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2023年01月30日

【文芸コース】本をつくるときの「言葉」/特別講義:プロの作家になるための「言葉」開講のご案内(3/3)

文末に3/3(金)開講予定の特別講義のご案内を掲載しております。学外の方もオンライン聴講可能です。本コースに興味がある方は、是非ご参加ください。

本をつくるためには、どのような「言葉」が必要なのでしょうか?皆さん、こんにちは。文芸コース主任の川﨑昌平です。

つい先日のこと、ある学生の方から「先生、ゲラってなんですか?」という質問をいただきました。出版業界にいる人間であるならば、誰もが使う言葉「ゲラ」ですが、確かに本づくりに関わっていないと、ちょっとピンと来ない言葉かもしれません。
そもそもは、活版印刷において、「活字を組み上げて出来上がった版を入れておく箱」を意味する言葉です。

語源はガレー(英語で表記するとgalley)と呼ばれる、大人数でオールを使って進む船のこと。紀元前3000年頃には存在していた形状の船だそうです。その言葉を、イギリスの活版職人たちが組んだ活字を入れておく箱として使うようになりました。小さな活字たちがギュッと並んでいる様が、ガレー船の漕手たちを想起させたから……でしょうか。

そこから転じて、組版された活字を印刷した校正刷り(本になる前に、本の中身が間違っていないかを確認するために刷り出されたもの)のことを、ゲラ刷りと呼ぶようになり、さらに短縮され、「ゲラ=校正刷り」というふうに定着していきます。
では、現代における実際のゲラとはどのようなものなのか、ちょっと実物を見てみましょう。

『無意味のススメ』(川崎昌平著、2019年、春秋社)の校正刷り。



はい、これです。数年前に出版された私の本の、ゲラです。
本文は1色刷りなのですが、黒ではなく濃い青のインクを使っています。写真や図版なども多く使っていた本なので、一応ですが印刷の程度を著者として確認しておきたかったので、編集者さんに本文のゲラを送ってもらうよう、頼んだのです。

よく見ると、ページが逆さまだったりしています。通常、本というものは16ページ分を大きな1枚の紙の両面に一気に印刷します。それを3回折りたたみ、天地小口を断裁して16ページとします。その加工をする前の段階のゲラなので、こんなふうに大きな紙に印刷された状態なのです。この状態では文字をいちいち校正するには非常に不便です。さかさまだしページ順に並んでないし、読みにくいことこの上ありません。が、これは担当編集者さんが私に意地悪をしたからではなく、私が「図版や写真の印刷具合を確かめたいだけだから」と送ってもらったものなので、これで構わないのです。

となると「文字の校正作業はいつやるのか?」という疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれません。それは、この前の段階……つまり、実際に使う紙に実際のインクでゲラを刷り出す前に、済ませてしまうのです。活版印刷時代ならば不可能な作業工程でしたが、DTP(デスクトップパブリッシング)全盛の現代であるならば、印刷所に作業をお願いする前に、事前に組版済みのデータとして、本の中身を確認できるからです。
その実物をお見せしましょう。

『無意味のススメ』(川崎昌平著、2019年、春秋社)の初校。



はい、またしても私の本からですが、これが「デザイナーによって組版された原稿をレーザープリンターで印刷したもの」となります。
原稿や図版・イラストが出来上がる→デザイナーにInDesignを使って組んでもらう→実際の本とほぼ同じ見た目・内容のものができあがる……という流れですね。文字周りに対する校正作業はこの段階でやるのが、一般的な文字モノ(文字がたくさんある本)における本づくりの工程です。

さて、問題はこの状態の紙束を、なんと呼ぶか、です。校正のための刷り出しであるので、編集者によってはこの状態を「ゲラ」と呼ぶ人もいます。あるいは最初の校正のための刷り出しであることから、「初校」と呼ぶ人もいます。はたまた、仕上がりをイメージするための再現物であることから、Comprehensive layoutの略語である「カンプ」と呼ぶ人もいます。組版が終わったものであることを強調する人は「ゲラ」、校正のための紙であることを重視する人は「初校」、あくまでも仕上がり見本でしかない事実を忘れたくない人は「カンプ」と、それぞれ使い分けている……のかもしれません。

別に誰が正解というわけでもないのです。より厳密に言えば、編集者それぞれの専門性が異なるから、と考えるべきかもしれません。文字ばかりの本の担当編集者からすれば、大事なのは書かれた文字であり、それが間違っていないかを確認できることが作業の要点となりますから、印刷所が関与していないこの状態のものを、ゲラや初校と呼んでも差し支えないのでしょう。

