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2024年12月03日
【文芸コース】「書き直し」は肉体を意識しながらやってみよう
皆さん、こんにちは。文芸コース主任の川﨑昌平です。
今年も残すところ一ヶ月となりましたが、文芸コースで今年最も多かった質問は、「書き直し」についてでした。方法論や考え方などをからめつつ、「自分の文章はどうすればよりよく書き直せるのだろう?」という疑問を持つこと自体、賢明に学びを進めている証拠にほかなりません。私は喜んでそれらの質問に答えました。
もちろん、答えはひとつではありません。書く文章の方向性や内容、書き手の個性や目指すところなどによって、「書き直し」のための具体的なアプローチは異なるからです。
ただし、共通する行為、前提となる「やるべきこと」ははっきりとあります。それは「読み返す」こと。ひどく当たり前のように思われるかもしれませんが、「書き直す」ためには「読み返す」ことが必須となります。読み返さずに書き直せるはずがないのです。その前提を学生にお伝えした後、個々のケースにおける書き直しの方向性について論じる、というのが私の回答の指針となりました。
しかしながら、そうすると今度は「どのように読み返すべきか」という疑問が当然ですが生じます。これについて、私も長く出版業界で働きながらずっと考えてきました。最良最善の読み返しとはどうあるべきか、どうすれば正しく、あるいは効果的な読み返しが可能になるのだろうか、と。
職業的に、かつより原稿の精度を高めるために、読み返す行為を、出版業界では校正と呼ぶことがあります。文章中の間違いを見つけたり、よりふさわしい表現を模索したりする作業を指すわけですが、この工程において、私はここ数年、実は「肉体」がキーワードになるのではないか、という考えるようになりました。
具体的な話をしましょう。例えばポスター。ポスターにも言葉はあります。その校正を仕事でしている際に、こう思ったのです。「これ、実物大で印刷したものを確認しないと、事故る(印刷結果がクリエイターやクライアントの望まないものとなること)な」と。作業中、私は組版したデジタルデータをデスクトップ上で確認しつつ、文字周りのミスがないかどうかを見ていたのですが、この作業って無意味だなと。たとえ文言に誤りがなかったとしても、校正のポイントって表記上の問題だけじゃありませんから。例えば文字のサイズ。文字の色。文字の位置。そうした要素は文字だけで成立するわけではありません。背景にある写真やイラスト、それらを組み合わせたデザインそのもの、そうした要素をすべて俯瞰しないと確認しようがないのです。そして、俯瞰という言葉の裏には、ポスターを実際に見るユーザーの存在があります。つまり、ユーザーの目線に立たない限りは、正しい校正、この場合で言えば、適切な読み返しが、できないのです。
実際、私は印刷されたポスターの校正刷りを手にしたとき、それを壁に貼り付けて、想定されるユーザーとの距離を作業場に再現しながら、ポスターを読み返すことをしました。するとやっぱり気づくんですね。「主催者のURL、この位置だとわかりづらい。QRコードもここだと、ユーザーがかなりかがんでスマホをかざすことになる」といった具合に。文字情報として間違いがなくても、メディアとしての総体を確かめなければ、正しい校正にはなりません。そして適切な読み返しには……肉体がかなり有効なアイテムとして成立するぞ、と気がついたのです。
ですから、読み返すときには、ぜひ皆さんも肉体をつかってみてください。あなたの書いた文章をユーザーはどう読むのですか? 椅子に座ってハードカバーとして印刷された文字列をお茶でも飲みながらゆったり読む? 満員電車に揺られながらコートのポケットから引っ張り出した文庫本をつり革片手に読む? 文庫本じゃなくてスマホ? あるいは自動車の運転中にオーディオとして読む? 同じオーディオなら、ランニングしながらイヤホンで「読む」? それともそれとも……際限がないからよしますが、いろいろなスタイルの読むという行為があるわけです。ですから、書き直す際は、読み手がどのような肉体の動きを伴いながら読むかをイメージしてみましょう。そうしてイメージできたのなら、実際に自分の肉体でその動きを再現しながら「読み返す」ことをしてみましょう。イメージとユーザーの実像が乖離していても大丈夫。それはそれできっと発見があるはずです。そして発見が、新しい書き直しの方法論と実践を導いてくれることでしょう。
というわけで結論。
書き直し(校正)は肉体を使うべし。
どこの文章術や校正指南書にも書いていないテクニックですが、おすすめです。
机の前にはりついているだけの読み直しでは、よい書き直しの手がかりは、見つけられませんよ?
文芸コース主任 川﨑昌平
【お知らせ】
12月のオンライン1日体験入学では、文芸コースは12月14日(土)に「文章を書き直すため」の実践講座を開講いたします。ぜひご参加ください!
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