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2024年08月07日
【芸術学コース】スクーリング「芸術学研修」の魅力を紹介
みなさん、こんにちは。業務担当非常勤講師の白石恵理です。
パリ・オリンピックが盛り上がりを見せるなか、この夏をどのようにお過ごしですか。
今回は6月22日(土)、23日(日)に実施された芸術学コースのスクーリング「芸術学研修K1」について報告します。必修科目の一つでもあるこのスクーリングは、主に新入生を対象に、京都で年1回開講されています。寺院や美術館などをともに巡りながら、芸術・文化についての知識と関心の幅を広げると同時に、ふだん対面の機会の少ない教員と学生および学生同士が親睦を図ることを目的にしていて、私も初めて同行しました。
1日目は、瓜生山キャンパスの講義室に参加者が全国から集合し、学外研修に向けたガイダンスのほか、班ごとに自己紹介が行われました。これにより、初対面の硬かった雰囲気が自然にほぐれ、スムーズなスタートが切れたように思います。その後、石上阿希先生による「テキスト科目の進め方のアドバイス」と翌日の予習を兼ねた「京都の近代」といった二つの授業につづき、梅原賢一郎先生による哲学講義「新・愉しい学問」も行われました。

あいにくの小雨模様となった2日目の午前中は、京都国立博物館、三十三間堂、養源院と、七条エリアの人気スポットから見学開始です。総勢50余名の参加者が3班に分かれ、各担当教員が待つ3施設を順次移動しました。
本堂・本尊を始め諸仏すべてが国宝の三十三間堂では、仏教美術を専門とする金子典正先生の解説を聴きながら、長大なお堂に整然と並ぶ千体の千手観音立像の迫力に圧倒されつつ、風神・雷神像、二十八部衆像等を鑑賞し、平安から鎌倉、そして現在へと連綿と続く文化保護の営みに思いを馳せました。
そのお隣の養源院は、とくに日本美術を学ぶ人は訪問必須といわれる寺院です。もとは16世紀に秀吉の側室・淀殿が、父である浅井長政の菩提寺として建立しましたが、焼失した後、二代将軍徳川秀忠の正室・お江により再建され、徳川家の菩提所ともなっています。本堂は伏見城の遺構で、かつての戦で自害した徳川軍勢の血で染まった床板などを供養のために天井に張り替えた「血天井」が見られます。そして、その血天井の英霊を慰めるために俵屋宗達が描いたとされる杉戸絵〈白象〉〈唐獅子〉〈麒麟〉の斬新な筆と構図も見応え十分。さらに、宗達の“現存する唯一の襖絵”といわれる〈岩に老松図〉や、狩野山楽の筆による障壁画などの名品がつづき、静かな空間で贅沢なひとときを味わいました。
京都国立博物館では、名品ギャラリーで特別開催中だった「豊臣秀次公430回忌 豊臣秀次と瑞泉寺」「国宝 法然上人絵伝」展や常設展示室を自由にまわり、美術・工芸鑑賞を堪能し尽くしたところで、ランチ休憩となりました。

午後は場所を岡崎エリアに移し、南禅寺の方丈庭園、南禅寺塔頭の一つである金地院、赤レンガの「水路閣」と琵琶湖疏水記念館、そして、通常は非公開の名勝・流響院の庭園を巡りました。南禅寺の方丈庭園と金地院では日本庭園史研究者の町田香先生、疏水に関しては午前に引き続き金子典正先生、流響院では復元改修時の設計監理に当たった吉村龍二先生がそれぞれ解説ガイドを務めてくださいました。




なかでも、参加者にとりわけ好評だったのが、流響院でした。園内は撮影不可のため、写真を掲載できないのが残念ですが、門から細い小径を進んだ先に、壮大な庭園が東山連峰と一体となって広がる光景は圧巻の一言でした。
南禅寺界隈の別荘群の一つとして明治期に建設された流響院(当時・福地庵)は、数寄屋造の主屋と、琵琶湖疏水を引き込んだ池泉回遊式庭園から成っていて、庭園を造営したのは「植治」こと七代目小川治兵衛と保太郎親子です。大正期には三菱グループの総帥、岩崎小弥太氏が所有していたとされる当時の姿をモデルに2007〜09年に大規模な復元・修復工事が行われました。
吉村先生は、園内を一周しながら、植治が庭づくりに込めた意図をもとに「庭の楽しみ方」のポイントを一つひとつ丁寧に教えてくださいました。座敷前の広場から石橋の結界を越えてアカマツと紅葉に囲まれた園路へ、さらに園池へ注ぐ州浜の流れを辿り、奥まった露路を抜けると、思いがけなく芝生広場が目の前に。このような劇的な場面転換から、東山の稜線と呼応させるように造作された築山の稜線や大滝による視線誘導、水の流れに緩急を生む川石の並べ方、茶室や離れなどの建材選定に至るまで、創意工夫と遊び心に溢れた庭園の魅力を存分に体感できました。天候や季節によって目まぐるしく表情を変える庭ですが、「いま私の見たこの瞬間が一番いい」と思えばよい、というアドバイスも強く印象に残っています。

