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書画コース

2023年12月26日

【書画コース】「干支」を用いる

はじめに


子、丑、寅、卯、辰……。

こんにちは。書画研究室の渡邊です。いま僕がやっていたことは、本学の威信にかかわるため秘密です。

十二支を始めから読み上げないと、それぞれの前後関係や、だいたい何番目なのかが、ちっとも分からないだなんて、知られるわけにはいきませんからね(もしも似た方がいらっしゃったら、僕はその方を「仲間」と呼ぶでしょう)。

さて新たな年が近づいていることですし、今回は「干支」をテーマにして、上記のごとく頼もしい筆者が、干支を実用的に、あるいは芸術的に用いることについて、若干の事柄を語りたいと思います。

 ●干支について


まず「干支」について確認してみたいと思います。「来年の干支(えと)は、辰だ」といった言い方を、聞いたことがありませんか。このように十二支のことを干支と呼ぶのも、決して間違いではありませんが、「干支」とは「十干(じっかん)」と「十二支」の組み合わせをいいます。

すなわち、以下の漢字を「甲子、乙丑、丙寅……」というように組み合わせて六十通りを作り、年月日を表したものを指すわけです。特に年を表すのに用いられる場合が多いようです。 

十干 :甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸

十二支 :子 丑 寅 卯 辰 巳 午 未 申 酉 戌 亥 

六十年で干支が一周して還ってくるので、数え年六十一歳を「還暦」といいますね。干支が何通りあるのか覚えやすいですが、人によってはイヤな単語かもしれません。

それはさておき、来年(令和六年[2024])の干支「甲辰」です。音読みでは「コウシン」、訓読みでは「きのえたつ」と読みます。

 

 ●干支を用いる


・書画の落款に用いる

皆さんは、何らかの形で干支を使用することはありますか。書画の落款では、干支を用いて制作時期を記すことが、今でもある程度行われていると思います。

「甲辰」だけでも年を表すことはできますし、「令和甲辰」または「令和六年歳在甲辰」等というように、元号と干支を組み合わせた表記にするのも、六十年で一周する干支を用いるにあたっては有効です(北川博邦『モノをいう落款』参照)。

作品上での書き方は、ある意味からしてそれ自体が「表現」であり、無数に有り得るわけですが、いくつか例を挙げてみます。

干支を用いた書画作品の例



アとイは、落款の冒頭に干支を入れ、続けて月を表す語を書いており、ウは画賛や署名から離して干支を入れています。エは年号と干支を併用した例です。
・手紙に用いる

書の名品には「尺牘(せきとく)」という種類のものがあります。これは手紙のことです。芸術としての書は、手紙を鑑賞することから生まれたという説があり(杉村邦彦「書の生成と評論」)、その提唱者は手紙を書くことを大いに推奨しています。そして手紙に年月日を記すこと、とりわけ年を記すのに干支を用いることを、すすめています。日本語の文章が持つ雰囲気をこわさず、古雅であり、記録の点でも優れているといった良さを挙げています(同『書苑彷徨 第二集』)。
 ・信箋

ここで、干支を用いて半ば実用的に、そして半ば芸術的に、遊んでみたいと思います。

先述のように干支は、年月日を表すのに使われましたから、書の古典からは様々な干支を拾うことが出来ます。次に挙げるのは、羅振玉(18661940)が内藤湖南(18661934)に宛てた手紙で、「辛酉」という干支が刷られており、これは中国の漢代の碑から文字を拾っています。この手紙は消印が判読不能な上、日付は「正月廿三夕」と書かれているのみですが、「辛酉」と刷られているおかげで1921年のものであることが分かります。

羅振玉「与内藤湖南書」(『書論 第32号』書論研究会、2001、p41口絵)



来年の干支である「甲辰」の字が見られるものには、中国後漢時代の「乙瑛碑(いつえいひ)」があります。先人を真似て、木版に彫ってみました(前掲図版と比較することは固くお断りいたします)。下絵としても、悪くないのではないでしょうか。

ハガキに刷るのも非常におすすめです。年賀状に適しているのは無論の事、お正月を過ぎても、前述のように、手紙に干支が刷られているのは大変すばらしいことですから、知らん顔をして普段使いのハガキにしてしまえるのです。

ちなみに今年(令和五年[2023])の干支は「癸卯」で、これまた漢代の碑の「史晨前碑」に見られます。事情があって手紙にはさほど用いず、今年作った詩を書きとめておくのに重宝しております。


おわりに


いかがでしたか。干支を用いることで、主に西暦で時間が流れている現代の日常から離れた、あるいは日常に重なった非日常に心を遊ばせられる感じがしてきませんでしたか。

ところで来年の十二支は「辰」ですが、龍は十二支の中で唯一、実在の動物ではないですね。龍がそもそも何であるかを解き明かした研究に、書画コースで書道をご担当の、桐生眞輔先生の著書『古代の文身と神々の世界 横断性図像学からのアプローチ』(雄山閣、2021があります。本書は文身(イレズミ)や漢字、図像を研究したものですが、結果的に龍の全容をも捉えたものだと感じています。

最後に、僕が自分で最高傑作だと思っている詩を載せて、めでたく記事を結びます。

皆さま良いお年を! 



 

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