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2023年09月30日

【ランドスケープデザインコース】戸田芳樹氏特別講義「モダンランドスケープと日本庭園」-モダンランドスケープは日本の美を受け継いでいるだろうか?日本庭園をデザイナーの眼で見つめ直したいー

ランドスケープデザインコース業務担当非常勤の片木です。

9月2日(土)東京キャンパスでは、ランドスケープデザインコース2023年度第1回特別講義が行われました。ゲストは戸田芳樹先生。先生は、日本のみならず海外でも多くの作庭プロジェクトに関わられ、造園業界の中核を担うランドスケープアーキテクトです。本日は、「モダンランドスケープと日本庭園」というタイトルでご講演頂きました。 

教育活動として東京農業大学造園科学科客員教授を長く担われていた戸田先生ですが、本学通信教育部ランドスケープデザインコースでも非常勤講師として、ご登壇頂いていました。そんな当時の思い出をお話くださいつつも、聴講生に向け温かい激励の言葉を投げかけて下さり、心地よい戸田イズムにいつの間にか惹きこまれていきました。

ランドスケープアーキテクトへの近道は日本庭園を真摯に学ぶこと


はじめに、戸田先生から「日本庭園を真摯に学ぶことが必要である」とアドバイス下さいました。それは一体どういう意味でしょうか。 

中国では日本庭園をつくることがブームになっているそうです。その理由は、失われた中国の文化や思想の再発見が目的。中国思想が色濃く残る日本庭園を通じて、新たな中国スタイルの庭園へ昇華させていきたいという思いがあるそうです。そもそも、日本人は、中国や西洋といった海外の先進文化を自身の美意識にうまく重ね、日本らしいスタイルに昇華させることが得意である。と海外の方からは認識されているようです。そのように期待される私たち日本人ですが、日本庭園をどの程度知っているのでしょうか?

戸田先生はそこに疑問を持たれ、「日本庭園を読み解く~空間構成とコンセプト~」、「昭和の名庭園を歩く1・2~作庭のおもいとかたちを紐解く~」を執筆されたそうです。

いきなり古典を勉強するよりも、まず、近現代の作庭家がチャレンジした名庭園を自らの目で見て体験することが大事である、と仰っていました。これらの著書は、庭園デザインの読み解きについて、写真、図版を交え、とてもわかりやすく解説されています。読者自身が現場に持ち歩けるようなコンパクトサイズにもなっていて自主演習から学ぶことができます。皆さんも是非、手に取ってみてください。

尊書「日本庭園を読み解く~空間構成とコンセプト~」から。桂離宮庭園について。


さて、桂離宮の拝観といえば、広大な園内を限られた時間内で移動しなければならず、そのデザイン意図を理解することは容易ではありません。頻繁に通っている戸田先生でさえも、訪れる度に新しい発見があると仰っていました。 

日本庭園の最高峰とされる桂離宮について、戸田先生はどう分析されたのでしょうか。 

戸田先生は、デザイナーの観点から作品そのものにたどり着くまでの「発想やデザインの基盤」を推測し、それを解きほぐすことで、日本庭園は解けると仰っていました。

庭園を分解するにあたり、建築家菊竹清訓氏の「か・かた・かたち」、黒川紀章氏の「原型・類型・造型」の言葉を引用し、そこに戸田先生の手法が相まって下図のように整理・分析されていました。

「か・かた・かたち」というカテゴリーによって、桂離宮がみるみる分解されていきます。「か」は、コンセプトの裏に、白楽天や源氏物語、そして茶の湯といったストーリーがあり、「かた」を成すシステムでは、愛宕山や比叡山への軸線、月見のための景観軸といったお話も頂きました。デザインの話では、誰をどうもてなすか、という切り口からデザインが生まれ、「かたち」となって構成されていることもわかりました。



見所満載の桂離宮。そのため、要素が複雑で重層的です。現場の写真を取り上げながら、ひとつひとつの要素を多面的に、丁寧に解きほぐしてくださいました。クライマックスと言える、紅葉馬場から松琴亭までのシークエンスは、戸田先生の解説にも一層力が入り、細かなディテール、その情報量の多さに私も圧倒されました。

