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2025年05月08日
【ランドスケープデザインコース】一人ひとりの大切な風景を重ねる-『環境的自伝を描く』授業内容のご紹介
4月には瓜生山・外苑キャンパス、5月にはオンラインでの新入生ガイダンスが行われます。
東京の外苑キャンパスは4月13日で、桜の花もまだ残るなか、恒例のガイダンス後の「外苑散歩」を私は楽しみにしていたのですが、落ち着かない春の天気とのにらめっこの末、今年は中止として新入生から一人ひとり自己紹介をしていただく時間としました。
新入生の方とお会いする機会は、外苑キャンパスでのスクーリングを通じてこれから多くありますが、たいていは講義を聞きながら成果物の制作、発表や講評などで目一杯となってしまうため、新入生の方々のランドスケープデザインへの関心やこれからの不安や期待を伺うことができ、とても良いガイダンスの時間になったと思います。
またこの日の午後からは、有志企画による「新宿御苑散策」も予定されていたのですが、こちらも春の雨のなかでお流れとなりました。それでも在学生・卒業生をはじめ、スクーリングでお世話になっている先生も交えての交流会は予定のとおり行うことができ、お互いの仕事や活動、ランドスケープへの思いや興味を共有しました。

昨年の「新宿御苑散策」の様子
在学中や卒業後も、それぞれが楽しみ、学び、あるいはそれを創り、耕しているランドスケープ/風景を介して、交流やつながりが続いていくのがこのコースの特徴ではないかと思います。
さて今回のブログでは、昨年度実施していた「環境的自伝を描く」授業内容についてご紹介していきたいと思います。
当コースへの入学を検討されている方に向けた「一日体験授業」と在学生向けの「特別講義」で行ったこの環境的自伝のワークは、『まちづくりの方法と技術―コミュニティー・デザイン・プライマー』※に紹介されている内容に基づいて行ったものです。
※ ランドルフ T.ヘスター, 土肥 真人(1997)「まちづくりの方法と技術―コミュニティー・デザイン・プライマー」現代企画室
「環境的自伝」は、一人ひとりの心のなかにある大切な風景を捉えて、スケッチや言葉で表現していく手法のことを指しますが、その具体的なやり方は以前のブログでも紹介されていますので、そちらをご覧になってください。
【ランドスケープデザインコース】12月のオンライン1日体験入学『環境的自伝を描く』のご案内
【ランドスケープデザインコース】12月のオンライン1日体験入学『環境的自伝を描く』のご案内
環境的自伝によって描かれるのは、自分の中にいつまでも残る風景であり、原風景とも呼べるものです。これを現在に手繰り寄せて、つぶさに観察して、感触を思い出し、表現してみるためには、ゆっくりと一人静かに過ごせる場所や時間を選ぶ必要があるのですが、講義の時間は限られたもので、さらにオンラインでの講義ということもあり、本当にできるのか心配していました。
しかし実際に始まってみると、オンラインならではの良さが現れて、様々な場所から数多くの参加があり、また在学生向けの特別講義では同じく業務担当非常勤の大嶋先生との合同講義ということも手伝って、ランドスケープ以外のコース生の方にも多く参加してもらうことができました。

一日体験授業の参加者に対する受講場所についての質問(Slido使用)

特別講義の参加者に対する受講場所についての質問(Slido使用)
限られた時間ではありましたが、参加者の方には、まず呼吸を整えてもらい、静かに目を閉じて時間をさかのぼり、自分が大切にしている風景、心があたたかくなる・幸せを感じるような場所を探ってもらい、その風景をスケッチしてもらいました。一日体験授業では10枚のスケッチ、特別講義では16枚のスケッチが集まりました。環境的自伝は自分の心象風景でもあるため、投稿を躊躇された方や、PC操作の関係からスケッチをアップロードできない方が多くいたと思いますが、これだけの数を投稿・紹介してもらえたことは予想に反して嬉しいことでした。
参加者の環境的自伝をここで紹介することは叶いませんが、教員や事務局の方に描いてもらったスケッチを一部ご紹介します。

環境的自伝のスケッチ
描いた場所はどこか、いつ頃の風景か、何をしているか、誰と一緒にいるのか、印象に残っているのはどのようなことか。環境的自伝を描いてもらった参加者にはご自身の風景を紹介してもらいました。スケッチから見えてくるのは、環境に対する自分の価値観であり、ものの美しさの価値判断や基準です。
講義目的の一つは、環境的自伝のワークを通じて上記のことを知ってもらうことでしたが、これと同時に、環境的自伝で描いた風景について話し、ほかの誰かと風景を交換すること、他者の風景と自分の風景を重ね合わせることの意味を考えてもらうことも、大きなねらいの一つでした。「わたし」の風景のなかに在る、他者の風景との共通要素、あるいは不在の要素はなにか。
特にランドスケープデザインに関わる方には、この不在の要素についても目を向けてほしいと考えて、特別講義の参加者の方には、講義の前後で次のような質問をしました。

「ランドスケープデザインにおいて大切にしていること」(Slido使用)

「環境的自伝で見つけた風景において大切であったこと」(Slidoを使用し講義後に作成)
回答を眺めてみると、大事な風景を形づくるものには、家族や友人の存在や、その間にある安心感や愛情、まちの躍動感や人々の笑い声、遊びへの期待感、あるいは鳥の鳴き声や水面の眩しさ、遠くにある山並み、日差し、青空、潮風、土や香り、雪や春の季節など、多様な要素を見出すことができます。一つひとつの場所がこれらの風景をつくり、また一人ひとりがこれら風景を創ることに参加している、という風に思うのです。これらをデザインすることがランドスケープデザインであり、私はここに難しさと奥深さを感じますが、講義に参加された皆さんはどのように感じられたでしょうか。
これから学んでみたいと思う方も、ぜひご自身のなかにある大切な風景を携えて、このランドスケープデザインへの学びを一緒に深めていけたら嬉しく思います。

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