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2025年04月28日
【文芸コース】たくさん読むコツ

どんな文章であれ、よりよく書くためには、たくさん読まなければなりません。理由はシンプルで、読者は書き手の文章の中から「その書き手が何をどれだけ読んだか」を意識的にせよ無意識的にせよ、確実に見抜く能力を持つからです。例えば論文などであれば、読者は研究者や専門家。彼らは当然ですが「この論文の作者……90年代の論文を一切読んでないんだなあ、先行研究が浅すぎる」とか「なるほど、アメリカで今人気の潮流をよく抑えていることが論の構築からよくわかる。ただ影響されすぎだな。アジアでの最新研究事例などへの考察が足りていない」とか、もう一発で見抜きます。小説でも似たようなことはあります。小説好きな読者であればあるほど「あ、この表現ってきっと◯◯の影響を受けているんだろうなー。私も◯◯好きだから嬉しい!」とか「なーんか既読感のある展開……この作者、同じジャンルの◯◯先生の作品、読んでないのかな?」とか、やっぱりすぐに気が付きます。自明のことですが、読者はあなたの文章だけを読むわけではないのです。多くの文章、数多の文芸作品に触れてきた上で、あなたの文章を読もうとするのです。ですから「たくさん読んでいない」事実が見抜かれた瞬間、読者はあなたから興味を失います、多分。そうならないためには、たくさん読むしかありません。読んだ経験と事実とが、あなたの文章をより強く、より響くものへと育ててくれるからです。
以上を踏まえて、今回のテーマは「どうすればたくさん読むことができるか」です。
先に結論から言いましょう。答えは……「読みたいものを読まない」です。
もしあなたが「私は読書量が足りない。たくさん読まないと! でも何を読んだらいいんだろう?」と考えているならば、その思考自体があなたの読書の足かせになっているのだと自覚してください。「読まなければいけない本」とか「読むべき本」とか、そうした本を求める思いそのものが、あなたの「たくさん読む未来」を妨害します。そんなもの、求めちゃだめ。そんな本、ないと思ったほうがいい。書店を訪れて「読みたい本」を探している時点で、負けです。だってそれは「あなたの現時点での知識・興味・関心を超越する出会いを放棄している」のも同然の姿勢なのですから。
ですから、書店に入ったら「本を探すこと」をせずに、思い切ってタイトルすら見ずに、えいやっと手を伸ばして、あなたの指がそっと触れた本を、買ってください。そして読んでみてください。「ふざけんな、お前の言う通りにしたら、『超絶簡単!ゼロからつくるバックロードフォン型自作スピーカー入門』なんて本を買っちゃったじゃないか! オーディオなんて興味ないのに! 半田ゴテなんて中学生以来触ったこともないのに!」と、あなたは叫ぶかもしれません。おめでとう。あなたの狭い世界に新たな視点が舞い降りた瞬間です。読むことで知らなかった世界に興味を抱くことができれば、新たな世界を開拓する喜びが生じますし、逆に読んでもさしたる興味が沸かなかったとしても「自分とは異なる価値観がこの世にはあること」を身を以て知る体験を手にしたことになります。いずれにせよ損はしていません。文章を書く素材を得たわけですから、やはり喜ぶべきでしょう。
自分の知らなかった、興味関心を持つことのなかった世界に触れてみること……それが「たくさん本を読むコツ」です。その体験があなたの読書をより豊かにし、ひいてはあなたの文章をより魅力的にします。「好きなものを読んで、好きなことを好きなように書く」だけでは、あなたの文章は広がりを持ちません。いつまでも同じようなことを同じように描くしかできないまま、終わってしまいます。それでは新たな読者との出会いもありませんから、あなたの表現が狭い世界に閉じこもったままになってしまいます。そんなの、つまらないですよね?
より広い世界に、より新たな読者に伝わる文章を書きたかったら、「今、あなたが知らないもの」をたくさん読むことです。さあ、書店や図書館に足を運んで、どんどん興味関心がないジャンルの本を読んでみましょう。そうするだけで、あなたの世界は広がります。その体験を楽しく感じられれば、必然、あなたは今よりもたくさんの本を読むこととなるでしょう。そして、その未来は……あなたの文章をより豊かにしてくれるに違いありません。
文芸コース主任 川﨑昌平

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