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2023年09月26日
【芸術学コース】物語とイメージ -造形表現の可能性と視覚的イメージの役割を考える
皆さまこんにちは。芸術学コースの田島です。9月になりました。今年の夏はどのように過ごされましたでしょうか。私は展覧会や美術館にはほとんど行くことができなかったのですが、あるアニメーション映画を観る機会がありました。その体験がとても新鮮で、改めて視覚的なイメージについて考えるきっかけにもなりました。今回はこのことについて書いてみたいと思います。作品鑑賞をより豊かにするヒントになれば幸いです。
アニメーション映画『古の王子と3つの花』(ミシェル・オスロ監督、2022年、フランス・ベルギー合作)をご存知ですか?美しい映像が話題になっており、ご覧になった方もいらっしゃると思います。詳細はオフィシャルサイトを参照いただくとして、ここでは、個人的な視点からではありますが、この映画の簡単な説明とその体験について述べます。

まず、映画全体は民話や神話を元にした3つの物語で構成されており、それらがお話会で語られるという形式でひとつにまとめられています。進行役の女性と聴衆の存在により、鑑賞者もそのお話会に参加しているような感覚で観ることができます。
3つの物語は、古代エジプト、中世フランス、18世紀トルコとそれぞれ時代も国も異なる独立したお話なのですが、その構造は共通しています。主人公は不遇な境遇にあってもそれを悲観し嘆くのではなく、その状況でできることを考え行動し、自ら道を切り開き幸福を得る、という物語の軸があり、非暴力、信念、知恵、行動力といったキーワードとともにこの映画のメッセージとみることができそうです。

そして、このハッピーエンド・ストーリーを視覚化し魅力的に演出するのが、精巧で美しいアニメーション映像です。特に興味を引かれたのは、それが昨今主流の三次元的な表現やリアリティを追求したものではなく、それとはまったく別の、立体感が排除された平面的な造形表現により創られていることです。さらに、その趣向はそれぞれ異なっており、各々の物語にふさわしい手法がとられていることにも注目されます。エジプト美術を想起させる側面観の人物表現、繊細な切り絵風の表現、幸福感を感じさせるカラフルで明るい色彩構成など、平面性を強調しその特性を生かした造形で構成される画面は、物語の舞台や時代の雰囲気、主人公の個性、心躍るような気分や気持ちの高揚を観る者に伝え、強い印象を残すでしょう。いつの間にか自分がスクリーンの中の世界に引き込まれ物語に没頭していたことに気づき、そのような力を有するのは、3映像をはじめとする現実感や臨場感を強く感じさせる表現だけではないことを実感するとともに、二次元的な造形表現の面白さや可能性を再確認したのでした。

全体として、簡潔な文章で紡がれるシンプルなストーリーと美しいフランス語の響き、そして完成度の高い映像を同時に享受しお話を堪能するという体験は、良質な絵本を思い起こさせるものでした。絵本は、平明な文章とそれを視覚化した挿絵で構成されます。挿絵は第一に物語の理解を助けるという役割がありますが、優れた挿絵は、子供の関心を引きつけ物語に没入することを促したり、メッセージを効果的に伝え記憶に刻むといった効果をも備えていると考えます。映画の鑑賞体験が、このような絵本の特性と重なって感じられたのでした。もっと言えば、動きのある映像と音響の効果によって、絵本の体験がさらに華やかにダイナミックになったような体験だったといえるかもしれません。いずれにしても、視覚的なイメージの役割や機能、観る者に対する効果などを今一度考えるきっかけとなり、有意義な作品体験となりました。
以上、今回は、最近の体験からアニメーション映画を例にしましたが、対象は何であれ、視覚的に表されたイメージが、言語による情報としての物語(テクスト)に対しどのような役割を担い効果を果たしているか、その機能や力について考えること、両者の関係性を問うことは、鑑賞体験をより深めることにつながります。美術作品あるいは街中で目にするポスターなどその種類にかかわらず、視覚的なイメージは観る人の記憶や思考など精神の活動に対して少なからず影響を与えます。このことを念頭において作品に向き合うと、いろんな疑問が沸いてくるのではないでしょうか。さらに本格的に考えてみたいと思われた方は、ぜひ一度大学で学ぶことを検討していただければと思います。
※それぞれの物語のストーリーや造形表現はオフィシャルサイトで確認できます。特に造形表現については、上に挙げた写真だけではわかりにくいかと思いますので、サイトの画像を参照ください。
『古の王子と3つの花』オフィシャルサイト:https://child-film.com/inishie/#modal
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アニメーション映画『古の王子と3つの花』(ミシェル・オスロ監督、2022年、フランス・ベルギー合作)をご存知ですか?美しい映像が話題になっており、ご覧になった方もいらっしゃると思います。詳細はオフィシャルサイトを参照いただくとして、ここでは、個人的な視点からではありますが、この映画の簡単な説明とその体験について述べます。

