食文化デザインコース
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2024年06月25日
【食文化デザインコース】料理人にとって大事な学びとは~後編~
食文化デザインコース専任教員の宇城安都美です。
※本記事、「【食文化デザインコース】料理人にとって大事な学びとは」は前編後編となっております。
「料理人にとって大事な学びとは~前編~」はこちらをご覧ください。
RED U-35 10周年記念「ファイナリストの饗宴 ―能登と紡ぐ食の希望―」
2024年5月21日(火)東京ミッドタウン日比谷にある「DRAWING HOUSE HIBIYA」にて、「RED U-35 2023」ファイナリスト5名による特別コースをふるまうアフターイベントが開催されました。
このイベント「ファイナリストの饗宴 ―能登と紡ぐ食の希望―」は、RED U-35の10回目の開催を記念したイベントであるのと同時に、参加費の一部が令和6年能登半島地震の復興支援金として活用されるチャリティイベントでもありました。
【RED U-35 2023 ファイナリスト】
山本結以(ESqUISSE / 東京都中央区 / フランス料理)
西山優介(respiracion / 石川県金沢市 / 里山料理)
穴沢涼太(里山十帖 / 新潟県南魚沼市 / 日本料理)
黒川恭平(レストラン ブロッサム / 石川県七尾市 / 洋食)
清藤洸希(枯朽 / 東京都墨田区 / フランス料理)
※氏名(所属店舗/店舗所在地/専門料理ジャンル)
5人のシェフが一緒になって1つのコース料理を提供する。RED U-35のイベントではよくあることですが、実は料理ジャンルも違えば活動拠点も違うシェフたちが1つのコース料理を作り上げ提供することは結構大変です。やはりみんなメイン料理を作りたいと思うのではないか?料理ジャンルが違う料理が次々に出てきたら、コース料理としてのまとまりはつくのだろうか?など、思われるかもしれませんが、一緒に戦った仲間である5人はお互いに敬意を払い信頼し合い、そして何よりもお客様を笑顔にしたいという思いから、それぞれの料理人の良いところをお互いに引き出しながらコース料理を考案していきます。
今回のメニューと料理人のメッセージ
まず一皿目は「結い目」と名付けられたアミューズ。5名それぞれが担当した小さな前菜の盛り合わせからスタートします。
この日はお料理の説明と共に、考案したシェフのメッセージが読み上げられました。ここに一部紹介します。
アミューズ:「結い⽬」
北陸と東京を結ぶイベントの中で唯⼀5⼈の料理が⼀⽫に乗るアミューズ。RED U-35をきっかけに⽣まれたこの縁がより固く結ばれることを願って、結い⽬。また、これまでがむしゃらに前だけを⾒つめ歩んできた⽯川能登の⽅々への想いをのせて。今現在進⾏形でそれを⽀え続けている全国からの⽀援している⽅達。RED U-35を通して、⾷を通してこれからの⽇本を変えていこうという料理⼈達。全てのつながりのある⼈達に対しての、私達5⼈の共通の想いを込めます。
前菜「開花」/山本結以/烏賊 加賀太胡瓜 ハーブ
全てのメイン食材を能登の漁師さん、農家さんのものを使用しました。能登漁師の洋助さんは、ご自身が大変な時であるにもかかわらず漁に出て、ESqUISSE(エスキス)に魚を卸し続けてくださいました。加賀太胡瓜やトマトは能登高農園さんのものを使いました。高さんの畑は震災により大きな影響を受け、出荷がこれまで通りに行うことができませんでした。そんな中で高さんが口にしたのは、「料理人たちが思い望む日にちに発送をできずに迷惑をかけているのが申し訳なく、辛い」。それを聞いたときに、高さんの料理に対する大きな愛情を感じて胸が熱くなりました。小さな私が能登のためにできることは、愛情をもって食材を扱い、感謝をすること。能登への想いをここで開花させたいと思います。赤烏賊は昆布じめに、加賀太胡瓜は味噌とフロマージュブランでマリネしたものと、桂むきにしてから胡瓜ジュースでマリネしたもの、2種類の調理法を用いています。八朔、ハーブのマヨネーズ、トマトと貝と白ワインのジュレを添えて、能登あんがとう農園さんのハーブや花をあしらっています。
