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アートライティングコース

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2022年04月28日

【アートライティングコース】「〈批評〉というものが、その本来の姿において存在し、価値を持ち、〈詩〉に対しては高貴な補完的な操作となりつつほとんどそれに比肩するのは、直接的あるいは崇高なる形で、森羅万象あるいは宇宙といったものを目指すことによってのみである」(ステファヌ・マラルメ)

こんにちは。アートライティングコース教員の大辻都です。
昨年に続き、この4月、コースでは全国各地から多くの新入生を迎えました。

オンラインのみで学ぶ「手のひら芸大」のアートライティングコースではありますが、京都での入学式や東京でのガイダンスに参加された方々に話を伺ったり、専用のSNSで学生、教員交えてお互い関心のあるアート情報や地域の紹介など交換し合っていることから、新入生のお顔や人となりが少しずつ見えてきた今日この頃です。
授業はといえばこれからが本番。アートライティングという新しい学びにどのようにして取り組まれるのか、今から楽しみでなりません。



「アートライティング」とは何でしょう?
おそらく日本の大学でアートライティングを専門に学ぶ課程があるのは、京都芸術大学だけだと思います。
「アートライティング」という言葉じたい、あまり耳なじみがないかもしれませんが、ごく単純化して言ってしまえば、「アートについて書くこと」です。アートというと「アートっぽい」「現代アート」など、一般に普及している表現の延長でイメージする方が多いかもしれません。ですが、この言葉は本来もっとずっと広い意味合いを含むものです。

英語のartは元をたどればラテン語のarsから来ており、自然に対して人間が後天的に作り出す技術やわざを意味します。これを受けて私たちのコースでも、いわゆる現代アートだけに限らず、西洋の絵画や建築、日本の寺社仏閣、茶の湯や花道といった伝統的な芸術、工芸や手仕事など民俗学的な遺産、ストリートファッションや食文化など都市に生まれる萌芽状態の文化潮流……と多岐に渡る内容をアートと考えているのです。

そうした広い意味でのアートを対象に、自分ならではの価値を見出し、言語化して伝えること。それを私たちはアートライティングと呼びます。
それでは自らの発見、価値づけを他者に伝えるには、どのように書いたらよいのか? コースのカリキュラムで学ぶのは、そのための文章作法と方法論です。



卒業するためには、60単位相当の必修科目を含めた指定の単位数をクリアする必要がありますが、ここではアートライティングコースの専門科目を中心にご紹介しましょう。
コースの専門科目は、特講科目と演習科目の2つの柱により成り立っています。特講とは、動画と電子教材で学ぶ講義科目。芸術の研究法や批評理論、地域資料の活かし方など、さまざまなアートライティングの方法論を講義形式で学びます。

一方の演習科目は、アートライティングを実践的に行う科目です。講義科目で課題とされる論述形式のレポートではなく、「作品」としての文章を書くところがポイントです。第1段階では、身近な道具や愛着のある町を描写(ディスクリプション)してみます。どう書いたら、読み手に正確に伝わるか、また生き生きと想像できるか、工夫しながら書くことが求められます。
演習1で正確に書くことを学んだ次のステップとして、演習2ではクリティカル・エッセイに挑戦してもらいます。クリティカルとは「批評的」ということ。自分なりの批評的視線を持った文章を書くことが求められます。これらの実践科目を学ぶなかで、卒業研究での課題であるアートライティング作品を仕上げる力を蓄えるのです。

卒業研究に臨む学生は、それぞれ自由なテーマを考えるとともに、それに見合った方法論も選択することになります。
映画批評や美術批評のような批評や評論もあれば、アーティストや作り手へのインタビュー記事、土地の文化を炙り出す紀行文……と、さまざまな手法を許容するのがアートライティングなのです。

最近の卒業作品をふり返っても、第二次大戦中に建てられた岩国徴古館(山口県)の建築としての独自性を時代背景から読み解いた作品、詩人・茨木のり子が韓国語をテーマに書いた詩を通し、詩人の言語観を考察した作品、愛知から長野に続く街道を旅し、かつての「塩の道」で育まれた文化を掘り起こす紀行文、日本画家・島成園の自画像をフェミニスト的視点も交えて考察した作品など、バラエティに富み、充実した作品が多数見られました。



読み応えのある卒業作品についてあらためて考えてみると、スタイルはさまざまでも、そこに書き手ならではの批評意識が込められた作品は、読み手にも深く反響するということが言えるように思います。それはいわゆるスタイルとしての批評文には限りません。

世の中には紋切り型のものの見方が溢れていて、無意識でいるといつの間にか取り込まれ、それを自分の考えと勘違いしがちですが、流通している言説、書かれた他人の言葉、自分が日常的に使う言葉すべて含めて、言葉の前で立ちどまり、意識的に言葉を扱うことで紋切り型から脱することが可能になるかもしれません。

冒頭に挙げたのは、19世紀末フランスの詩人、ステファヌ・マラルメの言葉です(渡邊守章訳)。〈詩〉(原文ではルビで「ポエジー」)とありますが、これはジャンルとしての詩というより、アートライティングが対象とするような芸術作品すべてに拡大して考えて考えることができるのではないでしょうか。真に優れた批評は、それが対象とする芸術と同じくらい深遠な真実を示しているという点で、芸術にも比肩しうると詩人は教えてくれているようです。

アートライティングコース|学科・コース紹介



▼動画:アートライティングコース紹介(教員インタビュー)

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