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2023年01月20日
【アートライティングコース】「石ってものは固いもんですが、その扱いは豆腐よりも大事に扱わなくっちゃならない」斎藤隆介『職人衆昔ばなし』(1967)

画像は戦前の教科書に掲載されていた石勝をモデルにしたと思われる詩。文部省『尋常小學國語讀本』 卷9、1929年(国立国会図書館デジタルコレクション)。
みなさま、こんにちは。アートライティングコースの教員、上村博です。もうそろそろ春が立つころですね。卒業研究の成果物も提出される時期になりました。
アートライティングコースで学ぶかたは、やはりもともと「アート」に関心があって、美術館や演奏会に足を運ばれるかたが多いのですが、実際に卒業研究で扱われるものは、かならずしも美術や音楽ばかりというわけではありません。授業の課題でも、たとえば「道具」について書くことが求められたりしますし、狭義のアートというより、もう少し広く人間の制作活動に目を向けることが期待されています。実際、日本の文化はすんなりと絵画や彫刻といった美術の枠にはあてはまらないものが多いですし、また劇場やギャラリー空間以外でも、生活の中のさまざまなものづくりの局面において、人の技や知恵がきわめて精緻にはたらいてきました。それらに注意を向けて伝えることも、文化遺産を大事に守ることにつながるでしょう。
冒頭に掲げましたのは、「石勝」こと中村勝五郎の言葉です。「中村勝五郎」は江戸時代以来、代々受け継がれた東京青山の石屋の名前で、引用した言葉は、明治生まれの石勝から、昭和30年代に斎藤隆介が聞き書きしたものです。雑誌『室内』に収録(1961)されたのち、『職人衆昔ばなし』(1967)という書籍にまとめられました。全国的に知られた名人石勝の作は、今も狛犬や墓石などに見ることができます。「石ってものは固いもんですが、その扱いは豆腐よりも大事に扱わなくっちゃならない」というのは名人ならではの実感のこもった表現です。冗長に言い換えると、僅かな欠損でも台無しになってしまう石材は、堅牢なものとはいえ、加工したり運んだりするにあたっては、柔らかで崩れやすい豆腐以上に細心の注意が必要だ、ということになるでしょう。しかし、「豆腐よりも大事に扱わなくっちゃならない」というのは、石彫に習熟した手を持つ者ならではの感覚を、端的に伝えるすぐれた言葉だと思います。またその言葉を聞き出した著者の感覚もすばらしいです。
近代の芸術家は、作品プレゼンテーションや図録などの執筆の機会に、知的な言語を駆使して自らの作品を説明することは珍しくありません。他方で、職人はあまり自分を語らず、その機会もないことが普通です。しかし経験を積んで技を磨いて得られた芸術的感覚があってはじめて語ることができる言葉というものもあります。そうした言葉を介することで、硬い石塊に対し、繊細に震える豆腐をそっと手で抱えるように接する名人の細心さに共感することが可能になります。芸術を伝えるにも芸術が必要な所以です。アートライティングの妙もそこにあるでしょう。
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