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アートライティングコース

2025年10月03日

【アートライティングコース】調べる前に書きはじめるvs調べてから書きはじめる

こんにちは。教員の小柏裕俊です。
アートライティングとは「芸術や文化を対象として文章を書く行為、そのようにして生まれた文章」のことです。その対象は一つの芸術作品かもしれないし、一人のアーティストかもしれません。特定の祭りやファッション、ビデオゲームや楽曲かもしれません。いずれにせよアートライティングとは題材となる「対象」を必要とする文章です。
このようになんらかの「対象」について文章を書くとき、その「対象」について本を読んだり、インターネットで情報を得たり、あるいはフィールドワークのような体当たりでの調査をしたりする必要があります。アートライティングには「調べる」ことが不可欠です。
このブログを読んでくださっている方、つまりアートライティングに興味を持ってくださっている方は、アートや文化に関心を抱いている方に違いありません。そしてきっと、自分が興味を持っている作家や作品について調べることもお好きなのだろうと想像します。もっと詳しく知りたい、深く理解したい作品や作家について本を読み、インターネットの記事を読み、作家のインタビュー動画を視聴して、発見があったり、よく分からなかったことが分かるようになったりすると知的な快感があります。嬉しいし、楽しいです。
今日はパソコンやスマートフォンを使えばいつでもどこでも情報を探すことができる時代です。人に尋ねる前に自分で調べなさいと言われることもあるでしょう。気になったことをすぐに調べるというのは、IT環境によって作り上げられたわれわれ現代人の「習い性」なのかもしれません。

さて、わたしが担当する科目の一つに「クリティカル・エッセイ」というものがあります。「クリティカル・エッセイ」とは「批評文」のことです。指定されたジャンルのなかから一つを選び、そこからさらに自分なりの「題材」を選んで、一本の批評を書くという科目です。ここでいう批評とは「自分独自の観点で題材にアプローチすることで、その題材に新しい意味や理解を見出すこと、それを言葉で表現すること」です。アートライティングコースの在学生からは、ちょっとハードルが高い科目、と認識されているようです(ちなみに必修科目です)。

この「クリティカル・エッセイ」に取り組むときにも調べものは必須です。気になったらすぐに調べるという「習い性」が活かされやすい科目ともいえます。
しかし「習い性」に身を委ねすぎることには注意も必要です。情報の森で迷子になってしまっているレポートにときおり出会います。たくさんの資料にあたり、調べたことを丁寧にまとめてはいるのですが、「自分独自の観点で題材にアプローチすることで、その題材に新しい意味や理解を見出すこと」ができずに終わってしまっているのです。自分が見出した「意味」や自分なりの「理解」が「新しい」かどうかは、さまざまな資料を読んでみないことにはわかりませんが、自分なりの「意味」や「理解」が見出せずに、情報の森に飲み込まれてしまい、自分の居所を見失っている方を見かけます。

ここでタイトルの「調べる前に書きはじめるvs調べてから書きはじめる」に戻ってきます。ここまでの話の流れから察して、「調べる前に書き始めるといいよって言いたいわけね」と考える方も多くいらっしゃるでしょう。その推察は当たっています。調べものを始める前に、ある程度、自分の考えの骨格を見出しておけるほうが、アートライティング(とりわけ批評文)は取り組みやすいのだろうなと思います。
ただ、はたして「調べる前に書きはじめる」ことが「できる」のだろうかとも思います。アートライティングで取り上げてみたいと思う対象は、きっと、今までに調べてみたことのある事柄ではないでしょうか。あるいは、これから調べてみたい事柄だから取り上げる、ということもありえます。「調べてから書きはじめる」ことになる可能性は高いでしょう。資料に振り回されることにもなるでしょう。自分独自の解釈や意味がなかなか見出せず、資料の隙間を縫ってどうやって「新しいこと」を見つけ出したらよいのだろうと、四苦八苦しながら考えつづけることにもなるでしょう。わたし自身も同じです。でもそれはそれで、苦しいけど楽しかったりもします。

取り止めのない話になってきてしまいましたが、このブログをお読みになっているみなさんは、「調べる前に書きはじめる」派でしょうか(むしろ「調べる前に書き始めることが“できる”」派でしょうか)。それとも「調べてから書きはじめる」派でしょうか。書きはじめ方としてどちらが正解というものではありませんが、気がつくと資料に振り回されている方が少なからずいらっしゃるのだろうなと想像します。思い当たる節のある方は、調べ物をはじめる前に一呼吸おいて、自分が何を感じているのか、何を考えているのかと問う時間を設けてみてもいいのかもしれません。

 

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