前菜「未来へ」/西山優介/稗 能登猪 一休寺納豆
最終審査で審査員の⽅々に食べていただいた、宮崎県の稗ずしという郷⼟料理を⾃分なりに解釈したものです。この料理には、先⼈達の歴史や苦労、今を⽣き次世代へと受け継ぐ職⼈や農家さん達の思いを広く知って欲しいと思い作った物です。能登の猪をベースに、稗や⼤⾖、地元の⼀休寺納⾖や煎茶を使⽤した、地味ながらも⼼に沁みる味わいにしました。能登⾼農園さんから、頂いた杉の葉で爽やかなオイルを作り仕上げに添えています。
魚「逆波」/清藤洸希/平鱸 シラモ うきは茶
私のお店「枯朽」のアイコン的な⾷材であり、昆布のような旨みを持つ「うきは茶」、能登で獲れる「天然の海藻」、私の地元である九州から届く「平鱸」を合わせた⼀品です。もずくやうきは茶から作る⾐を纏わせてフリットにした平鱸は⽔⾯下に潜む岩のようなビジュアル。うきは茶のオイルに絡めた天然の海藻とレフォールの泡に包まれた⻲の⼿も薄暗く危険な岩場を彷彿とさせますが、ナイフを⼊れると⽩く輝く瑞々しい平鱸が顔を出します。まだまだ続く困難な状況の中にも、希望が存在していることを表現した⼀⽫です。
肉「恩恵」/黒川恭平/能登牛 キハダの実 クレソン
1⽇に75Lもの⽔を飲む能登⽜。1⽉1⽇の震災により⽔が絶たれ、早く出荷しようにも道が⼨断され出荷できない状況にありました。「命に責任が持てない事が悔しい」と⾔っていた能登牧場の平林さん。それでも懸命な⽔汲みにより被害は最⼩限に留まりました。そうして繋がれた能登⽜の命の恵みに敬意を⽰し、次世代へ明るい未来を紡いでいく希望と決意を込めたハンバーグです。付け合わせにはキハダの実を混ぜ込んだ能登島の⾚⼟じゃがいものグラタン、天然クレソンのソースと初夏のお野菜を添えました。
デザート「感謝」/穴沢涼太/ミルク 苺 百花
L’Atelier de NOTO(ラトリエドゥノト)の池端さんの牧場のミルク、高農園さんのハーブや花、赤崎の苺。自身が困難な状況でも地域の為、私たち料理人やお客様のために動き続ける姿には頭が上がりません。まだまだ復興とはいえない状況の中で今回のイベントのために快く食材を用意してくれました。シンプルですが食材の味、感謝の想いと復興への願いを込めたデザートです。
どのお料理も美しくテーブルにお料理が運ばれるたびにワクワクが止まりませんでした。お料理の説明やメインで使われている食材はメニュー表に書かれていますが、それ以外の他の食材の気配も感じたくてゆっくり何度も味わいたくなるお料理ばかり。この食材をこんな風に調理するのか。という調理技術の驚きはもちろんですが、なぜこの食材を選んだのか、この食材にはどんなストーリーがあるのか。このタイミングでこの温度のお料理、そして全体を通して味の緩急がしっかりついたコース料理としてのまとまり。メニューの「銘」に込められた思い。メッセージに込めた思い。これらすべてが食文化デザインだと感じました。調理技術という科学的な視点と職人技、生産者に思いを馳せる感受性、目にも美しい芸術性、総合芸術として料理を作り上げるには、様々な知識と経験が必要だとあらためて感じます。そして、その思いをしっかりと食べ手に伝えるプレゼンテーション力も必要です。
この食文化デザインコースは「食を文化芸術と捉え、食に関わる幅広い知識と感性を磨く」ことで、身の回りにある価値や魅力に気がつくことができ、創造力・発想力豊かに、食によって自分と周りの人、社会を幸せにできる力を育む学びを提供します。「おいしい食体験をつくること」によって、人に喜んでもらいたい、幸せにしたい、という思いを持つ方の背中を押し、その可能性を広げる学びです。料理人の方にも是非受講いただきたいと思っています。
