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2024年04月23日
【アートライティングコース】アートライティングって何?

こんにちは。
アートライティングコース教員の大辻都です。
桜の時期を過ぎても、ユキヤナギ、レンギョウ、チューリップと色鮮やかな花々が次々目を楽しませてくれる季節ですね。
今年もアートライティングコースに大勢の新しい仲間が加わってくれました。通信教育部では、4月1日から授業がスタートしますので、入ったばかりの学生たちは早くも課題と格闘を始めています。
本学にアートライティングコースができて今年で6年目。中堅のコースとして安定してきた2024年度からは、カリキュラムも刷新されました。
これまでの科目に加え、新しい顔ぶれとして、「インタビューの方法論」「書評を書く」「ノンフィクションを書く」など、実践的な力がつく演習科目がずらり勢揃いしています。
新科目のうち私が担当するのは「書評を書く」。選び抜いた7冊の本を書評の課題に挙げましたが(学生はこの中から一冊を選んで書評を書きます)、学生たちがどんな本気の文章を書いてくるのか、今から楽しみでたまりません。

「『アートライティング』って何だろう?」「何をするところなんだろう?」と思う方も多いでしょう。
文字通りに説明すれば、アート=芸術・文化を書く行為であり、書かれたテキストのこと。でも、日本ではまだ定着した用語とは言えません。また、大学教育として「アートライティング」を教え、その書き手を育てる学科やコースは、今のところ本学のアートライティングコースだけだと思います。
イギリスの美術批評家ギルダ・ウィリアムズによる『コンテンポラリーアートライティングの技術』のような本では、アートライティングを現代アートを対象とした文章と限定した上で論じています。でも私たちのコースでは、この言葉を美術に限って考えてはいません。
(もっともウィリアムズの本も、原題はHow to Write about Contemporary Artですから、日本語タイトルでたまたま「アートライティング」とされたに過ぎませんが)
私たちは「アート」という語をより本源的なところから—英語のartの語源であるラテン語のarsに遡り、あるがままの自然ではなく、人間が後天的に作り出したすべての技や文化という意味を含めて—考えています。そしてまた、その後一般に普及する意味、すなわち人々に美的な対象として鑑賞される創造物がアートであるのはもちろんのことです。
つまり私たちが考える「アートライティング」のアートとは、単に「現代アート」のような対象にとどまらず、かなり広い対象をカバーしています。
ですから、美術批評や文芸批評は当然アートライティングですが、古くからの手仕事の聞き書きも、最近気になる新しい食習慣の取材記事も、見知らぬ土地を訪ねて出会った風俗を書き綴る紀行文も、すべてアートライティングと言えるのです。
私自身も教員でありながら、日頃自分自身のアートライティングを模索しています。この春最初の仕事は、長年研究してきたカリブ海出身の作家の追悼文を書くことでした。「追悼文」は対象の人物の死を悼むことが目的ですが、新聞や文芸誌などが求めているのは、その作家がどんな作品を残したのか、それらは時代の中でどういった意味を持っていたのかについて考えをまとめた記事です。
個人的にも思い出のある作家でしたからもちろん悲しいですし、そうした感情にも触れながら、全体としては作家の人生を通した活動全体を批評することを目標に、2本の記事を何とか書き分けました。そういう意味では、追悼文もまたアートライティングの一部と言えるのではと思います。

卒業時には、学生各自が自由にテーマを選んでのアートライティングを書いてもらいますが、実際この春の卒業生たちも、かなり多様な作品を披露してくれました。
最優秀作品に選ばれた「写真と死」*は、妻の死を悲しみながらも受け容れてゆく義父の姿を、義父自身が撮った複数の写真をたどりながら描いた文章で、わかりやすい表現と抒情的な味わいを持ちながらも、優れた写真論になっていました。
同窓会賞を受賞した別の作品*は、東日本大震災をテーマとしながら、震災をモチーフに書かれた小説を取り上げ、芸術作品がどうしたら災害にコミットできるか問うものでした。
どの学生も思い思いに、自分ならではのアートライティングを模索していたのが印象的で、読み応えはたっぷりでした。
*記事中の成果物は、ウェブサイト「京都芸術大学通信教育課程WEB卒業・修了制作展2023」で読むことができます。
京都芸術大学 通信教育課程 WEB卒業・修了制作展
アートライティングコースに入ってくる学生のバックグラウンドはさまざま。すでにライターとして経験を積んでいる人、仕事で文章作成に関わる人もいれば、美術展に足を運んだりお寺を見て歩くのが大好きという人もいます。最近は、絵を描いていたり、舞台を創っていたりと、自身が何らかの制作に関わっている人が増えてきているように感じています。自分の作品を何とかうまく言語化したいという気持ちがあるようです。
自作品のステイトメントを書くことへの関心も高まりつつあり、コースとしてもどうお手伝いできるか、考えていく必要があるかもしれません。
コースで指導に関わっていると、自分が考えていることをうまく言葉にしたいなあという熱い思いが、どの学生からもひしひしと伝わってきます。とはいえ言語は人工物。一方、人の気持ちや考えにはゆらゆらした曖昧な部分があるもの。ですから、気持ちや考えをその通りに言語にするのは至難の業です。
それでも、他者に対してより伝わりやすい表現は探せばあるはずです。それを一緒に考える場が、私たちのアートライティングコースだと思っています。
アートライティングコース|学科・コース紹介
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