チラシ表面
まず、映画全体は民話や神話を元にした3つの物語で構成されており、それらがお話会で語られるという形式でひとつにまとめられています。進行役の女性と聴衆の存在により、鑑賞者もそのお話会に参加しているような感覚で観ることができます。
3つの物語は、古代エジプト、中世フランス、18世紀トルコとそれぞれ時代も国も異なる独立したお話なのですが、その構造は共通しています。主人公は不遇な境遇にあってもそれを悲観し嘆くのではなく、その状況でできることを考え行動し、自ら道を切り開き幸福を得る、という物語の軸があり、非暴力、信念、知恵、行動力といったキーワードとともにこの映画のメッセージとみることができそうです。

下のチラシ裏面より一部抜粋
そして、このハッピーエンド・ストーリーを視覚化し魅力的に演出するのが、精巧で美しいアニメーション映像です。特に興味を引かれたのは、それが昨今主流の三次元的な表現やリアリティを追求したものではなく、それとはまったく別の、立体感が排除された平面的な造形表現により創られていることです。さらに、その趣向はそれぞれ異なっており、各々の物語にふさわしい手法がとられていることにも注目されます。エジプト美術を想起させる側面観の人物表現、繊細な切り絵風の表現、幸福感を感じさせるカラフルで明るい色彩構成など、平面性を強調しその特性を生かした造形で構成される画面は、物語の舞台や時代の雰囲気、主人公の個性、心躍るような気分や気持ちの高揚を観る者に伝え、強い印象を残すでしょう。いつの間にか自分がスクリーンの中の世界に引き込まれ物語に没頭していたことに気づき、そのような力を有するのは、3映像をはじめとする現実感や臨場感を強く感じさせる表現だけではないことを実感するとともに、二次元的な造形表現の面白さや可能性を再確認したのでした。

チラシ裏面
全体として、簡潔な文章で紡がれるシンプルなストーリーと美しいフランス語の響き、そして完成度の高い映像を同時に享受しお話を堪能するという体験は、良質な絵本を思い起こさせるものでした。絵本は、平明な文章とそれを視覚化した挿絵で構成されます。挿絵は第一に物語の理解を助けるという役割がありますが、優れた挿絵は、子供の関心を引きつけ物語に没入することを促したり、メッセージを効果的に伝え記憶に刻むといった効果をも備えていると考えます。映画の鑑賞体験が、このような絵本の特性と重なって感じられたのでした。もっと言えば、動きのある映像と音響の効果によって、絵本の体験がさらに華やかにダイナミックになったような体験だったといえるかもしれません。いずれにしても、視覚的なイメージの役割や機能、観る者に対する効果などを今一度考えるきっかけとなり、有意義な作品体験となりました。
以上、今回は、最近の体験からアニメーション映画を例にしましたが、対象は何であれ、視覚的に表されたイメージが、言語による情報としての物語(テクスト)に対しどのような役割を担い効果を果たしているか、その機能や力について考えること、両者の関係性を問うことは、鑑賞体験をより深めることにつながります。美術作品あるいは街中で目にするポスターなどその種類にかかわらず、視覚的なイメージは観る人の記憶や思考など精神の活動に対して少なからず影響を与えます。このことを念頭において作品に向き合うと、いろんな疑問が沸いてくるのではないでしょうか。さらに本格的に考えてみたいと思われた方は、ぜひ一度大学で学ぶことを検討していただければと思います。
※それぞれの物語のストーリーや造形表現はオフィシャルサイトで確認できます。特に造形表現については、上に挙げた写真だけではわかりにくいかと思いますので、サイトの画像を参照ください。
『古の王子と3つの花』オフィシャルサイト:https://child-film.com/inishie/#modal
芸術学コース 田島恵美子
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