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2025年03月05日
【和の伝統文化コース】「同時に楽しめる伝統芸能・文化のすすめ 〜文楽公演と呈茶〜」
みなさま、こんにちは。和の伝統文化コースの青木です。
先月になりますが、国立文楽劇場(大阪)にて毎年恒例の新春文楽公演(1月3日~26日)が行われました。
3日の公演初日には文楽座技芸員の皆さまによる新年のご挨拶があり、黒門市場さんからの縁起物のにらみ鯛がロビーに飾られ、文楽人形による鏡開きに、劇場スタッフさんによる樽酒の振る舞いも行われまさに新春に相応しい催しでした。

国立文楽劇場ロビー 2025年1月撮影
1月の公演中は、毎日1階ロビー展示室横に本格的な茶室舞台セットが組まれ、呈茶席が設けられました。
千家茶道を中心としたお点前とおもてなしで、日本の伝統芸能(文楽)と伝統文化(茶の湯)を同時にお楽しみいただける大変良い機会となっております。今年も1月10日の十日戎に、有志で呈茶席を担当させていただきましたので、国立文楽劇場と人形浄瑠璃文楽の歴史、呈茶席について少しお話しさせていただきます。

国立文楽劇場1階ロビーの呈茶席 2024年1月撮影
国立文楽劇場の開場
人形浄瑠璃発祥の地と言われている大阪の国立文楽劇場は、今年開場40周年を迎えました。
昭和38年(1963年)、財団法人文楽協会が設立され、国、大阪府、大阪市、NHK放送文化基金等の援助のもとに、文楽の保存振興が図られてきました。昭和41年(1966年)、東京国立劇場が開場され、昭和47年度から技芸員の研修制度も発足。また文楽の本拠地である大阪に、文楽専門の劇場であるとともに上方芸能の拠点となる国立文楽劇場の建設が要望され、昭和59年(1984年)3月に国立文楽劇場が開場しました。
3月20日の開場式においては、「寿式三番叟」が披露され、23日から25日のまでの3日間、「上方・芸能まつり」が、文楽、歌舞伎、舞踊、邦楽、大衆芸能、民族芸能等を網羅し文楽劇場開場を祝賀して賑やかに開催されました(注1)。

国立文楽劇場1階呈茶より2階を見上げて 2025年1月撮影
文楽の魅力と鑑賞
人形浄瑠璃文楽は能・歌舞伎と共に日本三大古典芸能の一つとされています。
文楽をご覧になられるには、まずは大阪の国立文楽劇場と東京の国立劇場(現在閉場中、注2)が主な会場となります。
文楽の魅力をひとことで言えば、愛と死が登場人物を色濃く染め上げる、その迫力にあります。
この物語は人物や内容によって「時代物」と「世話物」の二つのカテゴリーに分けられています。
「時代物」は江戸時代だけでなく、江戸時代以前の歴史上の人物や事件を扱った作品であり、公家や武士が中心になって活躍します。物語の展開は輻輳(ふくそう)(注3)し、五段を定型としつつ、それ以上の演目も珍しくはありません。
いっぽう、「世話物」は、江戸時代の町人の世界をリアルに描き、庶民の恋愛模様や街中で起きた事件などを題材にしたものです(注4)。上中下の三段を基本としながら、時代が下るにつれて段数が増えていったそうです(注5)。
初めて文楽を鑑賞される方へのおすすめ
文楽は初めてという方も歌舞伎では既にご覧になってらっしゃるかもしれませんね。
『曾根崎心中(そねざきしんじゅう)』、『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう』、『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』、『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』、 『恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな』、『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん』、『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』、『女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく』などです。

