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芸術学コース

2019年06月07日

【芸術学コース】研究の一コマ

こんにちは、芸術学コース教員の金子典正です。4月からあっという間に2カ月が過ぎて6月に入りました。一足早い暑さのために私は少しバテ気味ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。今回は大学教員の「研究の一コマ」と題して、自らの研究や授業のために出かけている現地調査の一コマをお届けしたいと思います。

私の専門分野は中国の早期仏像(中国の仏像のはじまり)であることから、その源流となるインドやガンダーラの仏像についても積極的にリサーチを進めています。そうしたなかで以前に訪れたことがあるインドのアジャンター石窟について、現地の写真を交えながらご紹介したいと思います。

 デカン高原の北西部にはいくつもの石窟寺院が現存していますが、なかでも抜群の知名度と優れた彫像や壁画を今につたえるのがアジャンター石窟です。現地への一般的なルートとしてはアウランガーバードから車で約3時間弱かかります。到着すると湾曲するワゴ―ラー川の断崖に約500メートルにわたって大小の29窟が現存しており、開削年代は紀元前後1世紀という驚異的な古さで、9・10窟がその代表窟で一般に前期窟と呼ばれています。これに対して5世紀後半から6世紀頃に開削された後期窟と呼ばれる窟も複数あり、主に1・19・26・29窟等がよく知られています。なかでも最も著名な壁画が1窟内の仏堂入口両脇壁に描かれた守門神像(かつては菩薩像とも呼ばれていました)です。

法隆寺金堂壁画のルーツに関わる壁画としてご存知の方も多いと思います。法隆寺金堂壁画の6号壁に描かれた阿弥陀三尊像のうち、両脇侍の観音・勢至菩薩像の首をかしげた伏し目がちな表情は、この守門神像の表現とよく一致しています。インド・グプタ絵画の白眉であり、こうした絵画様式がシルクロードを経て西域へと伝わり、さらに中国の当時の都であった長安に伝播して、長安の寺院では優れた寺院壁画が数多く制作されました。その様子は晩唐の張彦遠が撰述した『歴代名画記』に詳述されています。そうした都の優れた壁画を目の当たりにした日本からの留学僧あるいは誰かがその図像を入手し、それが日本へ伝えられて再現されたのが金堂壁画だと考えられています。その実態は資料不足のため未だ解明されていませんが、遥か遠いインドの絵画様式が西域から唐へと伝播し、さらに日本まで伝わったことを実証する貴重な作例としてアジア美術史のなかでは大変重要な作例と位置付けられています。本当に素晴らしい壁画でした。

では次に、アジャンター石窟の1世紀頃に遡る前期窟として有名な9窟を見てみましょう。

こちらの9窟はストゥーパすなわち仏塔を祀るチャイティヤ窟で、バシリカ建築に似た馬蹄形プランの最奥部にストゥーパが作られています。注目すべきはこの窟内には仏像の姿がどこにもありません。従来の研究ではインドやガンダーラで仏像が本格的につくられるようになるのは2世紀以降と考えられていますので、アジャンターの前期窟で仏像があらわされていないのは当然のことと言えます。当時の信仰の中心はこうしたストゥーパであったことを物語っています。これを踏まえて、次に後期窟の代表的なチャイティヤ窟である26窟に入ってみましょう。


窟内に入ると先ほどの前期窟の9窟と同様にストゥーパが祀られていますが、その正面には仏坐像があらわされています。このように仏像があること自体が5世紀後半以降に開削された後期窟であることを示しています。ちなみにこの9窟は長さ約7メートルに及ぶインド最大級の涅槃像が彫られていることでも有名です。その穏やかな表情と柔らかな肉体表現は素晴らしく、当時の彫刻技術のレベルの高さを物語っています。

 通信教育部の日頃のスクーリング授業では、理解を深めるためにこうした現地の写真を積極的に活用しています。仏教美術はインドで起こりましたが、ご承知の通り、長い年月をかけて中央アジア、東南アジア、東アジアなどの各地に伝播しました。各地で各時代に制作された数々の仏像にはそれぞれの造形的特徴があり、それらが複雑に絡み合って美術の歴史が形成されています。それらを体系的に学ぶことによってみえてくる美術史の面白さがありますので、是非興味をもって欲しいと思います。単なる観光とは違った新しい世界が広がるでしょう。それでは、また!

 

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