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建築デザインコース

2023年08月01日

【建築デザインコース】建築巡りの旅に出てみましょう

こんにちは。建築デザインコース教員の吉池 (https://note.com/yoko_leaves) です。東京・外苑キャンパスを担当しています。

暑い日が続きますが、皆さんは外に出ていますか?建築を学んでいる方、建築に興味のある方にはぜひ実際にたくさんの建築を見てみて欲しいと思います。今日は建築のデザインを仕事にしている目線での建築の見方について紹介しようと思います。

私は寝ても覚めても建築のことを考えてしまう人間なのですが、状況によって建築の見方を変えています。いずれの場合もポイントは3「文脈」「美しさ」「自身の設計にどう活かすか」です。

 ①がっつり現代建築を学ぶ


まずは現代建築を見る場合です。新建築をチェックして行けそうな公共施設(美術館など)は行きたいリストに溜めておいて、長期休みの旅行で訪れるようにしています。今は新建築オンラインもあるので、iPadなどですぐに図面を見ることができるようになりました。

まず、現地に訪れる前に、新建築のページに目を通して、建築家の設計趣旨と図面・写真を見ておきます。図面を見ながら、どういう動線になっているか、空間構成になっているかを確認します。また、誌面に載っている写真がどこから見たものなのか図面と照らし合わせて確認しておきます。そして実際に現地に行ったときには一度、前情報を忘れてどういうところに感動するか/もしくはできないか感じてみます。その後建築家の設計趣旨や誌面で取り上げられていた写真・図面を見返しながら、なぜ建築家はその形をその素材、大きさで作ったのか、実際の人の流れ・過ごし方・光の入り方は?などと考えます。

さらにここからは実務向けのマニアックな視点なのですが、建築基準法を始めとした法律をどう解釈して設計に取り入れているか(防火区画や消火設備の位置、バリアフリーの考え方など)、構造と素材との取り合い(どこが構造壁なのか、ガラスや石などの柱や角での使い方など)、照明・設備の計画(効果的な照明は?目立たないけど快適な空調は?) 、どこのメーカーの素材を使っているか(新建築に材料が記載されているのでチェックします) までを見ます。建築家はどのような「文脈」で何をテーマに建築を設計しているか、その建築はなぜ「美しい/(場合によっては美しくない) 」か?、「自身の設計に活かすことのできる」実務的なポイントはあるかということを見ています。

例えばこちらの大阪中之島美術館(2022年竣工、遠藤克彦設計)を去年の秋に見てきました。まず印象的なのは黒い外観でその素材(黒い岩や砂を混ぜたプレキャストコンクリートをたたいて仕上げています)と中之島のパサージュを形成する吹抜け空間(展示室へのアプローチとなるエスカレーターで吹抜けの真ん中を通る高揚感があります)です。しかし、私がさらに注目したのは上階の明るい空間に対して、暗い1階のパサージュです。内部空間全体をクールな印象にしているプラチナシルバーのルーバーに光が当たるとモアレを起こし、歩くごとに揺らぐモアレが空間を優しい印象にしていると感じました。

また、通路の先にある自然光が白くスッキリと差し込んでくるのに対して、室内の照明は色温度が低く、オレンジがかっています。白いライン照明などでシャープに魅せるのではなく、丸い光の輪を床に落とすオレンジ色のダウンライトを採用することで温かみのある場所を作っています。

ここで、新建築の建築家の設計趣旨を見てみると、「ルーバーそのものは非常に単純な仕上げだが、背面下地に塗装されたやや赤を含んだグレー色の効果と、吹抜けトップライトからの自然光、そして室内照明の色温度の違いによってパッサージュの各面は複雑な色相をまとう」(新建築20221月号より)と記されており、なるほどとなるわけです。

(写真:筆者撮影)


②しっかり近代建築、歴史的な建築を捉え直す


現行の法規や技術がそのまま適用されないような建築を見に行く際にはまた少し見方を変えるようにしています。まずはその建築が設計・建設された時代と土地の「文脈」について考えます。

私たちが普段見慣れている現代建築と比べると何がすごいの?と感じたり、逆にこれをそのまま今も建てればいいのにと思ったりすることもありますが、当時の人々の暮らし、技術的な制約、権力構造(今では信じられないくらいの職人の労力がかけられていることも多くあります)を踏まえて建築と向き合う必要があります。

また、その上で、時代を超えてその建築が残っているのには普遍的な「美しさ」があると私は考えます。その美しさの要素は現代にも通用するものなので、「自身の設計にも活かす」ために特徴を切り取るために写真を撮るようにしています。