2日間の研修を終えた参加者からは、「少々ハードなスケジュールだったが、有意義だった」「現地で専門家による解説を聞くことができてよかった」「芸術の見かたが深まった」などの感想が寄せられました。
本スクーリングでは、単位取得のために、課題レポートの提出も必須です。来年の見学場所については目下企画中なので、どうぞお楽しみに!
パリ・オリンピックが盛り上がりを見せるなか、この夏をどのようにお過ごしですか。
今回は6月22日(土)、23日(日)に実施された芸術学コースのスクーリング「芸術学研修K1」について報告します。必修科目の一つでもあるこのスクーリングは、主に新入生を対象に、京都で年1回開講されています。寺院や美術館などをともに巡りながら、芸術・文化についての知識と関心の幅を広げると同時に、ふだん対面の機会の少ない教員と学生および学生同士が親睦を図ることを目的にしていて、私も初めて同行しました。
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1日目は、瓜生山キャンパスの講義室に参加者が全国から集合し、学外研修に向けたガイダンスのほか、班ごとに自己紹介が行われました。これにより、初対面の硬かった雰囲気が自然にほぐれ、スムーズなスタートが切れたように思います。その後、石上阿希先生による「テキスト科目の進め方のアドバイス」と翌日の予習を兼ねた「京都の近代」といった二つの授業につづき、梅原賢一郎先生による哲学講義「新・愉しい学問」も行われました。

京都国立博物館:明治古都館
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あいにくの小雨模様となった2日目の午前中は、京都国立博物館、三十三間堂、養源院と、七条エリアの人気スポットから見学開始です。総勢50余名の参加者が3班に分かれ、各担当教員が待つ3施設を順次移動しました。
本堂・本尊を始め諸仏すべてが国宝の三十三間堂では、仏教美術を専門とする金子典正先生の解説を聴きながら、長大なお堂に整然と並ぶ千体の千手観音立像の迫力に圧倒されつつ、風神・雷神像、二十八部衆像等を鑑賞し、平安から鎌倉、そして現在へと連綿と続く文化保護の営みに思いを馳せました。
そのお隣の養源院は、とくに日本美術を学ぶ人は訪問必須といわれる寺院です。もとは16世紀に秀吉の側室・淀殿が、父である浅井長政の菩提寺として建立しましたが、焼失した後、二代将軍徳川秀忠の正室・お江により再建され、徳川家の菩提所ともなっています。本堂は伏見城の遺構で、かつての戦で自害した徳川軍勢の血で染まった床板などを供養のために天井に張り替えた「血天井」が見られます。そして、その血天井の英霊を慰めるために俵屋宗達が描いたとされる杉戸絵〈白象〉〈唐獅子〉〈麒麟〉の斬新な筆と構図も見応え十分。さらに、宗達の“現存する唯一の襖絵”といわれる〈岩に老松図〉や、狩野山楽の筆による障壁画などの名品がつづき、静かな空間で贅沢なひとときを味わいました。
京都国立博物館では、名品ギャラリーで特別開催中だった「豊臣秀次公430回忌 豊臣秀次と瑞泉寺」「国宝 法然上人絵伝」展や常設展示室を自由にまわり、美術・工芸鑑賞を堪能し尽くしたところで、ランチ休憩となりました。

京都国立博物館:平成知新館
午後は場所を岡崎エリアに移し、南禅寺の方丈庭園、南禅寺塔頭の一つである金地院、赤レンガの「水路閣」と琵琶湖疏水記念館、そして、通常は非公開の名勝・流響院の庭園を巡りました。南禅寺の方丈庭園と金地院では日本庭園史研究者の町田香先生、疏水に関しては午前に引き続き金子典正先生、流響院では復元改修時の設計監理に当たった吉村龍二先生がそれぞれ解説ガイドを務めてくださいました。


南禅寺の方丈や金地院の庭園などの重要史跡を拝観後は、緑豊かな境内を散策


南禅寺境内にある琵琶湖疏水の水路橋「水路閣」では実際に水が流れている様子を上からも見学
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なかでも、参加者にとりわけ好評だったのが、流響院でした。園内は撮影不可のため、写真を掲載できないのが残念ですが、門から細い小径を進んだ先に、壮大な庭園が東山連峰と一体となって広がる光景は圧巻の一言でした。
南禅寺界隈の別荘群の一つとして明治期に建設された流響院(当時・福地庵)は、数寄屋造の主屋と、琵琶湖疏水を引き込んだ池泉回遊式庭園から成っていて、庭園を造営したのは「植治」こと七代目小川治兵衛と保太郎親子です。大正期には三菱グループの総帥、岩崎小弥太氏が所有していたとされる当時の姿をモデルに2007〜09年に大規模な復元・修復工事が行われました。
吉村先生は、園内を一周しながら、植治が庭づくりに込めた意図をもとに「庭の楽しみ方」のポイントを一つひとつ丁寧に教えてくださいました。座敷前の広場から石橋の結界を越えてアカマツと紅葉に囲まれた園路へ、さらに園池へ注ぐ州浜の流れを辿り、奥まった露路を抜けると、思いがけなく芝生広場が目の前に。このような劇的な場面転換から、東山の稜線と呼応させるように造作された築山の稜線や大滝による視線誘導、水の流れに緩急を生む川石の並べ方、茶室や離れなどの建材選定に至るまで、創意工夫と遊び心に溢れた庭園の魅力を存分に体感できました。天候や季節によって目まぐるしく表情を変える庭ですが、「いま私の見たこの瞬間が一番いい」と思えばよい、というアドバイスも強く印象に残っています。

2日間の研修を終えた参加者からは、「少々ハードなスケジュールだったが、有意義だった」「現地で専門家による解説を聞くことができてよかった」「芸術の見かたが深まった」などの感想が寄せられました。
本スクーリングでは、単位取得のために、課題レポートの提出も必須です。来年の見学場所については目下企画中なので、どうぞお楽しみに!
(写真撮影:白石恵理)
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