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食文化デザインコース

2025年12月15日

【食文化デザインコース】お漬物がこんなにおもしろいなんて。「いただきますアカデミー」第1回レポート

こんにちは、食文化デザインコース研究室の麻生桜子です。

11月10日(月)、京都・下鴨茶寮にて「いただきますアカデミー」の第1回が開催されました。テーマは「継ぐひと、つくるひと vol.1 秋の京都で、漬物と出会う昼」です。

撮影=佐伯慎亮



創業1940年の京つけもの西利・平井誠一社長をお招きし、参加者の皆さまと共に、漬物という身近な食文化を通して、継承と創造について考える特別な午後となりました。

「漬物って、こんなにおもしろかったんだ!」

参加された皆さまと共有できた驚きと発見を、お伝えしたいと思います。

「漬物屋の誇りは、太古の昔からの技術を次代につなぐこと」


平井社長のお話は、漬物の起源から始まりました。

京つけもの西利は1940年創業、京都・西本願寺前に本店があります。伝統的な京漬物から、すぐき漬けから発見された「ラブレ乳酸菌」の研究・商品開発まで手がけ、「漬物を通じた食卓のトータル提案」を掲げています。
▶︎ 京つけもの西利 公式サイト

縄文時代に海水で野菜を洗ったことから始まり、塩漬け、調味漬け、糠漬けへと発展していった漬物の歴史。平安時代にはすでに様々な味付けの漬物が作られていたこと。

和食の世界文化遺産登録において、漬物が「一汁三菜」の基本として当たり前すぎて書かれていないほど、日本の食卓に不可欠な存在であること。

そして話題は、発酵と健康へ。

京都のすぐき漬けから発見されたラブレ乳酸菌は、免疫力を高める効果があり、インターフェロンの産生能力を上昇させるという研究結果があるそうです。

「乳酸菌は体内に3日間程しかいないので、連続して摂取するのがいい」というお話に、会場の皆さまも真剣にメモを取っていました。

「漬物と惣菜は考え方が同じ。どちらも野菜をいかに美味しく食べるかを追求している」

この言葉が、とても印象的でした。漬物を「ご飯のお供」という固定概念から解き放つ、大切な視点だと思います。

ぬか床の科学、塩分の誤解、発酵甘麹パン


平井社長のお話は、実践的な知識も満載でした。

ぬか床の天地返しの理由は、表面に集まる産膜酵母菌(酸っぱくなりすぎる原因)と、底に溜まる酪酸菌(臭いの原因)を抑えて、真ん中の乳酸菌が活躍しやすい環境を作るため。

塩分についても、「適度な塩分摂取は必要。大切なのはナトカリバランス(ナトリウムとカリウムのバランス)」という話は目から鱗でした。日本人が伝統的に海藻類や野菜を多く食べてきたのは、カリウムを摂取してナトリウムを体外に排出するという、理にかなった食生活だったんですね。

そして、西利さんが作っている発酵甘麹を使ったパンのお話も面白かったです。様々な漬け床があるなかで、甘麹をラブレ乳酸菌で発酵させた発酵甘麹をパン生地に入れて焼いたら、驚くほどおいしいパンができた。今ではフィナンシェなどもつくっているそうです。

写真=西利提供



「漬物屋がパン?」と驚きもありますが、これも「発酵を通した食卓のトータル提案」という考え方から生まれたもの。漬物屋だからこその技術で、日が経ってもしっとりと柔らかくあまい味わいが続きます。伝統を守りながら、新しい価値を創造していく姿勢が伝わってきました。

全品に漬物を使った、本山料理長の挑戦


そして、いよいよお待ちかねの昼膳。

下鴨茶寮の本山料理長が、この日のために西利さんに足を運び、漬物と真剣に向き合って仕立てた特別なコース。なんと、先付からデザートまで、全ての料理に西利さんの漬物が使われているという構成でした。

