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日本画コース

2023年08月06日

【日本画コース】岩絵具を溶く

こんにちは、日本画コース業務担当の岸本です。

通信教育課程のカリキュラムでは6月末で春期を終えて、7月からは夏期の授業も続々と開講しています。

新入生のみなさんはいかがお過ごしでしょうか。春から夏にかけては1年次の授業が多数開講されておりますので、一時は毎週スクーリング続きだったという方もおられるのではないでしょうか。

鉛筆、色鉛筆を用いた写生は楽しんで取り組んでいただけましたか?初めて扱う岩絵具の描き心地はいかがだったでしょうか。充実した学びの時間を過ごせたという一方で、まだまだわからないこともたくさんあることかと思います。

今月のブログでは春期に開講された1年次科目の中から、授業のおさらいも兼ねて絵の具を溶いて画面に描くまでの作業行程をご紹介したいと思います。ただ画面に色をのせていくだけでも日本画の画材はたくさんの道具の用意や下準備が必要になってきます。着彩に至るまでに使用する道具をパッと思いつく限り並べてみました。

筆、刷毛各種、筆洗、行平鍋、匙、膠、墨、硯…そして岩絵具。

日本画で扱う画材には工芸的な価値があります。そして、様々な歴史の変遷を経て私たちの手にとどけられています。

ところで、今回のブログのテーマである岩絵の具を指で溶くという一連の動作は、自分の制作にちょうど良い塩梅の、絵具と膠と水の配分を掴んでいくことが大切になってきます。絵の具に対する膠の濃度が薄過ぎれば画面に定着しませんし、逆に濃すぎると塗り重ねた際にひび割れの原因になります。

ただし、描き初めの方にとっては、濃度の配分は濃い方がよいとされています。これは画面に定着させて描かないことには、描画の実感がつかみにくいからだと個人的には解釈しています。

着彩に至るまでの一手間は、日本画の特徴的な要素でもあるように感じられます。一連の手順について、一般的な水彩絵具などと比較して少し考えてみたいと思います。 

左から、透明水彩、水干絵具、岩絵具を並べてみました。容器から出して紙に描くまでに日本画の画材は1段階手順が多いことがお分かりいただけるかと思います。

絵の具というものは基本的には顔料と、展色剤とを練り合わせることによって成立しています。顔料単体では画面に定着させることはできませんので、接着性のある素材とかけ合わせる必要があります。

その接着の役割を持つのが展色剤です。顔料をどういった展色剤と練り合わせるかによって、絵の具としての機能が変わってくることになります。アラビアガムと合わせれば、水彩絵の具、乾性油であれば油絵具、アクリルエマルジョンと合わせれば、アクリル絵の具となります。顔料と展色剤がすでにちょうど良い量に練り合わされた状態で売られているものが、一般的にイメージされる絵の具ということになります。

ところが岩絵具は、先ほどのような粒子の状態で絵の具として売られておりますので、容器から出してそのまま描画できる水彩やアクリルとは違い、展色剤としての膠と練りわせることで、ようやく絵の具として使用することが可能になります。

日本画材料の取り扱いのあるお店に行くと、このように瓶入りの岩絵具が並んだ棚と対面することができます。ただし、これだけの色数が並ぶようになったのは、新岩絵具や合成岩絵具の開発によるところではあります。

今度は絵の具としての使い勝手がよいと言われているアクリル絵具と、日本画の画材である岩絵具が画面に定着する様子を図によって比較してみました。



アクリル絵具の顔料は、展色材の中に包み込まれるようにして画面に定着します。

一方で岩絵具は、粒子の一粒一粒にも膠が薄くまとわりついてはいますが、画面への定着といった意味合いでは、絵具と基底材の接触する部分の膠の強度により定着力が担保されているという状態になります。岩絵具にまとわりついている膠は、塗り重ねの際に上に来る絵の具の定着を補助する役割を持ちます。そのために粒子を意識してよく練り合わせることが必要なんですね。

