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2025年05月23日
【芸術教養学科】大人こそ、ビギナーであれ
芸術教養学科 早川克美
せっかく入学した大学、あえて「初心者のまなざし」を持ち続けること。
その先に、自分でも知らなかった学びと変化が、静かに待っているのかもしれません。
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社会人として長く働き、役割や肩書きを持ち、それなりの経験を重ねてきた私たちは、知らず知らずのうちに「わかったつもり」になってしまうことがあります。
「そんなの前にもやったことがある」「それは現場では通用しない」
――しかし、そう思った瞬間、学びは止まってしまいます。
私自身、長年デザインの仕事をし、大学で教えるようになった今も、
自分に言い聞かせている信念があります。
それは、「大いなる素人であれ」ということです。
ここでいう「素人である」とは、何も知らないということではありません。
むしろ、すでに持っている知識や経験を一度脇に置き、初めてのように世界を見るという姿勢です。
「なぜそうなるのか?」
「本当にそうするしかないのか?」
「誰のための仕組みなのか?」
こうした問いを手放さない姿勢が、学びの扉を開き続けてくれます。
とはいえ、この「素人である勇気」を持ち続けることは、簡単なことではありません。
私自身、会議の場で一人だけ異議を唱え、場の空気を乱すように見られることはしょっちゅうです。または「いつまでも学生気分だ」と揶揄されることもしょっちゅうです。
でも、それでも素人であり続けることをやめなかったのは、
素人の目で見直すことが、社会にとっても、組織にとっても、自分にとっても必要だと信じていたからです。
そんなとき、私の支えになったのが、鈴木俊隆老師の書かれた
『禅マインド ビギナーズ・マインド』(2012年、サンガ出版)でした。
その中に、こんな一節があります。
初心者の心とは、空であり、専門家のもっている「くせ」がなく、
すべての可能性に対して、それを受け入れ、疑い、開かれている、準備のある心です。
それはものごとをありのままに見ることのできる心であり、
一歩一歩、あるいは一瞬の閃きのうちに、ものごとのすべての本来の姿を悟ることのできる心です。
この「初心者の心(ビギナーズ・マインド)」という考え方が、
私の中に深く届きました。
学びにおいて最も大切なのは、経験でも知識でもなく、「初心者の心」かもしれません。
社会人学生として新たな学びの場に立った今、
過去の自分にしがみつくのではなく、
あえて肩書きを脱ぎ捨て、まっさらな目で世界を見直してみること。
そこには、思いがけない発見や、自分自身の新たな可能性が広がっているはずです。
そして何より、その姿勢こそが、他者と真摯につながり、共に学ぶための土台となります。
たとえば、授業の中で耳慣れない言葉に出会ったとき、すぐに「自分の専門には関係ない」と遠ざけてしまわずに、「なぜ、これが今ここで語られているのだろう?」と立ち止まってみること。
あるいは、年下のクラスメイトの発言に、「若いな」と片付けるのではなく、「この人はどんな世界を見てきたのだろう?」と耳を傾けてみること。
また、逆に年上の仲間からの、一見おせっかいにも感じるような助言に対しても、「この人はどんな思いで言葉をかけてくれたのか?」と受け止めてみること。
そして、レポートを書くときには、自分の過去の経験だけに頼るのではなく、「今の私は、何を疑い、何に惹かれているのか?」という問いから出発してみること。
そんなちょっとした態度の転換が、学びをぐっと深めてくれるのです。
経験や知識を一度「脱ぐ」。
積み重ねた自我や役割を手放して、
すべてを初めて出会うもののように見直してみる。
そうすると、不思議なことに、そこに「本当に大切なもの」が残っているのです。
何故、ここにあるのか。
何のために、誰のために。
初心者のような目で、それをもう一度見つめ直すこと。
そして、磨いていくこと。
私も、まだまだ「大いなる素人」のひとりです。
ともに問い、迷いながら、豊かな学びの旅を続けていきましょう。
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