例えば、スペイン・バルセロナに建つカサ・バトリョ1904年にガウディの設計で改修の始まった集合住宅です。既存の建物にさらに2階分を建て増しているこの建築には当時の最新設備であるエレベーターが設置されました。

現代日本において住宅を建てる際には採光・換気といった快適性を保証するための法律を満たさなければいけません。そのような決まりのなかったであろう当時の状況の中で、ガウディはこの特徴的な形だけでなく、合理性や機能性にも注力しました。その結果生まれたのがこの目の覚めるような青いタイルで覆われた中庭です。

この中庭は光の入りにくい建物中央部に6層通しで設けられ、階段やエレベーターなどの移動空間、廊下や各室に面する窓(上部ガラス部は彩光のため、下部木パネルは換気のため)が接していました。この機能的な吹抜け空間で私が一番美しいと思ったのはタイルのグラデーションです。上部は濃い青、下部は薄い青になるよう5種類のタイルの色を混ぜて貼っています。下の方のタイルの色を明るくすることで各階の明るさを均一にするように意図したそうです。このタイルの貼り方、光の取り入れ方は今でも普遍的な美しさを生み出しています。ちょうど今外壁にタイルを使う設計をしているので、グラデーションの具合を参考にしています。

(参考:アントニ・ガウディの全作品 Carlos Giardano, Nicolas Palmisano 2019)

(写真:筆者撮影)


③楽しく街歩きで人と空間の関係を感じる


ここからはよりアクティブかつ気軽に建築を感じる方法を紹介します。それは周りの街を楽しむことです。街に出かけるとなんと建築で溢れていますね!幸せです。建築家の建てた建物でなくても学ぶことはたくさんあります。むしろ、人の自然な活動は何気ない街中でこそ発見できるかもしれません。もちろん日本の街でも面白いシーンはたくさんあるのですが、折角なので今年の春に訪れたイタリアの街の様子を紹介します。

こちらの写真は水の都ベネツィアの街中です。ベネツィアには運河がメインの道路の役割をしています。地上の広場や路地は通行の中心というよりは半分住民の庭のような場所です(街の空間の「文脈」です)

そんな路地をふらふらしているとこのような風景に出会いました。感覚的に美しいと感じて写真を撮りました。さて、何が美しいと感じたのかというと、左手前のグリーン、右の赤いオーニング、奥の椅子とパラソル・藤棚が道に対してはみ出しています。1階のお店の活動が道に溢れ出して、活気を生み出しています。つられるように2階以上の窓にも鉢植えがぶら下がっていたり、バルコニーがあったりと外に出るのが気持ち良いような仕掛けがあります。

(写真:筆者撮影)



また、少し歩くとこちらには素敵な屋上庭園がありました。グリーンが黄色に映えますね。

(写真:筆者撮影)



さて、このような素敵な街の様子から「自身の設計に活かせること」はなんでしょうか?イタリアと日本という「文脈」の異なる土地ですが、例えば、集合住宅の時に、そんなに広くなくてもちょっとした緑がおけるバルコニーがお隣と見合わないように少しずれながら配置されていれば、道から見た時にも壁ばかりじゃない素敵な道ができるのでは。1階のテナントには出窓やオーニングなど街にアプローチできる仕掛けを作っておくといいのかも。

そしてそれらのスケールは何十メートルも連続するものではなく、3,4メートルくらいの小さい空間の方が落ち着くのかも。といったことを考えて設計に取り入れています。

④涼しくドラマやアニメで建築鑑賞


とはいえ、今年の夏は暑いですね。時間もお金も限られているので、気軽に旅行に行けるわけではありません。かく言う私もインドア派なので映画、ドラマ、アニメが大好きです。大学に入学した際に教授から「君たちはこれからの人生で街を歩いてもテレビを見ていても建築のことを考えてしまします」という呪いのような言葉をいただいたのですが、これは真実でした。なんと映像作品を見ていると大抵建物が出てきます。その設計が気になってしょうがないんですね。

現代のドラマやアニメを見る際には家の間取りや舞台となっているオフィスや病院のデザイン(ついついエンドロールの撮影協力をチェックしてしまいます)、海外作品を見る時には国による街や家の違い(アメリカの一軒家には地下室があったり、ヨーロッパの集合住宅には急な螺旋階段があったりしますね)に注目してしまいます。

そして、知らず知らずのうちに設計するときに空間の使い方やデザインのイメージの参考にしています。皆さんもそのような経験はないでしょうか?

 ここまで私流の建築巡りの仕方を紹介してきました。ぜひ皆さんも今晩のTVから、明日の通勤・通学から、旅行まで建築を巡る旅に出てみてください!

 

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