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芸術学コース

2018年12月13日

【芸術学コース】授業紹介「芸術学研修 芸術学フィールドワーク講義b」

みなさん、こんにちは。芸術学コースの三上です。師走を迎え、朝晩冷えてきましたがお変わりございませんか。
今回のブログでは、つい先日の11月24日、25日に開催された芸術学コースのスクーリング「芸術学フィールドワークb」について御報告します。
毎年の入学ガイダンスでもお伝えしていますが、このスクーリングは、入学したばかりの方々を主な対象に、寺院や美術館などをめぐり、教員、学生同士が親睦を深め、お互いの距離を縮めようというものです。関東、京都でそれぞれ年1回ずつ開催されており、京都では梅原賢一郎先生、金子典正先生、関東では私と池野絢子先生が担当しています。関東方面の参加者には、事前に見学先の予習をおすすめし、ディスカッションの時間で話し合いたいテーマ(学習上の困りごと)についても準備をお願いしています。

初日は横浜の三溪園、鎌倉の鏑木清方記念美術館、二日目は池上本門寺、大田区立龍子記念館をまわりました。幸いなことに、両日ともお天気に恵まれました。
三溪園は横浜本牧にある和風庭園で、横浜の生糸貿易商で古美術の大蒐集家、芸術の支援者としても知られる原三溪による造園です。明治39年にその一部が一般に無料で公開されたことも特筆されます。関東大震災と戦災で一時荒廃しましたが、戦後は横浜市により復興されました。入口から少し進むと、三溪園のシンボル、旧燈明寺三重塔が目に飛び込んできます【写真1】。

【写真1】三溪園入口付近から旧燈明寺三重塔を臨む。

三溪園入口で同園学芸員の方が待っていてくださり、入口から一番近い鶴翔閣について早速解説いただきました【写真2】。

【写真2】みんなで学芸員の方から鶴翔閣の説明をうかがっています。

 

今年は原三溪生誕150年に当たり、続いて訪れた三溪記念館では原三溪旧蔵品やゆかりの画家たちの作品が展示されていました。

学芸員の方によるレクチャーでは、「美術館ではぜひ、キャプションよりも実物を自分の目で見て欲しい。」という言葉が多くの方の印象に残ったようで、その後同園を一巡してもう一度記念館に戻ったのですが、後の感想で、「急いで素通りした作品をもう一度見られてよかった。」「気になった作品を確認できた。」という声が上がりました。私もつい解説に目を奪われがちなのですが、作品と直に接する時間も大切にしたいと改めて思いました。

三溪園内には、貴重な歴史的建造物とともに、下村観山の《弱法師》(東京国立博物館蔵)に描かれた臥龍梅など、三溪の支援した日本画家にゆかりの植物も見ることができます【写真3】。

【写真3】三溪園の梅園の臥龍梅。龍の体のようにうねる幹が特徴です。かつて日本画家、下村観山は《弱法師》に同園の臥龍梅を描きました。

また、旧天瑞寺寿塔覆塔は、三溪が好んだ豊臣秀吉が建てたもので、貴重な桃山時代の建築物です【写真4】。

【写真4】旧天瑞寺寿塔覆堂。豊臣秀吉が母の長寿を祝って建てた寿塔を覆うために造られました。

紅葉の見頃は12月に入ってからだそうですが、園内の各所で秋らしい風情を堪能できました【写真5】。

【写真5】三溪園内苑の秋の風情。

なお、余談ですが、三溪にゆかりの展覧会は、東京の畠山記念館でも開催中です(1216日まで)。
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/exhi2018autumn.html

茶器を中心とした三溪旧蔵品が展示され、また島津家ゆかりの庭園の紅葉がまさに見頃を迎えていました。おそらく三溪園も、今頃は紅葉がさらに美しく色づいていることでしょう。

三溪園から鎌倉に移動し、駅付近の中華料理店にて全員でランチタイム。朝から歩きどおしでおなかもすいていましたが、注文の品が来る前に、午前中の感想を一言ずつ述べ合いました。初めて訪れた人はとても新鮮だったようですが、再訪した人も、今回は予習していたので、以前と全く違う印象を受けたようで、予習の大切さをみんなで共有しました。

お店から次の訪問先までは徒歩5分ということで、おいしい料理を食べ、ゆっくり休んで午後の活力をチャージ。それぞれ、丸テーブルを囲んで話が弾んでいました。

午後に訪れた鎌倉市清方記念美術館は、清方が晩年に暮らした自宅のあった場所に建てられています【写真6】。入口の写真からもわかるように、清方の暮らしぶりを身近に感じさせる、小ぶりで瀟洒な雰囲気が魅力です。隣接する小町通りの賑わいが嘘のような閑静な住宅地の一角にあります。