また、岩絵具の発色は展色材に透過されることなく鑑賞者に伝わるということになりますが、日本画の作品を鑑賞した際に見られるキラキラ感やザラザラとした物質感の正体も、こういった定着の仕組みによるところではあります。

前置きが少し長くなりましたが、岩絵具を溶くという動作は、絵の具を画面に定着させる仕組み自体を作るということになります。時間をかけてしっかり練り合わせることが大切になってきますね。

それでは、日本画II-1 (水干・岩絵具併用による制作)の授業から、描画レクチャーの様子をお届けします。

今回のレクチャーでは膠は水に対して10%の濃度で溶かしたものを使用することにします。岩絵具は新岩の群緑11番を溶きます。膠は匙1杯から少しの量を注ぎます。

中指を使って少しずつ絵の具に触れ合わせ混ぜてゆきます。少しずつ膠を足し、何度も絵皿の中をかき回して練り合わせてゆきます。

ややとろみが出るくらい全体がしっかり膠分で満たされたら水を足して、濃度を調整します。粒子の粗さによって、加える水の量は調節が必要ですが、今回は膠1に対して、水は2〜4の割合で調整しています。

刷毛を使用する際は、刷毛自体に含まれる水分で膠の濃度が変わってきてしまいますので、筆洗から出す際にはある程度、濾してから絵の具を含ませています。

画面に塗り込んでゆきます。岩絵具は独特の描き味をしておりますので、綺麗に塗り込みたい時はサッと塗り切ってしまうことが大切です。

ここまで来てようやく一色塗り込むことができました。適切な量の膠で練られた群緑の絵具が綺麗に輝いています。広い面積を塗れば乾くのに時間がかかってしまいますが、次の色を乗せてゆく際にはしっかり乾くのを待ちます。

ところで、日本画の代表的な色といえば、どういった色を思い浮かべられるでしょうか。

緑青、群青、黄土・朱色を思い浮かべられる方もおられると思います。

本朱は水銀と硫黄を化合して作っているので、取り扱いに注意が必要です。II-1の授業を受けられた方は説明があったことかと思いますが、朱を溶く行程は他の絵の具と少しだけ異なっております。溶いた絵皿をしばらく放置していると黄目と呼ばれる硫黄成分が浮いてくるのですが、此方を取り除いて使用すると冴えた赤い色を使うことが可能になります。

もちろん、やや黄色みがかかった絵の具をそのまま使用したい場合は、取り除く作業は必要ありませんし、黄目の部分だけを胡粉などと混ぜて、絵の具に黄色味を足して使用することも可能です。

朱の溶き方についても授業の一部からお届けします。

朱を溶く際は、通常よりも濃い膠を使用します。ほんのわずかな1滴の膠を注ぎよく練って、伸ばして使用します。

膠を多く注ぎすぎると、朱の粒子が浮いてしまっていつまで経っても練り合わせることができなくなります。

いつも絵の具を溶くより念入りにしっかり混ぜ合わせます。

溶いた朱に少し水を注ぎ、しばらく放置すると、黄目が浮いてきます。

絵皿を傾けるとわかりやすいですね。浮いた黄目は筆洗などに捨て、その後更に水を注ぎ、放置します。この工程を、23回繰り返すと冴えた赤色の絵の具として使用することが可能になります。

授業では課題のかぼちゃの断面の部分に赤みを出す描写で使用をおすすめしたりなどしておりました。 

岩絵具を溶くという行為については、つい当たり前のように行なってしまいがちですが、使用する画材そのものから見つめ直してみると作品制作には良い作用があるかもしれませんね。

今回のブログではここまで。

新入生の皆さんは8月には模写の授業を受けられる方もおられることかと思います。この夏は暑い日が続きそうです。お身体だけはお大事に。

それでは次回もよろしくお願いします。

 

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