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芸術学コース

2022年08月29日

【芸術学コース】「ロンケンイチのテーマ、何にしよう?」

 皆さん、こんにちは。お元気にお過ごしでしょうか。芸術学コースの教員の武井です。今年の夏も暑かったですね。大変な豪雨もありました。皆さんがお健やかであることを祈るばかりです。ところで、芸術学コースの夏の風物詩といえば、学生の皆さん、特に2年次、3年次の皆さんのアタマを悩ませる問題、「ロンケンイチのテーマ、何にしよう?」です。さて、「ロンケンイチ」とは何でしょう?

 芸術学コースは、古今東西の芸術の歴史と理論を学ぶコースです。本学では4つの学びのステップが用意されており、このカリキュラムに従って学習を進めれば、自然と芸術学について学びを深めることができるようになっています。4つのステップとは以下の通り。

  1. 芸術学を学び始めるステップ1;フィールドワークやワークショップ、知識を広く学ぶ科目を通じて芸術学に入門します。

  2. 専門的な知識を身に付けるステップ2;作品鑑賞の方法、美術資料の読み方、各理論科目の履修を通じて、具体的な研究の方法論を学びます。

  3. 研究の現在を学ぶステップ3;各教員の専門分野の研究の現在を知るとともに、各々が「卒業研究」に向けて「ロンケンイチ」こと「論文研究Ⅰ」に着手します。

  4. 「卒業研究」に取り組むステップ4;「ロンケンイチ」で選んだテーマを悪戦苦闘しながら育てていき、「卒業研究」として完成させます。


 本学の芸術学コースの最大の特徴は、実はこの約2年間にわたって丁寧に取り組んでいく「論文研究Ⅰ」から「卒業研究」へと進んでいけるカリキュラムにあります。学生の皆さんは、複数の担当教員による面談指導とレポート指導を繰り返し受けながら、「卒業研究」の完成までご自分のテーマにじっくり取り組んでいくことができるのです。この「卒業研究」を深く掘り下げるという作業を通じて、皆さんが新たな視野を手に入れて、ご自分の感性を越えて行って下さることを願っております。

 そのようなわけで、枠組はしっかり決まっているのですが、問題は中身、つまり、研究テーマはどうするか、ということになるわけです。「卒業研究」を実り豊かなものにするためには、ここに繋がる「ロンケンイチ」のテーマ選びがやはり重要になってきます。それなりに情熱を傾けられるテーマを選ばなければ、結果も出てこないからです。

 このように書くと、目下、ロンケンイチのテーマで悩んでいる皆さんからは悲鳴が聞こえてきそうですね。大丈夫です。今日はお悩みの皆さんに、とっておき(?)の方法を3つ、お教えいたしますので、どうぞ試してみて下さい。

1.記憶を探す


 まずは自分の古い記憶を探してみましょう。人生で最初に夢中になったものは何だったでしょうか。芸術に限らなくて結構です。私の場合は小学生の頃、アーサー・ランサムというイギリスの児童文学作家の物語に夢中になりました。『ツバメ号とアマゾン号』シリーズ12巻です(図1)。イギリスの湖水地方で、ヨットに乗ったり、島でキャンプをしたり、子供たちだけで長い休暇を過ごす物語です。『海に出るつもりじゃなかった』という巻では、成り行きで、嵐の北海を子供たちだけで横断したりします。実にワクワクする物語です。今から思うと、キーワードは、海と冒険です。12世紀後半の十字軍時代の美術に惹かれるようになった後年の私の研究のルーツは、すでにここにあったのだと思います。人間は変わるようであまり変わらない部分もあるようです。子供の時、自らの最も好む何ものかに私たちはもう出会っているのではないでしょうか。迷ったら、子供の時、何に夢中だったのか、自分の“記憶”を探してみましょう。

図1


2.近所を探す


 いつも自分が見ているものを思い出してみましょう。作品研究をする場合、オリジナルの作品を見ることができる、あるいは、その作品をどれくらい見ているか、親しんでいるか、といったことが、見えないアドヴァンテージになります。例えば、勤め先や地元近辺の美術館が所蔵する作品、近所のお寺や神社にある作品、自宅の居間に飾ってあった古い複製の名画、自分の好きな書物やマンガを彩る挿絵、自分が好んで使っている家具や食器や文具など、日常風景と化して普段は意識することもないけれど、実はよく見知っている作品、テーマ、素材はないか、自分がいつも見ているものを思い出してみましょう。中世キリスト教美術を専門とする私の場合、キリスト教は生まれた時からの環境でしたし、父が中世英語の学者でしたので自宅には写本の複製が額に飾られていました。写本の(文字の方ですが)書籍もたくさんありましたので、今から思うと、私のテーマはやはり“近所”にあったのだと思います。(図2)

図2


3.直感を信じる


 最後はチカラワザです。これか?と思った直感を信じてみましょう。私の場合、西洋中世美術史をやることは決まったものの、どの作品をやるかはやはりずいぶん悩みました。対象と選んだ《ウィンチェスター聖書》の挿絵は、指導教官が複数挙げてくれた候補の1つに過ぎず、最終的に決めたのはやはり自分の直感だったように思います。専門をおおよそ決める学部2年の夏、イギリスのオックスフォードに別の作品の資料収集に出かけた時のこと、ブラックウェルズという古本屋の2階のガラスケースに《ウィンチェスター聖書》のカタログが、ばーんと飾ってあったのです(図3)。階段を上がった真正面に飾られており、これか?と思った瞬間をよく覚えています。それから四半世紀以上が経ちますが、この作品は私を世界中に連れて行ってくれました。

図3



 研究は井戸を掘るようなものだと思います。狭く深く掘り下げていくと、ある時、横に繋がる広い地下水脈に辿り着くように思います。つまり、何を掘るか、より、いかに掘り続けるか、ということの方がはるかに大切なのです。何れは横に広く繋がる地下水脈に辿り着くわけですから。

 そのようなわけで、選ぶテーマ自体について、あまり悩む必要は実はありません。問題は、そのテーマに自分がずっと向き合っていけるかどうか、です。何も考えずに作品を見て、あるいはテーマを考えて、あーいいな、と思えれば大丈夫です。勇気を持って歩き始めてみましょう。

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