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芸術学コース

2019年12月01日

【芸術学コース】4学科教員による特別授業&卒業生ゲストトーク(芸術学科)

みなさん、こんにちは。芸術学コースの三上です。一雨ごとに寒さの増す季節ですが、お変わりございませんか。11月も末となり、外苑東通りの紅葉も見ごろになってきました。

今回は1123日に外苑キャンパスで開催された「4学科教員による特別授業&卒業生ゲストトーク」について御報告します。説明会当日はあいにくの雨でしたが、足元の悪い中、多くの入学希望者の方々が来てくださいました。

通信のスクーリングは、同じ学科やコースの人と顔を合わせる貴重な機会でもあるため、学生にも自己紹介を勧めています。そこで普段の授業と同じく、自己紹介からスタート。

特別授業「暮らしに芸術を―河井寛次郎の人と作品について」では、時代背景もふまえつつ、民芸派の陶芸家として知られる河井寛次郎(18901966)の生涯、代表作や文章、さらに河井が大切にしていた日々の暮らしぶりについてもお話しました。

東洋陶磁の研究から作陶をスタートした河井は、民芸の思想と出会ってから、実用に即した陶器へと大きく作風を転換します。簡潔で力強い形の壺に素朴な草花文様をすばやいタッチで描いた《鉄辰砂草花図壺》(京都国立近代美術館蔵、1935年)は、中期の代表作であり、私の一番好きな作品です。戦後は奔放とも言える個性的な作風へと変貌し、木彫や陶彫でもきわめてユニークな世界を表現しました。

河井は子供のころから文章を書くことも好きで、特に戦時中の作品作りがままならない時期、文筆活動に集中し、それらは戦後いくつかの書籍にまとめられました。河井の「…仕事の一番すきなのは 苦しむことがすきなのだ」「ひとりの仕事でありながら ひとりの仕事でない仕事」「暮らしが仕事 仕事が暮らし」(「後篇 いのちの窓」(『火の誓い』昭和28年、朝日新聞社、『火の誓い』講談社文芸文庫、1996年)といった文章も、陶器同様、河井の体から自然に湧いて出てきたような印象を受けます。
河井の没後、遺族により京都市東山区五条坂の自宅と窯跡が「河井寛次郎記念館」として公開されました。河井が設計し、出身地である島根県安来で棟梁をしていた兄とその大工集団が建築した旧宅はどっしりと落ち着いた和の空間で、河井の作品ともしっくり調和しています。入学後、京都の本校にスクーリングなどで行った際には、ぜひ訪れてほしいと思います。

続いて卒業生を招いてのゲストトーク。今回は、芸術学科の卒業生、井村馨さん(芸術学コース2016年度卒業)、中川ひろみさん(同コース2018年度卒業)のお二人をお招きしました。お二人とも本学大学院の修士課程1年に在籍しています。

司会者(事務局職員)からいくつか質問する形で芸術学科での学習を振り返ってお話いただきました。

井村さんは当初カルチャースクールのようなイメージを抱いて入学したところ、レポートは仕事とは違ったスタイルで書くことが求められ、予想以上に時間がかかったそうです。しかし、課題をこなす過程で知識が増え理解も深まり、さらに、いろいろな科目に挑戦することで、断片的な知識が線となって広がっていったとのことでした。

また卒業研究の面談で、指導教員からの「論文はエッセイではない。」「新知見はどこか。」という言葉が印象に残っていて、研究を続ける今も大切にしているそうです。

卒業研究以来の井村さんのテーマは、ステンドグラス作家小川三知(おがわさんち)です。井村さんは三知の希少な研究者として、お仕事をしながら大学院に在籍する一方、三知の講演会や展示会も開催するなど、精力的な研究と普及活動を続けています。こうした今の姿は、本学入学前には全く予想もつかなかったそうで、「ここで学んだことで、生活が大きく変わりました。」という言葉に、大学で学ぶ意義が集約されているように思いました。

井村さんはこの日も、ライフワークである三知の魅力を参加者にもぜひ知ってほしいとスライドを持参。こちらの作品は「宮越邸」と呼ばれる三知のステンドグラス(画像典拠:増田彰久、田辺千代『日本のステンドグラス 小川三知の世界』白揚社、2008年)。「ステンドグラスの背景の緑は借景で、冬は雪景色に変わります。」という井村さんの説明にうなずきつつ、一同美しさに目をうばわれました。

