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2022年10月16日
【通信制大学院】小説を書く理由とは?―文芸領域イベントレポート
2023年に開設する通信制大学院文芸領域では「創作現場のリアル」と題して、藤野可織先生、池田雄一先生、辻井南青紀先生が登壇し、小説の過去を振り返り、現在~将来を考えるトークイベントを9/30(金)に開催しました。
イベントでは、話し言葉から活字の登場、作品がどのように残され伝えられてきたのかといった物語の歴史やこれから小説が向かう方向について、複数の書籍を紹介しつつ3人の先生が語り合いました。
本ブログでは、トークの一部をご紹介します。
🔗通信制大学院文芸領域 紹介ページ
登壇者(文芸領域 教員)
藤野 可織(ふじの かおり)
京都市生まれ。同志社大学大学院修士課程修了。2006年『いやしい鳥』(河出文庫)で第103回文學界新人賞を受賞し、作家デビュー。13年『爪と目』(新潮文庫)で第149回芥川龍之介賞を受賞。14年『おはなしして子ちゃん』(講談社文庫)で第2回フラウ文芸大賞受賞。他の著書に『ドレス』(河出文庫)、『私は幽霊を見ない』(角川文庫)、『ピエタとトランジ〈完全版〉』(講談社)、『来世の記憶』(KADOKAWA)など。
池田 雄一(いけだ ゆういち)
1969年、栃木県鹿沼市生まれ。1994年に「原形式に抗して」により、第37回『群像』新人文学賞の評論部門を受賞。文芸評論家として、批評、書評、文芸時評などを執筆。著書に『カントの哲学ーシニシズムに抗して』(河出書房新社)、『メガクリティッ
ク―ジャン現在は、法政大学、武蔵野大学、京都芸術大学で非常勤講師を、朝日カルチャーセンター新宿教室にてオンライン講座の講師をつとめている。専門領域は現代文学、美学、哲学、政治思想など。
辻井 南青紀 (つじい なおき)
1967年生。早稲田大学第一文学部卒業後、読売新聞記者、NHK番組制作ディレクターを経て、『無頭人』(朝日新聞社)、『アトピー・リゾート』『イントゥ・ザ・サーフィン』『ミルトンのアベーリャ』『小説 蟲師』(以上講談社)、『蠢く吉原』(幻
冬舎)、『結婚奉行』(新潮文庫)など執筆。
物語にする必要性。小説を書く理由とは?
藤野先生:
小説は「ひとまとまりの情報」だと思っています。
人が何かを理解したり、記憶に留めておきたいという時に物語の形にするしかないんじゃないかな、という実感がありまして。
そんな時に「物語の形に何とか仕立てて、自分の中で整理していく」という作業を人は常に繰り返して生きていると思っていて。小説もその一つの現れなんじゃないかな、と思っています。
辻井先生:
「物語の形にするしかない何か」があるんだ、という考えが非常に新鮮だと思ったんですけれど。それってどんなことなんでしょう。
藤野先生:
世の中のこととか、自分の感情とか、身の回りで起こったこととか……。
それを理解するには、ある程度物語の形にしないと理解できない気がするんですね。
どういう強弱をもって、整理して、受け容れるのか。もしくは受け容れないのかということも含めて。何かを理解するために一旦物語の形式に仕立て直す必要があるんじゃないのかなと思うんです。
池田先生:
この間、ヴァルター・ベンヤミンの『歴史の概念について』という本を読んだんですね。そこに「歴史というのは最終的に生き残った人間にしか書けない」んだと。要するに現在語られている歴史っていうのは、勝者と言われる「生き残った者の歴史」なんですね。
じゃあ「死んでしまった人の歴史というのは、書けるのか?」ということなんですが。
僕がもし死んでしまった人の歴史を書くとしたら、伝承とか、伝説とか、あるいは怪談に近いような、すなわち物語を設計するように近い形になると考えていて。
先ほどの藤野さんの話を聞いていて、小説の書き手の頭の中には似たような衝動というかモチーフがあるんだ、と思って。いいな、と思いながら聞いていました。
藤野先生:
そういう私たちが歴史として知っているようなところから省かれたもの、「ないもの」になったもの、いわゆる敗者と呼ばれるものを物語にしてこそ小説を書く意義があるんじゃないかなと思います。
小説家になりたい方へのメッセージ
イベントの最後には、小説家になりたい方や本領域の入学を検討している皆さんへ、各先生から以下のメッセージがありました。
池田先生:
小説って絶望するくらい自由なジャンルだと思うんですね。多分、どんなことも可能な気がするんですよね。
小説というジャンルには現在存在している小説からはまだ見えていないポテンシャルがあると思います。なのでそのポテンシャルを引き出すためにはこの研究の場(大学院)というのはそれなりに意味があるんじゃないかなと思います。ここで皆さんのお手伝いができることを楽しみにしています。
藤野先生:
私もいつも小説の書き方が分からなくて、一回一回いちから悩んでいるんですけれども、一緒に皆さんと悩みたいなと思います。
なかなか私もできないんですけど、小説でこれまで語られてこなかった人たち、取りこぼされてきた人や現象、光が当たらなかった人たちのことを書ければいいなと。そういうものを一緒に探して、見つけて、書いていければいいなと思っています。
辻井先生:
実は顧みられていないこと、気づいていないことが山ほどあるのが物語のジャンルだと思います。我々が見ているのは歴史の一部で。何をやってもいいという圧倒的な自由があるジャンルにおいて、「じゃあどうする?」と。本領域で我々と2年間を過ごして、力をつけていただき、自分の道を切り開いていただけることを切に願っています。
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