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食文化デザインコース

2025年06月19日

【食文化デザインコース】変わりゆく”おいしい”の中で、私たちは何を選ぶのか?

EARTH MART「エピローグ」展示より(撮影:高橋雄大)



こんにちは、食文化デザインコースの麻生です。

最近は気候変動や物価高騰、アレルギーや安全性のニュースがひっきりなしですね。

そんななか、6月15日には大阪・関西万博にて、小山薫堂先生がプロデュースするパビリオン「EARTH MART」の見学に同行しました。さらに翌16日には、「食文化の継承・発展」をテーマにしたプログラムが開催され、外村仁先生がモデレーターとして登壇されました。

食の未来について語られる場に立ち会いながら、改めて、ふと「これから私たちは何を食べて生きていけばいいのだろう」と、立ち止まりたくなりました。少しだけ、その問いについて向き合ってみたいと思います。

EARTH MART「いのちのフロア」展示より(撮影:高橋雄大)


食べるべきものと、食べたいもの。


頭では“地球にやさしい食”が大切とわかっていても、仕事帰りのくたくたな夜に、ラーメンが恋しくなる。そんな葛藤を抱えながら、私たちは今日も何かを選んで食べています。

とはいえ、ラーメンを選ぶという選択肢もあります。たとえば、「豚骨ラーメンは環境負荷が高い」とよく言われますが、その多くは飼料の海外生産や輸送によるCO₂排出が主因です。地域の小規模養豚を原料にしたものとはまったく異なるフットプリントになります。同じラーメンでも、原料の産地や精製方法、流通経路によって環境負荷は大きく変わるため、もちろん「ラーメン=食べるべきではないもの」と単純には言えません。

ここ数か月、「古古古米(こここまい)」の話題が盛んです。倉庫に長く保管されていたお米を「炊き方次第で十分おいしい」と推す声もあれば、「いや、やっぱり風味が落ちる」という声も耳にします。さらに学生さんのなかには「うちは農家さんから直接買っているから値上げも古米もピンとこない」と言う方もいらっしゃいました。同じお米でも、立場や知識、経験、考え方などでも「おいしさ」の基準は、大きくゆれます。

未来の食はワクワク? それとも少し寂しい?


大阪・関西万博では、さまざまなパビリオンやキッチンカーなどで、プラントベースや米粉ラーメンなど「未来の食」とうたわれた食事を体験できます。環境負荷やアレルギーなどに配慮した「食べるべきもの」の最前線と言えそうです。

しかし、ある主婦の学生さんがこう漏らしました。
「興味はあるし食べてみたい。でも、毎日のごはんが全部それだと、ちょっと寂しい気もするんですよね」

ワクワクと寂しさ。新しい「おいしい」 が現れるたび、私たちの感情は揺れ動きます。10 年後には米粉ラーメンがインスタント麺の主流になっているかもしれませんし、「昔ながらの小麦麺が恋しい」と回帰ブームが起きているかもしれません。

EARTH MART「未来のフロア」展示より(撮影:高橋雄大)


寿司の歴史にも見る“時代の幸せ”


食の価値観が揺れるのは、今に始まった話ではありません。そして、そもそも一定などなく、現在も昔もこれからも常に変化し続けていくもの。寿司の歴史をひもとけば、発酵保存の「なれずし」から江戸の屋台で握られたファストフードへ、カウンターで食べるいわゆる高級寿司や回転寿司を経て、ヘルシーでクール、時にビビットな SUSHI として世界に拡散されています。

「長く保存したい」という願いが、「手早くおいしく食べたい」という欲へ転じたように、寿司には、その時、その場所、そのコミュニティに生きる人々にとっての「幸せ」「価値観」が映し出されています。

国立科学博物館 特別展「和食〜日本の自然、人々の知恵〜」展示より(撮影:筆者)


「おいしい」を選ぶのは、わたしたち自身


美食家ブリア=サヴァランは「君が何を食べているかを言ってごらん。そうすれば君がどんな人か当ててみせよう」と言いました。しかし現代では、「何を食べたいか」と「何を食べるべきか」の揺らぎこそが、その人の価値観を映しているように思います。

食べることは、単なる栄養補給ではなく、価値観や文化、時代の反映ともいえます。「おいしい」を選ぶのは、結局、わたしたち自身。そこに正解などなく、自分自身の問いや立場をどう見つめるか、どう大事にしていくかが、これからの食べ方になるのかもしれません。

EARTH MART「エピローグ」展示より(撮影:高橋雄大)



みなさんは、どう思われますか?

 

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