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和の伝統文化コース

2024年11月29日

【和の伝統文化コース】箕面西江寺蟲供養

ようやく秋の気配を感じるようになりましたね!
みなさま、こんにちは。和の伝統文化コースの青木です。
今回は大阪府箕面市のお寺 聖天宮西江寺(注1)で毎年10月第1土曜と日曜日に開催される蟲供養(むしくよう)について、お話させていただきます。

聖天宮西江寺 2019年知人撮影



箕面市は大阪府の北西部に位置し、大阪市内から車や電車で約30分、自然や歴史がとても豊かな町です。私も幼少の頃には祖母に連れられ、箕面公園へ野生のニホンザルを見に行き、持っていたバックの中からお猿さんにお菓子を取られ、びっくりしわんわん泣いたとても思い出深いところです。大阪府で唯一「日本の滝百選」にも選ばれている箕面大滝もあり、また紅葉の名所としても知られており、これからの紅葉の季節が大変待ち遠しいです。

江戸時代の観光案内書にあたる『摂津名所図会』には「流れ滔々とめぐる。其形箕の面の如し。故に名とす」と名前の由来が記されており、昔は滝の流れが途中で広がって箕を伏せたような形になっており、その滝が市名の由来と言われているようですが、古い絵図にしか残っていないそうです(注2)。

さて西江寺の蟲供養とは、境内の蟲塚に供物を捧げ法要を行う「みのお虫供養万燈会」で、昭和14年以来80年以上、茶華道、画家、歌人、俳人たちが集まり、供養とともに、茶会や花会、川柳の会、生け花体験など一席を設けるお寺の伝統行事となっています。蟲供養における「蟲」とは、昆虫にとどまらず、「生き物すべて」を指しており、我々人間もその一つであるとされ、森羅万象あらゆる生き物を供養するという意味がこめられています(注3)。

今から1300年以上前、行基菩薩が都山路や山野を行脚された折、腰にさげた壺に虫のなきがらを拾い集め供養したことが始まりとされています。明治時代に入り、歌僧藤村叡運僧正(注4)がなにわの文人、墨客(注5)、風流人たちに呼びかけ蟲供養を復興し、堺の源光寺、寺町の万福寺を経て、昭和14年より関西の虫どころ箕面西江寺へ移りました(注6)。

 

蟲供養法要の様子 2019年知人撮影



みのお虫供養万燈会ご案内葉書 2019年、2024年



蟲供養では毎年、境内茶室にて表千家流や裏千家流の協賛供養席、聖天閣では華道東雲流の花会や生け花体験、境内には絵や川柳が描かれた行燈が掲げられたりと、お世話役の皆さまのご尽力で、長年に渡り風流かつ神聖な伝統行事が継続されています。初めて伺った時に拝見した境内の行燈にとても感動しました。コロナ禍中を経て規模は少し小さくなっているようですが、お一人でも多くの方々に足を運んでいただき、地域に根付いた伝統文化の一つを皆に知ってもらうことで、今後も脈々と続いていくことを心より願っています。

境内茶室・山濤軒にて表千家流協賛供養席、聖天閣にて華道東雲流師範会担当の立礼席 2019年知人撮影



境内に掲げられた絵や川柳が描かれた行燈 2019年知人撮影



蟲供養(虫供養)と言えば、「虫の日」とされている6月4日に合わせて、日本の様々な地域や団体でも、農業生産のため防除により駆除した虫(法名:虫類之霊位)の冥福を祈るための法要が執り行われています。

愛知県での虫供養は愛知県指定無形民俗文化財として、知多郡阿久比町にて行われる民俗信仰行事です。米作りや野菜作りで犠牲になった田畑の虫を供養するために念仏を行ったことが始まりとされ、毎年秋分の日に開催されており、 現在は町内の12地区が持ち回りで当番を受け持ち、当番になる地区では寒干しや土用干しをはじめ1年をかけ、虫供養当日を迎えるそうです(注7)。また、福島県大沼郡三島町でも11月に虫供養が行われています。

関西圏では、奈良県の久米寺虫塚にて6月末頃に虫霊法要が催されます。滋賀県の東近江市能登川町伊庭(いば)の妙楽寺というお寺では虫供養百万遍という、害虫の発生を防ぎ、田に虫がつかないことを願うための行事が行われています。

蟲供養、虫送り、虫封じなど、日本の地域に根付いた虫に纏わる伝統行事は神社仏閣で数多く行われており、人が生きていくために命を絶たれた虫の供養をするための塚が建てられています。また美術史においても虫をモティーフとして描かれた「草虫図」絵画や美術工芸品も数多くあり、日本人と虫の共存の関係性も大変興味深く、蟲塚、虫供養に関して、地域信仰や美術史の観点から研究するのもとてもおもしろそうであると考え、今回のブログに取り上げてみました。
ご興味のある方はぜひ箕面虫供養へ行かれてください。そこから何かまた面白い新たな発見があるかもしれません。

これから日本の美しい紅葉の季節が始まります。色々な地域にお出かけになられると思いますが、蟲供養のことを思い出された場合はぜひ蟲塚を探されたり、その土地に纏わる逸話や伝統行事を見つけていただけたらと思っております。

 

注1 聖天宮西江寺は修験道の開祖である役行者によって斉明天皇四年(658)建立された大聖歓喜天霊場の根本道場です。『聖天宮西江寺』、2024年、https://minoh-saikouji.com/20241011日閲覧)。

注2 「〈14〉箕面の滝 箕を伏せた形、今は昔」『読売新聞オンライン』、2018129日、 https://www.yomiuri.co.jp/local/osaka/feature/CO033271/20181208-OYTAT50019/(2024年10月15日閲覧)。

注3 河原紀久子「茶会記・消息」、『茶道雑誌』201912月号、118-119

注4 藤村叡運(ふじむら えいうん)。嘉永元年(1848)-大正4年(1917)。真言宗の僧。歌人。山城(京都)の生まれ。奈良の東大寺真言院から大阪高津の自性院にうつり、のち契沖の旧跡として知られる円珠庵の住職もかねた(「藤村叡運」『デジタル版 日本人名大辞典+Plus』、https://kotobank.jp/word/%E8%97%A4%E6%9D%91%E5%8F%A1%E9%81%8B-1105581(2024年10月16日閲覧)。

注5 墨客(ぼっかく)。書画にすぐれた人。書家や画家のこと。

注6 1月20日(月)「西江寺さんで「蟲供養」を行います!「蟲供養」から見えてくる?「生物多様性」」『みのお山なみネット』、2013年12月26日、https://yama-nami.net/%E7%94%9F%E3%81%8D%E7%89%A9%E3%81%AE%E5%A4%9A%E6%A7%98%E6%80%A7%E4%BF%9D%E5%85%A8/2013/12/26/4883/(2024年10月15日閲覧)。

注7 「阿久比の歴史・伝統 虫供養 [愛知県指定無形民俗文化財]」『阿久比町観光協会』、https://aguitown-kanko.com/history/histoy_mushi.html20241015日閲覧)。

 

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