国立文楽劇場2階ロビーにて 2024年1月撮影
人形浄瑠璃文楽の始まり
室町時代の旅芸人が浄瑠璃姫と義経の恋物語を語った「浄瑠璃語り」(語り歩いた人々)、それに大陸伝来の楽器をルーツにする三味線がいつしかペアとなり、さらに人形を箱の中で操る「人形まわし」が加わり、音曲を伴う語りものと人形とが一体となった大衆芸能が生まれました。大道芸人として諸国を放浪しながら披露していましたが、やがて都市の劇場小屋で腰を据えて興行するようになったのが17世紀半ばであるとされています。
浄瑠璃語りの竹本義太夫は貞享元年(1684年)大坂道頓堀に竹本座を創設し、近松門左衛門を作者に迎えて『出世景清』で成功します。互いの才能を鍛え合い人形浄瑠璃の可能性を高めた時代です。
元禄16年(1703年)、竹本義太夫の弟子・豊竹若太夫が、東西に伸びる道頓堀通りの東に豊竹座を創設し、西の竹本座に対抗し、両坐が競い合うことで人気はますます高まり、人形浄瑠璃は全盛期を迎えます。
人形について当時は一人遣いでしたが、人形の表現力を高めるために、今では当たり前となっている三人遣い(主遣い・左遣い・足遣い)となったのは近松没後ちょうど10年を経た、享保19年(1734年)頃で、人形自体の改良も行われ現在見るような形態に整えられていったそうです(注6)。

国立文楽劇場1階ロビー 2025年1月撮影
1800年代初頭には、淡路出身の浄瑠璃語りが大坂に芝居小屋を作り、その三代目に及び大成。号を植村文楽軒といい、これにより文楽といえば人形浄瑠璃の通称になったとのこと。人形浄瑠璃文楽は、昭和30年(1955年)重要無形文化財(芸能)に指定、また平成20年(2008年) ユネスコ無形文化遺産保護条約「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」記載されました。今日まで、太夫・三味線・人形の三業も技を磨き、人形浄瑠璃文楽は今では世界的な評価を受けています。
15年程前より、新春文楽上演に合わせロビーにて呈茶席を設け、鑑賞の合間にお菓子と薄茶の振る舞いが行われています。本格的な茶室を舞台セットで造り、お点前を披露しながらゆっくりと日本の伝統文化である茶の湯に触れていただきます。敷居が高いと思われる茶会を気軽に味わっていただく大変良い機会として、先生方のご奉仕で長年続けられています。これまでは師事する先生の社中としてお手伝いしておりましたが、一昨年前より有志五名で「五葉会(いつはかい)」を結成しご奉仕させていただいております。来年も同じ10日に担当いたしますので、ぜひ文楽鑑賞と共に足をお運びくださいませ。

呈茶席 2025年1月撮影

今宮戎神社の福娘さんより十日戎に福笹の授与 2025年1月撮影
和の伝統文化コースの専門科目の一つ『伝統文化実践II-1 伝統邦楽』では、芸能の成立した歴史的背景や音楽的特徴を講義を通じて学ぶとともに、楽器の扱い方、楽譜の読み方、日本特有の音階、発声方法など体験型ワークショップを行って実践的に学ぶ機会もございます。また茶の湯文化についての講義や茶会などの実践スクーリングを選択することもできます。座学としての学びもとても大切ですが、本コースでは直接伝統文化や芸能に触れる機会を多くお持ちいただくため、様々な角度からの学びができるようにカリキュラムが組まれております。ご興味をお持ちいただきましたら、ぜひHPにアクセスしてコース概要などご覧くださいませ。
参考文献
国立文楽劇場編(1994)、『国立文楽劇場十年史』、日本芸術文化振興会
松平盟子(2003)、『文楽にアクセス』, 淡交社
佐貫百合人(1992)、『歌舞伎・能・文楽の世界』、ぺりかん社
竹本住太夫・和多田勝(1985)、『言うて暮らしているうちに 文楽解き語り』、創元社
注1 『国立文楽劇場十年史』1994年, pp.20-21
注2 初代国立劇場は、令和5年10月末から再整備等事業のため閉場しております。閉場中も、他劇場にて主催公演を行っております。(独立行政法人日本芸術文化振興会 国立劇場より)
注3 輻輳(ふくそう)。四方から寄り集まること。物事がひとところに集中すること。
注4 「人形浄瑠璃文楽BUNRAKU」『文化デジタルライブラリー』、https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc26/sakuhin/bunrui.html(2025年2月28日閲覧)。
注5 松平盟子, 『文楽にアクセス』, 2003年, pp.16-17
注6 松平盟子, 『文楽にアクセス』, 2003年, pp.45-48

和の伝統文化コース|学科・コース紹介


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