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歴史遺産コース

2021年10月18日

【歴史遺産コース】講座「藝術学舎」で巡る現地の寺院、博物館 「近江の仏教文化を訪ねて」



 

京都芸術大学では、「藝術学舎」という公開講座を設けています。一般の方の受講はもちろんですが、本講座は通信教育部での単位認定が可能な講座もあり、通信教育部の学生さん方にもとても人気を得ています。

より深く芸術や文化遺産を学ぶ機会となり、また個人ではなかなか経験できないことや、拝観できない場所などに出かけることもあり、多種多様な講座が用意されています。

歴史遺産コースでも、藝術学舎を年間数講座担当していますが、今回とりあげますのは10月9日(土)10日(日)に実施いたしました「近江の仏教文化を訪ねて」という現地研修も含めた講座です。

本講座では、初日に4講時分の座学で翌日に訪ねる石山寺、三井寺(園城寺(おんじょうじ))、大津市歴史博物館展覧会に関する講義を行い、2日目にそれぞれの現地を巡るといった形で実施しています。今回のブログでは、2日目を中心にご紹介いたしましょう。

2日めに当たる10月10日はよく晴れ、この季節としては異例の真夏日となりました。朝9時20分の集合で石山寺の拝観からスタートいたしました。

石山寺 山門(金子典正氏撮影)



西国三十三所霊場ともなっている石山寺のご本尊如意輪観音菩薩は、特別開扉の時以外は秘仏となっていますので、今回は拝することはできませんが、本観音菩薩の脇侍として奈良時代に造られた神王像(蔵王権現)の心木(重要文化財)は内陣で拝観することができました。

神王像が奈良時代に塑像で作られたことは正倉院文書などに記録がありますが、その当初像の心木が近年の修理で江戸時代の塑土が取り除かれて出てきたのです。石山寺は火災などで創建時奈良時代のものはほとんど残されていませんので、この心木が当時に遡る貴重な文化遺産のひとつとなっています。

前日の金子典正先生の講義で石山寺の歴史、そしてその信仰の中で生まれたさまざまな仏像についてもしっかり学んだことから、石山寺の歴史をより深く感じとることができたことと思います。

そして、寺の名前にある通りの硅灰石が露出している石の山を上がったところに鎌倉初期の造立になる美しい多宝塔があります。ここには快慶作の大日如来が安置されるており、目を凝らしていると暗い塔内に玉眼の輝く大日如来を拝することできました。

 

さて石山寺をあとにして、京阪石山線で三井寺まで電車で移動します。この間自由に昼休みをとっていただき、午後からは、三井寺(園城寺(おんじょうじ))を訪ねました。

受講生の方々には、1240分、三井寺大門前に再集合していただきました。前日に、三井寺の歴史と、仏像、仏画、障壁画などについては、授業で金子先生と栗本が講義をしており、その概要を理解していただいた上での現地研修なのですが、ここからは、三井寺の長吏(ちょうり)をお勤めになっている福家俊彦(ふけしゅんげん)様みずからが国宝光浄院客殿、国宝勧学院客殿のほか、金堂、閼伽井屋、弁慶の引きずり鐘などをご案内くださるというまことに得難い機会を頂戴しました。

長吏様は、大学時代は、西洋哲学であるヘーゲル美学を学ばれたという経歴を持たれますが、天台教学はもちろんのこと、文学から日本建築史に至るまで幅広いご研究やご著書があることでも知られています。

その広範な知識をもって実にわかりやすくご案内いただいたのですが、中でも国宝光浄院客殿の建築のご解説を、その佇まいの中に身を置き、中世建築様式や書院造りをまさに目の当たりにしながら聞くという贅沢な時間となりました。

参考にお示しいただいた図が、上杉本《洛中洛外図屏風》の中に描かれている細川邸でしたが、なんと光浄院の外観は、まさにその細川邸にそっくりであることに驚きました。

福家長吏様のご解説の資料  左下が、上杉本《洛中洛外図屏風》の細川邸



光浄院の外観 唐破風の屋根とその下にある入口の扉、その横に続く蔀戸などが、《洛中洛外図》の細川邸に非常に似ている



三井寺を辞してのち、その北側にある大津市歴史博物館で、秋の特別展「西教寺—大津の天台真盛宗の至宝—」を観覧しました。

比叡山の東麓、琵琶湖に面する坂本の地にある西教寺の寺宝が、今回、多くの新出の資料も含んでこれまでにない規模で出展されたのです。

西教寺は、延暦寺の「念仏と戒律」の思想から発展した天台真盛宗の寺院ですが、時代ごとに積み重ねられた多種多様な寺宝が見られました。

今回、西教寺と博物館の特別の計らいで、展示品の中の聖観音菩薩立像一躯が、撮影可能となっていたので、このお像をご紹介したいと思います。

平安時代10世紀後半頃の作とされる聖観音菩薩立像



本像はかつて西教寺本堂内の裏堂に安置されていたもので、像高が170.7センチに及ぶ長身な立像です。穏やかな表情の小ぶりの頭部に対して、下半身はみ幅があるのでずっしりとした安定感があります。

西教寺 聖観音立像 頭部には山の字型の宝冠をいただく



本像の頭部の宝冠は、山の字型になっていて、これは彦根市の江国寺や岡山県の明徳寺の聖観音坐像など、10世紀の聖観音像に見られる形だと言います。

ただ、衣文線の浅くやや形式的なところから、10世紀も後半頃の造像と考えられています。

この時代は、延暦寺が良源による復興の大造営時代を迎えていたので、こうした環境の中で造像された仏像ではないかとされています。

西教寺 聖観音立像 側面から



この美しい側面からのお姿に、うっとりしてしまいました。展覧会で、このような角度から写真が撮れるのは、本当にありがたいことです。

平安初期9世紀の何もかも大ぶりな作風から、10世紀に入ると、より穏やかな表現を好むようになり、いわゆる次の和様の時代へと様式が展開し始めます。

ちょうどその過渡期を感じさせる特徴が、本像の側面の姿からよく見えるように思います。

ふくよかな腹部を始め、ふっくらした髪や衣の抑揚ある表現など、全体から発せられる豊かなおおらかさが前時代からの古風さを示しつつ、洗練された小ぶりなお顔立ちが、次の時代への様式展開を感じさせます。

博物館だからこそ側面からの姿を自由に見たり、また撮影できたりすることで、気づかされることもたくさん増えます。

博物館でのこうした新しい取り組みが、私たちの鑑賞をさらに豊かにしてくれることを改めて実感いたしました。

ここでは紹介しきれませんが、本格的な調査によって今回見出された寺宝の数々が、近江の寺院の新たな魅力を教えてくれる展覧会でした。

 

さて、藝術学舎では、さまざまな場や機会を受講生と共有しながら、芸術や文化遺産をより親しく、またより深く理解していただくことを目指して、講座設計をしております。

生涯学習の楽しさ、豊かさを感じていただけることと思います。

まだ参加されたことのない方、ぜひ講座の内容を確認してみてください。

参考文献 大津市歴史博物館「西教寺—大津の天台真盛宗の至宝—」展覧会図録 令和3年

 

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