「極力調味料を使わず、漬物本来の味わいと食材の組み合わせで新たな発見やアイデアが生まれれば」という本山料理長の言葉通り、一品一品が驚きと発見に満ちていました。

△先附 発酵甘麹熟成食パン すぐき スモークサーモン 玉子 いくら



△煮物 里芋饅頭 山里の香り



デザートのしば漬けとクリームチーズのアイスは、食べてみると不思議なバランス。酸味と甘みが絶妙で、新しいデザートの可能性を感じさせてくれました。

△クリームチーズ氷菓 しば漬け



特に皆さまが驚いていたのは、白味噌仕立ての椀。白菜のあっさり漬けと豚バラという組み合わせが、まさに「鍋料理」のような味わいで、でもそれが上品な椀物として成立している。漬物が「調味料」としても機能することを、料理を通して実感できました。
▶︎ 詳細はいただきますアカデミー通信で配信予定です

参加者との対話で広がる、漬物の楽しみ方


参加者の皆さまからは次々と質問や体験談が飛び出しました。

「子供の頃、おばあちゃんが毎日ぬか床をひっくり返していたんですけど、近所が全部同じぬか床だったのに、味が違っていたんです。これって本当ですか?」

平井社長の答えは「全部違うと思います。乳酸菌は300種類ぐらいあって、種菌が違えば味も変わる。それに、鷹の爪を加えたり昆布を入れたり、家によって入れるものも違いますから」。

そこから、話題はどんどん広がっていきました。

平井社長からは、漬物の新しい楽しみ方のアイデアも次々と。
「大根の漬物は、衣をつけてフライにすると最高ですよ」
「玉ねぎの漬物をサラダに使っています」
「朝ご飯には、茹で卵のぬか漬けをスライスしてトーストに乗せて食べています」
「バナナのぬか漬けをウイスキーと併せて食べるとおいしいですよ」

漬物を「ご飯のお供」としてだけでなく、料理の素材として、調味料として、様々な形で楽しめる。そんな可能性が、対話を通してどんどん見えてきた時間でした。

ラウンドテーブルでは「暮らしの中でお漬物を楽しむアイデア」をテーマに、参加者からも「こんな食べ方をしている」「これと合わせたら美味しかった」といったアイデアがたくさん飛び出し、漬物談義は尽きることがありませんでした。


お土産も充実。家でも「漬物ライフ」を


平井社長から参加者の皆さまに「発酵ぬか床」と「発酵甘麹のフィナンシェ」「いただきますアカデミー参加者専用 カフェ利用券」をプレゼント。

このぬか床、すでに発酵が進んでいるので、軽く塩もみした野菜を入れるだけで3日ほどでおいしいぬか漬けができるという優れもの。平井社長からは「色々なものを試してみてください。野菜だけでなく意外なものでもおいしくなりますよ」というアドバイスも。

「帰ったらすぐに冷蔵庫に入れて、色々試してみます!」という声をたくさんいただきました。平井社長のお心遣いとサービス精神に皆さまが感動しながら、会場を後にされました。


「日常」が「特別な学び」に変わる瞬間


今回のイベントを通して感じていただいたのは、身近すぎて見過ごしていたものの中に、どれだけ豊かな文化と知恵が詰まっているか…そんなことに思いを馳せた、との声も聞こえてきました。

お漬物は、毎日の食卓にある「あたりまえ」のようなもの。しかし、その背景には数千年の歴史があり、発酵という自然の力があり、健康を支える科学があり、そして次代にも継ぐべき価値がある。

平井社長の「漬物屋の仕事は、海水漬物の時代から続くこの道を途切れさせずにつなぐこと。形を変えてでも、野菜をいかにおいしく食べたいかという日本人の気持ちはしっかり受け継いでいきたい」という言葉が、深く心に残りました。

開かれた学びの場として


今回は関西からだけでなく、なんと遠くは沖縄まで全国から多くの方が集う場となりました。

「いただきますアカデミー」では、今後もこのような体験型プログラムの企画が予定されています。

ちょっと知的で、美味しくて、文化や人と出会えるようなひととき。
食を通して、新しい発見や気づきが生まれる場所。

次回もどうぞお楽しみに。
「いただきますアカデミー」公式サイト

ご参加いただいた皆さま、そして素晴らしい時間を作ってくださった西利の平井社長、長谷川さま、下鴨茶寮の野口さま、本山料理長、スタッフの皆さま、本当にありがとうございました。



 

 

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