写真提供:RED U-35実行委員会
※本記事、「【食文化デザインコース】料理人にとって大事な学びとは」は前編後編となっております。
「料理人にとって大事な学びとは~前編~」はこちらをご覧ください。
RED U-35 10周年記念「ファイナリストの饗宴 ―能登と紡ぐ食の希望―」
2024年5月21日(火)東京ミッドタウン日比谷にある「DRAWING HOUSE HIBIYA」にて、「RED U-35 2023」ファイナリスト5名による特別コースをふるまうアフターイベントが開催されました。
このイベント「ファイナリストの饗宴 ―能登と紡ぐ食の希望―」は、RED U-35の10回目の開催を記念したイベントであるのと同時に、参加費の一部が令和6年能登半島地震の復興支援金として活用されるチャリティイベントでもありました。
【RED U-35 2023 ファイナリスト】
山本結以(ESqUISSE / 東京都中央区 / フランス料理)
西山優介(respiracion / 石川県金沢市 / 里山料理)
穴沢涼太(里山十帖 / 新潟県南魚沼市 / 日本料理)
黒川恭平(レストラン ブロッサム / 石川県七尾市 / 洋食)
清藤洸希(枯朽 / 東京都墨田区 / フランス料理)
※氏名(所属店舗/店舗所在地/専門料理ジャンル)
5人のシェフが一緒になって1つのコース料理を提供する。RED U-35のイベントではよくあることですが、実は料理ジャンルも違えば活動拠点も違うシェフたちが1つのコース料理を作り上げ提供することは結構大変です。やはりみんなメイン料理を作りたいと思うのではないか?料理ジャンルが違う料理が次々に出てきたら、コース料理としてのまとまりはつくのだろうか?など、思われるかもしれませんが、一緒に戦った仲間である5人はお互いに敬意を払い信頼し合い、そして何よりもお客様を笑顔にしたいという思いから、それぞれの料理人の良いところをお互いに引き出しながらコース料理を考案していきます。
今回のメニューと料理人のメッセージ
まず一皿目は「結い目」と名付けられたアミューズ。5名それぞれが担当した小さな前菜の盛り合わせからスタートします。
この日はお料理の説明と共に、考案したシェフのメッセージが読み上げられました。ここに一部紹介します。
アミューズ:「結い⽬」
北陸と東京を結ぶイベントの中で唯⼀5⼈の料理が⼀⽫に乗るアミューズ。RED U-35をきっかけに⽣まれたこの縁がより固く結ばれることを願って、結い⽬。また、これまでがむしゃらに前だけを⾒つめ歩んできた⽯川能登の⽅々への想いをのせて。今現在進⾏形でそれを⽀え続けている全国からの⽀援している⽅達。RED U-35を通して、⾷を通してこれからの⽇本を変えていこうという料理⼈達。全てのつながりのある⼈達に対しての、私達5⼈の共通の想いを込めます。
前菜「開花」/山本結以/烏賊 加賀太胡瓜 ハーブ
全てのメイン食材を能登の漁師さん、農家さんのものを使用しました。能登漁師の洋助さんは、ご自身が大変な時であるにもかかわらず漁に出て、ESqUISSE(エスキス)に魚を卸し続けてくださいました。加賀太胡瓜やトマトは能登高農園さんのものを使いました。高さんの畑は震災により大きな影響を受け、出荷がこれまで通りに行うことができませんでした。そんな中で高さんが口にしたのは、「料理人たちが思い望む日にちに発送をできずに迷惑をかけているのが申し訳なく、辛い」。それを聞いたときに、高さんの料理に対する大きな愛情を感じて胸が熱くなりました。小さな私が能登のためにできることは、愛情をもって食材を扱い、感謝をすること。能登への想いをここで開花させたいと思います。赤烏賊は昆布じめに、加賀太胡瓜は味噌とフロマージュブランでマリネしたものと、桂むきにしてから胡瓜ジュースでマリネしたもの、2種類の調理法を用いています。八朔、ハーブのマヨネーズ、トマトと貝と白ワインのジュレを添えて、能登あんがとう農園さんのハーブや花をあしらっています。