これからの目標についてうかがうと、修士論文の完成と、三知の作品の修復や保存活動を続け、その名を広めていきたいと語られました。

続いて中川さんのお話をうかがいました。中川さんは藝術学舎で、芸術学コース教員の金子典正先生による仏像のディスクリプションの講義を受け、仏像の魅力に開眼し、入学を決めたそうです。以来、卒論から大学院修士課程の現在まで、鎌倉時代の仏師快慶の研究を続けています。

中川さんは当時の手帳をスライドで示しつつ、学習について具体的にお話くださいました。これは一週間ごとの見開き、一日24時間の流れを記入できる手帳で、ここに一日の出来事を記入していきます。勉強について書き込めない日もあると、そこが空白になることで自覚できたそうです。細かな字で丁寧に書きこまれた手帳に、「すごい!」という声も(私もまったく同感です)。

中川さんが印象に残った講義は、梅原賢一郎先生の芸術学コース専門科目「芸術と祭礼」。哲学を中心にしたこの講義は、日ごろ接していない分野であったけれど、御自身のテーマである鎌倉時代の研究をする上で思想史を学ぶ大切さに気付くきっかけとなったそうです。

そして、これからの夢は、井村さんと同じく修士論文の完成と、仏教美術の奥深さを伝える活動をしたいとのことでした。

入学検討者の方へのメッセージとしては、お二人とも、学部での学習が視野を広げ、人生を豊かにしてくれたことから、最初の一歩を進める勇気をもってほしい、と語られました。

続く参加者との質疑応答も、活発に行われました。「くじけそうになった時の支えは何ですか?」という質問に対し、井村さんは「友達です。同じ学科で大変な思いをしているとき、特に周囲に芸術学を理解する人が全くいなくて、学友たちと励ましあいました。」

一方中川さんは「研究対象への愛情で、辛くてもなんとか乗り切れました。」とのこと。また、フライングカフェ(イベントとセットの学習相談会)など、学科やコースが開催するイベントに積極的に参加したことも、学習の悩みの解消に役立ったそうです。

さらに、「2年で卒業する秘訣」という質問(良い質問です!)には、井村さんから「スクーリングやレポートの期日を間違えないこと!」という実に具体的なアドバイスが。以前私が同じ質問を卒業生にした際には、「D判定にめげないこと!」と言われなるほどと思ったのですが、ひとつでも単位を落とすと取り返しがつかず、2年での卒業は不可能になってしまいますから、それ以上に実践的な回答でした。

ちなみにD評価というのは単位を取得できず、再提出になることです。それ自体はもちろん良いことではありませんが、Dの場合は、なぜこうした評価になったのかについて、担当教員から詳細なコメントが添えられますから、それに即して修正すればほぼ合格します。もしD評価になったら「自分の理解を深めるチャンス」として前向きにとらえ、なるべく早い時期に再提出してほしいと思います。

緻密な手帳を紹介してくれた中川さんには「スケジュール管理のポイントは?」の質問が。回答は手帳などで、日々予定を「見える化」すること。今は退職されていますが、学部当時はお仕事と両立されていたため、特に土日をいかに有効に使うかが勝負だったとおっしゃっていました。「自分はアナログで手帳に書いているが、今はアプリなどのツールも発達しているので、自分に合ったやり方に。」など、実体験に即したアドバイスもいただきました。

さらに入学希望者へのメッセージとして、中川さんは、「好きなものに向き合うことは、勇気がいるし、苦しいこと。でも、それが自信につながるはず。」と語られました。そしてお二人とも「勉強は苦しいけれど楽しい。」と口をそろえておっしゃっていました。普段の生活をしながら勉強することは、けして楽なことではなく、大変なことも多いでしょうが、未知のものに出会うことによって、新たな世界が開けることも事実です。学ぶ楽しさを実感されているお二人を素晴らしいと思います。

大学院のレポート提出が迫る中、参加を御快諾くださった中川さん、井村さん、そして参加いただいた方々、ありがとうございました。

来月以降、各コースの先生方による説明会が開催され、ここでは各コースのカリキュラムについての具体的な説明もありますので、ぜひ積極的に参加してください。お会いできるのを楽しみにしています。

説明会についてはこちら

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