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日本画コース

2023年07月07日

【日本画コース】岩絵具を使ったマチエール技法

こんにちは、日本画コース業務担当の岸本祥太です。

今回は制作過程における部分から技法と素材のご紹介をさせていただきます。
お届けするテーマは「マチエール」です。

さて早速ですが、マチエールとは・・・聞き馴染みのない方もおられることでしょう。

端的に言えば「絵肌」ということになります。
絵肌、つまりは絵の表面のお話なのですが、日本画で使用する麻紙や岩絵の具には特有の質感や手触りのようなものがあると思います。日本画コースの授業では、特に岩絵具の粒子感、物質感を効果的に引き出して個性的な質感の絵肌を作り上げていく描画方法をお教えする授業もございます。

例えば動物を描く際、写生の時にフワフワの毛並みが魅力的に見えたり、山を描く際、木々のざわざわとした感じが印象に残っていたり・・・。描く対象に、より適した質感の絵肌が表現できたら素敵ではないでしょうか?

日本画の筆や刷毛以外の道具を用いて描いたり、単に描くことや塗ること以外の方法で画面へのアプローチを試みることで視覚的に抵抗感のある絵肌を作ることが可能になります。

研究室備品のマチエールセットには制作に便利な道具がたくさん入っています。
スポンジ、やすり、歯ブラシ、くし、ローラー、梱包材など…マチエール作りには一般的に画材として使用されていないものもうまく活用して岩絵具独自の表現として落とし込んでゆきます。

ホームセンターの掃除用具コーナーを覗いてみると、意外と制作に使えそうなものが並んでいたりするので、オススメです。

こちらが、マチエールの見本です。
先ほど紹介した道具を駆使すればこういった表情を作り出すことができます。

画面に載せた岩絵具が乾き切るまでに櫛で引っ掻いて枯山水のような紋様を作っています。

こちらは画材屋さんで売っている海綿体に絵の具をつけて、ポンポンとスタンプを押すようにして作られています。

こちらはスポンジを画面に押し付けることで作成しています。上から色味や番手の異なる絵の具を重ねることで、更に一味違った質感が出てきます。

上で紹介したマチエール見本では、岩絵具を用いて様々な絵肌を作り出しておりましたが、画面を盛り上げることや、ざらざらとした絵肌作りに適した絵の具もあります。

①盛り上げ胡粉、②盛上、③サンドマチエール、④水晶末、⑤方解末



マチエールや下地作りにお役立ちの絵の具です。容器に入った状態の写真で見ると、どれもこれも白っぽい絵の具で同じに見えてしまいますが、それぞれ違った特徴を持つ画材です。

画面に定着させたカラーチャートがこちらになります。
番手の違いによって粒子感が変化していく様子がわかりますね。



水晶末の粗い番手(左)細かい番手(右)



これらの絵の具の特性を簡単に解説するとこちらの通りです。

① 盛り上げ胡粉
白色系顔料。主成分は炭酸カルシウム。貝殻胡粉の粒子の中に大小の粗さを入れた顔料です。膠で解いたときに少し粘質をのこした状態で使用すると隆起した状態で乾燥するので立体的な表現などに使われます。


② 盛上
灰色がかった白色系顔料。酸化ケイ素・雲母/軽石の粉末。不透明でややグレーがかっています。輝きは弱いですが塗るときに膠分を多く含み膨らみます。製造元によって「天然盛上」「盛上絵具」と名称が違いますが同じものです。


③ 水晶末
炭酸カルシウム/水晶・石英などの粉末。純方解末より透明度が高い


④ 方解末
炭酸カルシウム/方解石の粉末。透明で輝きも強い

水晶末(左)と方解末(右)の原石です。



粉末状になると似たような白色の絵の具という印象ですが、このように原石の状態を見てみると絵の具としての特性も異なるのだなということがよくわかると思います。

水晶末は透明感が特徴的です。塗ったときに下の層が透けて見えやすいので、下地の色を生かしたまま画面の立体感を作りたいときには適しているかもしれません。

方解末は規則的な四角い割れ目の結晶です。粒子の状態でもこの特徴を維持して細かくなってゆきます。隠蔽力があるので、下の色を塗り潰して画面を盛り上げることも可能です。

素材と描法の簡単なご紹介をさせていただきましたが、日本画コースの授業からマチエールのレクチャーの様子も一部お届けします。



先日行われたV-5(風景制作1)の授業から、久野隆先生のレクチャーです。
方解末と水晶末を適度に混ぜます。しっかりと定着するように膠は十分に注ぎます。



マチエールを施したい部分に刷毛で大きく塗りこんでゆきます。

画面がしっとりと濡れたら・・・

乾き切らぬうちにラップを使って、塗り込んだ部分を覆います。

指を使ってラップに皺を作ってゆきます。この皺の形が、大まかな画面の凹凸として残ってゆくので慎重かつ軽快に画面に押さえ込んでゆきます。

ある程度よい皺の形が作れたら、ざっと勢い良く剥がします。

乾いた状態がこちらの通りラップの痕跡が偶然性を持つ形として残り、刷毛で塗り込むこととはまた違った印象の描き味になりました。

日本画IV-2(剥製制作)のレクチャーから



ブログの前半でご紹介したスポンジを使った表現は、このようにたっぷりと絵の具を含ませて…

画面にぽんぽんと押してゆきます。

画面に置いたこちらの葉っぱ、裏側にはたっぷりと黒い絵の具がぬりこんであります。

不要な紙などを使って力が均等に行き届くようにして画面に押し込んでゆきます。

紙をはがすとこちらの通り、葉っぱの形のスタンプのできあがり。
(こちらの表現、飽くまで葉っぱの形を借りてマチエールを施す方法なので、描くこととはまた違った表現手段の一つとなります。葉っぱを描く際には写生をして形を描いていくことが必要になります。)

今回のブログではマチエール技法の一部を紹介させていただきましたが、素材と技法の組み合わせ、画面へのアプローチの方法は無限大にあります。授業でも皆さん独自の描画方法を開発していかれるので、教室はいつも驚きに満ち溢れています。

それでは今回の記事はここまで、次回もまたよろしくお願いします。

 

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