ところが、これが漫画やカラーのイラストや図版・写真がたくさんある本ですと、話が変わってきます。レーザープリンターから出力されたものは「カンプ」でしかなく、やはり、ちゃんと印刷所が出力された校正紙でチェックしたくなるものです。このように、ビジュアル要素が強い校正刷りを、色校正紙、略して「色校」と一般に呼びます。
では、色校の見本も見てみましょう。

『無意味のススメ』(川崎昌平著、2019年、春秋社)の色校。



本文こそ1色刷りだった私の本ですが、カバー周り(表紙、カバー、帯)には他にも色が使われているため、図のような色校が送られてきました。といっても2色刷りだったみたいですね。トンボの外に小さく「女神スーパーブラック」、「TOYO 88 CF1033」とあります。どちらもインク会社の製品名です。

さて、これを手にした私が何をするか……というところですが、実は特に何もしません。トンボに沿って紙を切って束見本に巻いてみて「うーん、いい感じ!」とうなずいたり、他には書名や著者名や帯などその他の文字要素に誤植がないかをチェックしたりする……ぐらいです。私は編集者でもあるため、ISBNJANコード、あるいはCコードなどの表記も気にしてしまうのですが、まあ、普通は出版社の編集者さんを信頼しておけばよい部分です。
それ以上のことはしません。「うーん、なんか色味が違うんだよなあ。印刷会社さんにお願いして、女神スーパーブラック、もうちょっとトーン落とせないか頼んでもらえない? あと地色、TOYOじゃなくてPANTONEで試してみたやつも見てみたいな」などと言って2校をお願いするような真似は、やりません。著者としての私がこだわるべき部分は、そこではないと思っているからでしょう。

もちろん、その姿勢を正しいと私が思っているわけではありません。あくまでも私の本にとっての色校の価値でしかないことを強調させてください。色校という言葉も、本によっては意味がまったく異なることがあります。私は色校が出るとゴールした気持ちになりますが、色校が出てからが勝負、という場面も多々あるのです。私は担当したことがないのですが、例えばアイドルの写真集などの編集においては、色校が初校で済むことなんてまずないそうです。被写体となったアイドル(というかその所属事務所)からたくさん修正指示が出てきて、都度、色校を出校し、確認してもらい、また赤が入り……と繰り返しやっていくのだとか。3校、4校は当たり前の世界と聞くと、出版業界にもいろいろあるんだなあと感じます。

まとめると、出版業界には「同じものでも名前が違う」ものや「同じ名前でも意味が違う」ものがたくさんある、ということですね……と終わらせてしまうのは、一編集者としてはそれでよいかもしれませんが、文芸コース主任としては、ちょっとどうだろうと、この頃思うわけです。出版業界、文芸業界に多々あるそうした「いろいろな言葉」たちは、現状、現場で学ぶより他ないというのが実情です。現場でプロとして育ちながら言葉の意味を知っていくプロセスは、間違っているとまでは言いたくないものの、あんまりにも前時代的なスタイルじゃないかな、と考えており……考えるだけではつまらないので、ひとつ、教育の場として実践してみようと思い立ちました。

というわけで、ここからは告知です。
上記で例に出したような言葉をはじめとして、出版業界や文芸の世界には、「現場にいないと知らない言葉」がたくさんあります。そうした言葉を、全部ではないにせよ、やがて現場で活躍するためにも、前もって少しみんなで学ぼう、という狙いの特別講義をします。一流編集者をゲストにお呼びして、プロとして成長するための言葉を考えるための講義です。ご期待ください。下記が概要となります。一般聴講も大歓迎ですので、興味を持たれた方はぜひご参加ください。

文芸コース主任 川﨑昌平




特別講義:プロの作家になるための「言葉」


日時:202333日(金)18:00
登壇者:駒井稔、川﨑昌平
実施方法:対面、Zoomウェビナー同時開催
※対面参加は本学在学生に限定させていただきます。本学卒業生、一般の方はZoomウェビナーでご視聴ください。
申込方法:Zoomウェビナーは申し込み不要(対面参加をご希望の在学生は事前申し込みが必要です。詳細はairUマイページのお知らせをご確認ください)

Zoomウェビナーでご参加のみなさまは、当日時間になりましたら下記のリンクをクリックし、お名前(カタカナフルネーム)、メールアドレスをご入力いただきますと、ウェビナー画面が立ち上がりご視聴いただけます。

▼参加用ウェビナーURL
https://us06web.zoom.us/j/83000786619

※ウェビナーに参加するには、参加時に名前とメールアドレスを入力が必要です。
※参加者の「顔出し・声出し」不要の視聴型のイベントです。
※今回の特別講義は一般公開となっており、本学在学生以外の方もご参加可能となっています。

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入学説明会は12月~3月まで毎月開催します。最新情報は上記説明会ページをご確認ください。

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