目的地までの短い道のりをまっすぐに通さない、ここで少し振っているから奥ゆかしさが生まれている、この飛び石は尖ったところをわざとぶつけることにより緊張感やリズム感が生み出されている、といったように、細かなディテールデザインについてのコメントにより理解を深めることができました。こうした、一つ一つの要素が全てのデザインに繋がっていること、この場所だからこそ生みだされたデザインと言えるものが幾つもありました。


「桂離宮庭園は現代にも通じるモダンな庭園である」


 最後のまとめにて、戸田先生は、「桂離宮庭園は現代と同じ手法でつくられたモダンな庭園」と断言されていました。ここでのデザイン手法は、今と昔で全く変わらないものであり、これが現代の文化や美学の基盤になり日本の美意識に繋がっている、とも仰っていたのがとても印象的でした。


桂離宮庭園から学ぶ、日本の「美学」について


 ここから日本の「美学」に話が展開されます。「かた」に分類される日本の美学のキーワードについて、写真で取り挙げて頂きました。そこには、私たちが見慣れた伝統芸術のイメージもありました。例えば、「片身替り」の切り口から解析すると、斬新でモダンといわれる現代のガーデンデザインにも、ドイツのランドスケープデザインの事例写真からも、この片身替りに通じる美学が見え隠れしているのだそうです。

「かた」のカテゴリーから現代の庭へ、いかようにも上手く展開し、転用できる、そのわかりやすい事例を提示くださいました。冒頭に仰っていた「ランドスケープアーキテクトを目指すなら日本庭園を真摯に学ぶこと」の意味は、どうやらここにありそうですね。


「モダンランドスケープと日本庭園」-モダンランドスケープは日本の美を受け継いでいるだろうか?日本庭園をデザイナーの眼で見つめ直したいー


今回の特別講義では、ランドスケープデザインの根源的な概念について、桂離宮庭園を一例としてご講義頂きました。これから日本庭園を造ろうという時に、単に伝統庭園を真似するのではなく、「かた」を展開して新しいものができるのではないか。私たちは先人の作品を見て、再構築できるものを学んでいかなければならないのではないか。ランドスケープとは、生き物を扱うデザインである。そのデザインは絶えず変化し、生きていなければならない。「いのち」をリスペクトする日本人の美意識は、日本のモノづくりの中に通じている。という、ランドスケープアーキテクトの極意をたくさん教えて頂きました。

講義最後のひとことでは、「皆さんが学んでいることはほんの一握りであることを自覚してください。一番大切なことは自身の「個性」をいかに作品に込めることです。その個性を活かし、これからも課題に取り組んでいってください」と激励のお言葉を頂きました。

本日の特別講義、内容の濃い、あっという間の2時間でした。戸田先生ありがとうございました。

この桂離宮の考察について、より詳しい内容は「日本庭園を読み解く~空間構成とコンセプト~」で是非ともチェックください。本学の図書館でも閲覧が可能です。

ランドスケープコースでは、日本庭園について実習形式で様々な観点から学ぶことができます。このように奥が深いランドスケープデザインの世界を私たちと一緒にのぞいてみませんか?

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日本庭園の様式は、平安時代及び鎌倉時代の寝殿造庭園や寺院の庭、室町時代の武将の庭や枯山水石庭、安土桃山時代の露地、江戸時代の大名による池泉回遊式庭園、近代の自然主義庭園、昭和時代の雑木の庭などへと続きます。

東日本では国指定名勝・史跡庭園の80庭近くをはじめとして、すべての時代の庭園を見ることができます。これらのうち興味深い庭園を写真や図面で紹介します。次に、これら日本庭園の持つ本質的価値(地域性・歴史性・人間性)が、現代の作庭やランドスケープデザインにどのように繋がっているのかを、講師の実作品紹介により提示いたします。

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