この時は、清方と親しく交流した作家泉鏡花との関係に焦点を当てた特別展が開催されていました。清方作品の中でも、文学とのつながりの深い作品の理解には予備知識が不可欠です。各自、予習を踏まえ、学芸員の方の丁寧な説明を聞きながら鑑賞することで、さらにじっくり味わうことができました。

記念館では、作品の保存を考慮して、なんと年8回も展示替えするそうで、日本画の展示ならではの御苦労も語られました。閉館近くで他に来館者もいなくなったことからお許しをいただき、館内エントランスで感想を述べ、お互いの意見を共有し合いました。

【写真6】鎌倉市鏑木清方記念美術館入口。暗くなると足元に灯りがともされます。

なお、このたび訪れた展示は既に終了していますが、現在の内容も清方の師である水野年方にスポットを当てた貴重なものです。
http://www.kamakura-arts.or.jp/kaburaki/


お正月に鎌倉の小町通りの賑わいも楽しみながら、ぜひ訪れてみてください【写真7】。

【写真7】鎌倉駅から続く商店街、小町通り。昼食後の移動時はまっすぐ歩けないほどの人込みでしたが、閉館後の午後5時を過ぎるとさすがに落ち着いていました。

 

続いて二日目の池上本門寺では、幕末の狩野派の絵画と狩野派歴代の墓所を学芸の方にじっくり説明をうかがいながら散策し、今は途絶えてしまった狩野派の奥深い歴史に魅了されました。

【写真8】本門寺総門。「本門寺」の額の文字は本阿弥光悦筆。こちらはレプリカで、当時の額は本門寺の収蔵品が展示されている霊宝殿で見ることができました。

【写真9】本門寺大堂。

【写真10】本門寺大堂前にて解説いただく。大堂の天井画は、午後訪問する川端龍子の最後の作品で、未完成ながらダイナミックな筆遣いは晩年の様式をよく示しています。

【写真11】狩野派歴代の墓所。

【写真12】奥より、狩野探幽の筆塚と墓石。墓石には探幽の来歴が刻まれています。

見学後は境内のお蕎麦屋さんで昼食。昨日に続き、食事前に全員ひと言感想を述べました。学芸担当の方による霊宝殿の狩野派作品と狩野派の墓所の御案内により、今まで漠然とした狩野派へのイメージが一気に身近になり、とても印象深かった、という声が多く聞かれました。来春には狩野派の展覧会も予定されているとうかがい、改めてゆっくりめぐりたいという声も多かったですね。

【写真13】名物本門寺そば。小さなお餅もお蕎麦もおいしくいただきました。

午後は大田区龍子記念館【写真14】にて、学芸員の方からダイナミックで個性的な龍子作品について解説をうかがった後、記念館向かいの龍子公園に移動【写真15】【写真16】。こちらでは小規模館ならではの御苦労や魅力について具体的にお話しくださり、博物館、美術館運営についても理解が深まりました。

【写真14】大田区立龍子記念館。龍子が自身で設計、建築。龍子は展示室に自然光を取り入れたかったため、大きなガラス戸が設置されたそうです。

【写真15】川端龍子が設計した旧宅、画室、庭園が龍子公園として公開されています。

【写真16】龍子が多くの大作をものした広々とした画室が当時のまま保存されています。

スクーリングの最後に、池上本門寺の朗峰会館【写真17】で話し合いをしました。二日間の研修を終え、それぞれが各自の関心事に引き付けて感想を述べ合いました。また、「テキスト科目の試験のたびに上京しなくてはならないのが困る。」という悩みには「ウェブで提出すれば良いのでは?」ということで、履修上の悩み事が一瞬で解決した場面も。こうした話し合いの良さが実感された一コマでした。

終わりに池野先生が、近代の美術館は場所と無関係に収集された物で構成されており、美術品の墓場だと批判されているが、今回訪れた機関はそれぞれの関係者と深い結びつきがあるところに特徴がある、とお話しされました。感想でも、大規模な展覧会にはよく行くが、今回のような地域に密着した小規模館を訪れたのは初めてだった、という声が多く、新鮮な印象を受けたようで、これからの博物館、美術館の在り方についても考える良いきっかけになりそうです。

【写真17】池上本門寺の朗峰会館。

今年はこれまでで最大の23名の参加で、親しい交流や情報交換も盛んにおこなわれていたようです。最後のディスカッションでも、参加者それぞれの関心に引きつけて、充実した研修となったことがうかがわれました。普段の学習では経験できない参加者同士の活発な交流がとても楽しかった、という声も多く寄せられました。まだ参加されたことのない方も、来年は御参加ください。

スクーリングの後は、二日間の見学についてのレポートの提出があります。今回の研修の成果をうかがうのを、池野先生と楽しみにお待ちしています。みなさん、二日間お疲れ様でした!(三上美和)

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