前菜「未来へ」/西山優介/稗 能登猪 一休寺納豆
最終審査で審査員の⽅々に食べていただいた、宮崎県の稗ずしという郷⼟料理を⾃分なりに解釈したものです。この料理には、先⼈達の歴史や苦労、今を⽣き次世代へと受け継ぐ職⼈や農家さん達の思いを広く知って欲しいと思い作った物です。能登の猪をベースに、稗や⼤⾖、地元の⼀休寺納⾖や煎茶を使⽤した、地味ながらも⼼に沁みる味わいにしました。能登⾼農園さんから、頂いた杉の葉で爽やかなオイルを作り仕上げに添えています。
魚「逆波」/清藤洸希/平鱸 シラモ うきは茶
私のお店「枯朽」のアイコン的な⾷材であり、昆布のような旨みを持つ「うきは茶」、能登で獲れる「天然の海藻」、私の地元である九州から届く「平鱸」を合わせた⼀品です。もずくやうきは茶から作る⾐を纏わせてフリットにした平鱸は⽔⾯下に潜む岩のようなビジュアル。うきは茶のオイルに絡めた天然の海藻とレフォールの泡に包まれた⻲の⼿も薄暗く危険な岩場を彷彿とさせますが、ナイフを⼊れると⽩く輝く瑞々しい平鱸が顔を出します。まだまだ続く困難な状況の中にも、希望が存在していることを表現した⼀⽫です。
肉「恩恵」/黒川恭平/能登牛 キハダの実 クレソン
1⽇に75Lもの⽔を飲む能登⽜。1⽉1⽇の震災により⽔が絶たれ、早く出荷しようにも道が⼨断され出荷できない状況にありました。「命に責任が持てない事が悔しい」と⾔っていた能登牧場の平林さん。それでも懸命な⽔汲みにより被害は最⼩限に留まりました。そうして繋がれた能登⽜の命の恵みに敬意を⽰し、次世代へ明るい未来を紡いでいく希望と決意を込めたハンバーグです。付け合わせにはキハダの実を混ぜ込んだ能登島の⾚⼟じゃがいものグラタン、天然クレソンのソースと初夏のお野菜を添えました。
デザート「感謝」/穴沢涼太/ミルク 苺 百花
L’Atelier de NOTO(ラトリエドゥノト)の池端さんの牧場のミルク、高農園さんのハーブや花、赤崎の苺。自身が困難な状況でも地域の為、私たち料理人やお客様のために動き続ける姿には頭が上がりません。まだまだ復興とはいえない状況の中で今回のイベントのために快く食材を用意してくれました。シンプルですが食材の味、感謝の想いと復興への願いを込めたデザートです。
どのお料理も美しくテーブルにお料理が運ばれるたびにワクワクが止まりませんでした。お料理の説明やメインで使われている食材はメニュー表に書かれていますが、それ以外の他の食材の気配も感じたくてゆっくり何度も味わいたくなるお料理ばかり。この食材をこんな風に調理するのか。という調理技術の驚きはもちろんですが、なぜこの食材を選んだのか、この食材にはどんなストーリーがあるのか。このタイミングでこの温度のお料理、そして全体を通して味の緩急がしっかりついたコース料理としてのまとまり。メニューの「銘」に込められた思い。メッセージに込めた思い。これらすべてが食文化デザインだと感じました。調理技術という科学的な視点と職人技、生産者に思いを馳せる感受性、目にも美しい芸術性、総合芸術として料理を作り上げるには、様々な知識と経験が必要だとあらためて感じます。そして、その思いをしっかりと食べ手に伝えるプレゼンテーション力も必要です。
この食文化デザインコースは「食を文化芸術と捉え、食に関わる幅広い知識と感性を磨く」ことで、身の回りにある価値や魅力に気がつくことができ、創造力・発想力豊かに、食によって自分と周りの人、社会を幸せにできる力を育む学びを提供します。「おいしい食体験をつくること」によって、人に喜んでもらいたい、幸せにしたい、という思いを持つ方の背中を押し、その可能性を広げる学びです。料理人の方にも是非受講いただきたいと思っています。
写真提供:RED U-35実行委員会
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