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洋画コース

2022年11月04日

【洋画コース】アクリル画考

こんにちは。洋画コースの奥田です。

油絵は溶き油で練った絵具を使って描くことから、乾けば一度塗った上から描いても水彩のように滲まないで下の色を隠してくれます。従って壁のように厚く塗りこめていくこともできるし、油で絵具を薄く伸ばし「おつゆ描き」などともいう透明な描き方もできます。

私が初めて油絵を描いている人を見たとき、テレピンの匂いが少し大人っぽくて、絵描きさんらしくて憧れしました。実際に描いてみると、油彩は乾くのが遅く乾く前に描くと下の色と混色してしまいぐずぐずで絵を進めようがなくなることがよくありました。油絵にしても何にしても技術を身につけるのはそう簡単ではありません。

油彩での混色



自分の制作リズムを作るまでに時間がかかります。しかし自分の技術が向上して絵を描くことが楽しくなってくると、油彩の物質的な強さや発色の良さ、透明感のある表面の質など、ものを作る意識が芽生えます。油絵作品は造形物としての充実感というか、ものを作る心地よさがあるのです。700年も続いている技術は大したものです。

一方、アクリル絵具は素材としてはまだ100年と少しですから油絵具と比べるとまだまだ信用できないと考える方もおられます。実際私はアクリル絵具を使い出してまだ四十年そこそこですから確信を持って良い絵画素材と言い切ることはできません。

例えば、グロスメディウムを画面にかけて仕上げるとリンシードを多く使って描いた絵のように黄ばみ、暑い夏には画面に梱包材が張り付きます。直接画面同士を合わせていると完全に密着してしまいます。

アクリル絵具を使用 



もう少し欠点を言いますと、混色によって同じ色味を再現することが難しいこと。絵具が濡れている時の色味と乾いた時の色味が違うこと。これは乾いた時には絵具に含まれる水分が飛んでしまうことで白っぽく色あせた感じになります。特にホワイトなどを混色すると実に軽い感じになります。軽い感じというと聞こえは良いのですが、軽薄と言った感じです。乾きが早いことで色のグラデーションを大きな画面で作ることが難しい。その上に軽薄な感じが上乗せされると到底作品にはならない。おまけに水分が飛んだ後の絵具の厚みは三分の一ほどに痩せます。

私が使用し始めた頃、アクリル絵具は油彩画のようなマチエールのある画面を作れるし、水彩のように透明感のある使い方もできると言われていましたが、使ってみるとなかなか手強い素材でした。それでも大きな画面を刷毛目なく均一に単色で塗ることや、乾きが早いのでマスキングを使うような作品には向いていました。

アクリル絵具とボール型パレット



今ではアクリル絵具を作るメーカーも、絵具の種類も増え、特に溶剤関係は様々なものが出ています。なんでもそうですがそう言った素材を使いこなさないと結局思うような絵を描くことはできません。逆に使い慣れて初めて絵を描くことができる、素材が絵を決めてくれるとも言えます。アクリル絵具は私の仕事のペース、つまり生活にちょうど合っているのです。

アクリル系の溶剤



いやこれも逆にいうと、アクリル絵具が私の仕事や生活のペースを作ったのかもしれません。毎日描いていると、今日はここまで明日のためにやろうとか、絵具の乾いた後の仕事を考えるとか、結果を想定しながらの制作ができるようになります。使い慣れると次第に絵を描くことがより面白くなってきます。私の場合、その次には思うようにならない偶然の面白さを求めることになり、果てしない創作活動が続くことになりました。そう言った制作に絵具の乾きの速さは大変重要でした。

 

パレットナイフ



筆と刷毛



この文章のタイトルに「アクリル画考」と書きました。そして「私にとって」という個人的な内容でアクリル絵具について文章を書きました。ここでは「アクリル絵の具は素晴らしい」と言っている訳ではありません。本当は素材などなんでもいいのです。自分のためでも誰かのためでも、どんな動機でもいいのです。絵について考え、絵を描くことが楽しく面白く苦しく、人に生きがいを与えてくれるものなのです。

 

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