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文芸コース

2026年06月22日

【文芸コース】「主人公」をつくろう

こんにちは、文芸コース講師の白井耕平です。
今回のブログテーマは『「主人公」をつくろう』ということで、例年文芸コースの卒業制作では多くの学生が小説の創作に取り組んでおり、もちろん「主人公」の造形にもチャレンジしています。

ただ、実際に小説を書き始める前に、作品の構想を練る段階として「卒業制作準備」という科目が用意されており、今年も夏期の科目として開講予定になっています。
この科目では、「タイトル」、「作品構想」、「想定読者」、「作品の狙い」、「リサーチ計画」、「作品の草稿」などを学生が考え、実際に文章化し、そして教員がそれを添削させていただきます。

ここでよくある疑問として挙げられるのが、「そもそも小説はどうしたら書けるんだ?」というものです。あらかじめ言っておきましょう。小説という芸術ジャンルは形式・内容ともに自由度が非常に高いため、その創作のための条件を説明することが逆に難しく、例えば「俳句を作るには、五・七・五の十七音で構成し、かつ季語を入れる」というような言い方で創作条件を説明することができません。(少なくとも浅学非才な私にはできません)

しかし、小説にかぎらず、映画、アニメ、漫画、絵本、紙芝居、脚本などにも共通する、「物語」という基礎的な要素についてであれば、すでに多くの創作指南書が出版されていることからも分かる通り、初心者向けにレクチャーを行なうことは可能です。(それでもやはり簡単に説明することはできないわけですが)

小説の多くが基本構造として持っている「物語」を創作する。これを行なう上で考えるべき大きな項目の一つが、「主人公」です。
主人公、と聞いて思い出す名前は誰しもあるものでしょう。私がパッと思い浮かぶ範囲では、たとえば昔話では桃太郎やかぐや姫、近代小説では小川三四郎や明智小五郎や根所蜜三郎、ライトノベルではキリトやルーデウス・グレイラットや猫猫などです。

山東庵京伝『絵本宝七種』(蔦屋重三郎刊、1804年)



主人公は物語の顔といっても過言ではなく、主人公自身が物語の語り手を担う場合もあれば、脇役や神の如き語り手が主人公の冒険を語る場合もあるでしょう。いずれにせよ、物語の中心にいて、物語上のさまざまな出来事を体験し、物語のために動かされていると言っても過言ではない存在。それが「主人公」です。

私たちが物語に親しみ始めるその初めから存在しているがゆえに、あまりにも当たり前すぎてむしろ意識が向かないような存在。それが「主人公」だとすれば、自身が作者として物語の創作をするにあたって、あらためて「主人公」について考えてみることはとても大切なプロセスではないでしょうか。

例えば、私は最近遅ればせながら『薬屋のひとりごと』をアニメで観たのですが、主人公「猫猫」の設定の巧みさに唸らされました。主人公の設定における「二重性」が、作品世界に対してきれいに対応していて、人物造形が非常に綿密に作り込まれているのを感じたからです。

日向夏 ・しのとうこ『薬屋のひとりごと』(ヒーロー文庫、2018年)



よく知られているように、『薬屋のひとりごと』は、花街に出入りする薬屋の娘「猫猫(マオマオ)」が、人攫いによって後宮に下女として売られてしまうところから物語が始まります。年季奉公のために後宮で働かざるをえない猫猫は、薬屋としての知識を使って皇子の衰弱事件の謎を解いてしまうことで、後宮を管理する美形の宦官・壬氏に目を付けられ、様々な事件の解決を手伝わされることになります。

こうした主人公の猫猫は、花街というアンダーグラウンドで育んだ強かさを持ちながらも、一方で上級妃たちが住まう後宮においてはなにかと重宝される知的な少女として描かれています。その役割は日陰者を気取りながらも、なんだかんだでアツい正義心を持つ探偵であり、でも実のところではヒロインど真ん中。その容姿も普段はそばかす顔でありながら、しかしそれは本来の顔を隠すための化粧であって本当は美人、というふうに「二重性」がキーコンセプトとして設定されているように見えます。

ダブルフェイスという王道設定を、一つではなく、二つ、三つと、幾重にも織り込んだ設定は、なるほど魅力的な主人公だと言わざるをえません。個人的には「アングラ育ちのインテリ」という設定がツボなのですが、私個人の好みはどうでもいいとして、こうした主人公を見ても、やはり「主人公とは物語の論理そのもの」なんだなと思います。言い換えれば、物語とは主人公の動線なのだということです。

物語創作論においても著名な評論家の大塚英志は、「作品世界の中に一本の境界線があり、そのラインを越えて主人公が「向こう側」に行き、そして「帰ってくる」ことの中に「物語」の一番の基本がある」としました(『ストーリーメーカー』、星海社新書、2013年)。例えば『薬屋のひとりごと』で言えば、猫猫が「花街」から「後宮」へと売り飛ばされ、そしてまた「花街」に帰ってくる、というU字型の動線が、物語の展開になっているわけですね。

こうして考えてみると、主人公が「行って帰ってくる話」というプロットが、物語の構造のなかでも一番基本的な型だということが分かってくるでしょう。冒頭で述べたような、小説を書く前の準備段階としては、このようなプロットをより細かく丁寧に作り込むことが必要になってくると思います。

さて、今回は「主人公」について少し書いてみましたが、もっと詳しく、もっと具体的に、いくつかの観点から「主人公」の創作方法についてお話しする機会があるようです。京都芸術大学通信教育部の文芸コースへ入学をご検討されている方々には、ぜひご参加いただきたい夏のオンラインイベントです。

〇夏のオンライン体験授業(文芸コース)
体験授業:「主人公」をつくろう
開催日時:7月18日(土)10:00~11:30
開催形式:オンライン(ZOOM
申込方法等:以下のサイトに掲載予定
京都芸術大学通信教育部 説明会・相談会サイト https://www.kyoto-art.ac.jp/t/briefing/

イベントの詳細は上記ウェブサイトに掲載されておりますので、文芸コースへの入学をご検討の方は、上記サイトにてお申込みの上、ぜひ当イベントにご参加いただければと思います。

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