大人の無駄話ができる場”が出発点

「ポルトガル食堂」は、毎月2回、キッチンを囲みながらポルトガル料理を仕立て、馬田さんセレクトのポルトガルワインとともに楽しむ食事会。
そんな中で入ってきたのが、“今宵の酒とつまみレシピ”を紹介する連載でした。「幼な子の子育て真っ最中の母となるとなかなか持てないのが、“大人の無駄話ができる場”。そんな場をどうにかして作れれば、同じ立場の人にとってもいいのではないか」という気持ちから、ワイン会をスタート。それが、今の彼女の柱の1つである、ポルトガル料理と料理&ワインを楽しむ「ポルトガル食堂」の開催へとつながっていきます。

「ポルトガル食堂」開催に向けての準備を書き留めたメモ帳。
ポルトガルでのフィールドワークと、その知見をもとにポルトガル食堂で提供したレシピのストックが『ムイト・ボン!ポルトガルを食べる旅』をはじめとする魅力的な旅とレシピの本に結実しました。
心が揺れ動くこの瞬間を「書き留めておかなくちゃもったいない!」

馬田さんが撮りためてインスタグラムに上げた「塾前ごはん」「塾前じゃないごはん」の数々。
そして、後半では「女性の生き方」についても話が及びました。「記録しておかなきゃ勿体ない」と始めた、思春期を(自分は更年期も)迎えた愛娘との親子バトルの記録と、作り続けた日々のごはんのレシピがエッセイ&レシピ集となりました。日々の機微や何気ない心の揺れ動き、暮らしの風景を掬いとった言葉の数々は、広く共感を呼び、エッセイのお声がけも増えていきます。
長崎へとつながるポルトガルの食
最近では長崎とのご縁ができ、足を運ぶことも増えたとか。江戸時代の南蛮貿易を通じて伝わったポルトガルの影響がそこかしこに垣間見られる長崎の食文化。地域の文化や歴史にも触れる食のイベントを長崎現地で開くなど、また少し、そのフィールドは広がっているようです。出力の強弱をその都度、もっともふさわしい塩梅にととのえながら、目の前の仕事を丁寧に、先を見据えて準備も万端に取り組んでいく。そうするうちに、また次のタネが芽生えて、新たな領域に進出していく……
確実に歩みを進めていく中で、馬田さんの大きな領域は定まりつつ、守備範囲は緩やかに変化していきました。「食の編集者でもありライター」から、「ポルトガル料理研究家」「ポルトガルの専門家」へ。そして「文筆家・エッセイスト」へ……。
食のスペシャリストとして第一線での活躍の場をますます広げる馬田さん。折々に訪れるターニングポイントは、「ドラマティックなできごと」や「壮大な課題感」というよりも彼女が実感を持って見据えた身の丈の「気づき」や「思い」だったのではないか、と感じました。
彼女の「強さの秘訣」から、学生の皆さんにもなにか新たな発見や気づきがあれば幸いです。
食文化デザインコース|学科・コース紹介

大学パンフレット資料請求はこちらから
おすすめ記事
-

食文化デザインコース
2026年04月17日
【食文化デザインコース】春の北野天満宮で、食の美を五感で味わう。「いただきますアカデミー」第2回 開催レポート
こんにちは、専任教員の麻生桜子です。 2026年3月3日(火)、北野天満宮にて「いただきますアカデミー」第2回「継ぐひと、つくるひと vol.2 春の北野天満宮…
-

食文化デザインコース
2026年04月17日
【食文化デザインコース】災害時でも「いつも通り」を。管理栄養士が語る、備えの本質
こんにちは、食文化デザイン研究室の麻生桜子です。 12月のオフィスアワーに、管理栄養士の濱田真里さんをお迎えしました。 JDA-DAT(日本栄養士会災害支援チー…
-

食文化デザインコース
2026年02月27日
【食文化デザインコース】教員・在学生と直接話せるオープンイベントを開催しました
こんにちは、食文化デザイン研究室の麻生桜子です。 2月22日(日)、東京・外苑キャンパスにて、文化コンテンツ創造学科の3コース合同オープンイベントが開催されまし…






















