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2025年07月31日
【歴史遺産コース】 文化財科学と歴史学の世界へようこそ!
私たちが暮らす日本には、たくさんの「歴史遺産」があります。それはお城やお寺、遺跡だけではなく、昔の人が残した絵画、建物、古墳などの壁に描かれた絵なども含まれます。こうしたものを守り、調べるのが「文化財科学」という分野です。
文化財科学はまだ新しい学問で、日本史や考古学と比べると歴史は浅いですが、とても重要な役割を果たしています。たとえば、文化財の中に使われている「色」や「材料」がどんなものかを科学の力で調べたり、劣化したものをどうすれば修復できるかを考えたりします。
では、文化財科学の具体的な研究の一例として、「赤色」に注目してみましょう。昔の人々は、墓や壁画などさまざまなものに赤い色を使ってきました。この赤色には、実はいくつか種類がありました。たとえば、「朱(しゅ)」と呼ばれる水銀から作られる鮮やかな赤や、「ベンガラ」と呼ばれる鉄から作られるくすんだ赤などです。

朱(HgS)

ベンガラ(Fe2O3)
赤い色は、ただ「目立つから」使われたわけではありません。時代や場面によって、それぞれ意味がありました。たとえば弥生時代では、赤は悪いものから守る力があると考えられ、お墓に使われました。古墳時代になると、赤は権力や高い身分の象徴となり、特別な人のために使うことに重きをおくようになりました。
赤色の違いは見た目にもあらわれます。文化財科学では、これを肉眼だけでなく、さまざまな機器を使って分析し、何の原料でどのように作られたかを調べます。それによって、その文化財が作られた時代や場所、人々の思いなどが浮かび上がってくるのです。
具体的な例として、奈良県の明日香村にある「高松塚古墳」と「キトラ古墳」を紹介しましょう。このふたつの古墳には、色鮮やかな壁画が描かれています。人物や空想の生き物など、いろいろなモチーフが登場します。これらは飛鳥時代につくられ、当時の朝鮮半島との交流の影響を強く受けていると考えられています。
しかし、壁画は長い年月の中で劣化します。高松塚古墳では、発見後の保存環境がよくなかったために、カビが生えたり、色があせたりしてしまいました。やむを得ず、壁画の一部を切り取って保存することになりました。一方、キトラ古墳では、その反省を活かして壁画の保存がより慎重に行われました。

奈良県高松塚古墳壁画:文化庁『国宝高松塚古墳壁画修理作業室の公開』事務局公式ホームページ(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/takamatsu_kitora/sagyoshitsu_kokai/oubo/about.html)

奈良県キトラ古墳壁画:文化庁『キトラ古墳壁画の公開』事務局公式ホームページ
(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/takamatsu_kitora/kitora_kokai/oubo/about.html)
この2つの古墳で使われていた「赤色」も文化財科学の研究対象です。調べてみると、キトラ古墳では鮮やかな朱が使われており、高松塚古墳では朱に加えてベンガラも使われていました。つまり、同じ「赤色」であっても、描く場所や意味に応じて原料を使い分けていたのです。
こうしたことを発見するのが、文化財科学の面白さです。考古学者が発掘した文化財を、文化財科学の研究者が受け継ぎ、保存や修復を進めていきます。その第一歩が、「今、文化財がどんな状態にあるか」を正確に知ること。だからこそ、色や素材を詳しく調べることがとても大切なのです。
文化財科学は地味で目立たない分野かもしれませんが、歴史を支える縁の下の力持ちのような存在です。しかも赤色のような「色」に注目すると、歴史がぐっと身近に感じられるようになります。
最後に、皆さんにもぜひ、文化財を「色」から見てみるという視点をもってもらえたらと思います。目立たないけれど、そこにしかない大切な証拠や古代の人々の思いが、色の中に隠れているかもしれません。
本学の歴史遺産コースでは、こうした文化財修理に関わる色の研究動向を学びつつ、その意味や役割について考える授業が用意されています。いろんな学問の橋を渡りながら、過去の人々の生きた証を探しにいく──そんな知的な冒険に、あなたも出発してみませんか?
歴史遺産コース|学科・コース紹介

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