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2021年11月05日
【和の伝統文化コース】「焦らない学び」を通信教育で育てる ―自分で自分に「いいね!」する学びー
皆さん、こんにちは。和の伝統文化コースの雨宮智花です。
今日は「焦らない学び」についてお話させて頂きたいと思います。
ふと学生の皆さんを見ていると「在学中に大きな実績を作りたい!」と、焦っている方を時々見かけます。
また今後大学に入学をお考えの方は「大学に入ったら何かを成し遂げたい!」と思っていらっしゃる方がいるかもしれません。
それは決して悪いことではないのですが、「大学で学ぶ事」と、周囲から注目されるような、例えば「SNS映えする事」は切り離す必要があります。また「映えない事」でこそ、身につく大学での学びがあります。ひとつの本をじっくり読んだり、沢山の資料から重要な部分を引出したり、こういった作業は、一見地味ではありますが、確実に自分の中の知識となってきます。
とはいえ、地味な作業は苦手という方もいらっしゃると思います。作業を楽しくするには、やはり「好きなこと・興味のあること」をテーマにする事をお勧めします。
ここで、筆者が学部生に戻ったとして、人気漫画のキャラクターのトレードマークである羽織の模様、四角形が連続する「市松模様」について調べてみたいと思います。
漫画『鬼滅の刃』主人公の黒と緑の市松模様の羽織
吾峠 呼世晴『鬼滅の刃1巻・23巻』2016年、2020年、集英社、表紙より引用。
その場合、どのような作業工程となるのか、ご紹介します。
〈作業一覧〉テーマ「市松模様」を調べる
①インターネットで「市松模様」を調べてみる
②図書館で本や論文になっている「市松模様」を調べてみる
③インターネットの情報と、本の情報の違いを見つける
④集めた「市松模様」の情報を整理し、確実だと思われる情報を選ぶ
⑤「市松模様」に関して確実と思われる情報を、自分はどう思うか考える
⑥「市松模様」の確実と思われる情報と、自分の考えを文章でまとめる
インターネットでキーワード「市松模様・歴史・和柄」などを検索すると、
「四角形が連続する柄を指し、奈良時代に中国から伝わった柄であった。当時は公家社会で用いられていた文様・有職文様であり、霰と表現されていた。江戸時代中期に歌舞伎役者・佐野川市松が好んで着用した事から、市松模様と呼ばれるようになった。人気漫画の主人公とその家族が市松模様を用いた着物を着用している」
と、このような事が分かりました。
しかし、この情報が一体どこから来ているのかは分かりません。
そこで図書館にて「市松模様・佐野川市松・有職故実・有職装束・有職文様・歌舞伎衣装・浮世絵衣装」などを検索し、
先の情報が書かれた本や論文を探し出し、それらが確実な情報であるか研鑽しました。
石川豊信作「初代佐野川市松と初代中村粂太郎」
日本浮世絵博物館 監修 藤澤紫 責任編集『日本浮世絵博物館浮世絵名100選 = THE 100 GREATEST WORKS OF UKIYO-E FROM JAPAN UKIYO-E MUSEUM』2020年、小学館、49頁引用。
さらに市松模様の模様を確認するため、資料を探しました。
一連の作業を終えてみると、インターネットだけの情報では、信憑性に欠ける部分が見受けられます。本や論文は専門家が書いている場合が多く、すでに情報が整理され、根拠を示しながら書かれているものが多いです。
専門家の情報の重なる部分を、確実な情報に近いと判断し、自身の考えをまとめる流れとなります。
有職文様では「霰」と表現されている。
八篠忠基『有職文様図鑑』2020年、平凡社、93頁より引用。
なかなか大変な作業ですが、この流れを追うと「大学にいかなくても、学びを深める事が出来るのでは?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
確かにそうです。
それは言い換えれば「なぜ大学には教員が存在するのか?」という疑問に繋がるかと思います。
教員は、それぞれの分野の専門家であり、情報整理のプロになります。学生の皆さんが学び取ろうとしている事が「正確であるかどうか」判断する為に教員は存在します。
情報を整理するチカラ、情報を考察するチカラを、学生の皆さんに身につけてもらう為に、教員はアドバイスや指導を行います。
なぜなら、そういった「チカラ」は大学を卒業した後の、外の世界で生かされるようになるからです。
通信教育では、学生の皆さん、ひとりひとりが自分のペースで学習を進める事が出来ます。「これは世の中の役に立つのだろうか?」と考えるよりも、自分の糧となる知識をじっくり増やそうではありませんか。
焦って、他人の評価を気にして、当てにならない「いいね」を稼ぐ必要はありません。
自分自身で手を動かし、獲得したチカラ(学び)に、自分で自分に「いいね」を付けてあげましょう。通信教育だからこそ体験出来る「焦らない学び」を、一緒に深めていきましょう。
【参考文献】
八篠忠基『有職装束の世界』2020年、角川文庫
八篠忠基『有職装束大全』2018年、平凡社
繊維意匠創作協会編『世界模様図鑑第2巻(日本の模様と色調)』1954年、河出書房
木谷正之助『大近松全集第1巻』1926年、大近松全集刊行會
和田 英松『新訂 官職要解』1983年、 講談社学術文庫
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